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1 無職チートの始まり

「意外と居心地がいいなぁ……ここ」


 もうどれくらいの時間が過ぎたんだろう。

 ドラゴンさんの口の中でまるで母体の中にいる胎児のように膝を抱えてじっとしているわたしがいます。

 口臭とネバネバさえ気にならなければ、ここで寝泊まりしてもいいくらい。


 ウトウトとしながら、わたしは暇なので考えます。

 記憶のないわたしが、これからどうしたらいいのかを。


 ドラゴンさんに拉致られて、何をされちゃうんだろうとか。

 拷問だったら嫌だなとか。

 このまま丸のみされちゃうのかな、とか。


「うーん……。どれもイマイチだなぁ」


 どうせなら、このままドラゴンさんと同化して意識を乗っ取って、わたしがドラゴンになるとかのほうが面白いのかな。

 まあ、そんなファンタジーなことが起こるわけないんだけど。


 ……それにしても、あまりにも暇です。

 せっかくだし、ステータスのチェックでもしていようかな。


「ステータス、オープン」


 小さい声でステータスを表示させます。

 あんまり口の中で騒ぐと怒られるかもしれないからね。



ユー・キハラ LV2

経験値:15

職業:無職

特殊能力:等価交換++、技術吸収+、過去の水鏡、ステータスチェック、幸運付与、魔術消去、ぼっち++、飲酒覚醒《極》



 ということで、さっきと同じステータスがドラゴンさんの咽頭あたりに浮かびました。

 ちょっと見えにくいけど、まあ大体読めるから良しとしよう。


「なんか色々あるけど……まったく記憶にないものばかりだから、どうしようもないんですけど」


 とりあえず『特殊能力』っていうのを試してみようか。

 ええと、どれにしようかな。

 ……じゃあ、この《魔術消去》っていうのを使ってみよう。


「むむむ……えい!」


 まあ、使い方とか当然分からないんだけど。

 それとなくニュアンスで使ったつもりになってみたりして。

 こんなんで特殊能力とやらが使えたら誰も苦労しない――。


『!? こ、これは……! 貴様、何をした……!?』


「へ?」


 急にドラゴンさんが苦しみだしました。

 え? まさか本当に特殊能力が発動した……?


『ぐっ……! 我が魔力が……魔力が消えていく……!』


 やばいこれ。

 なんか使っちゃダメなやつを使っちゃったっぽい。

 今わたしはドラゴンさんの口の中にいるから外とか見えないんだけど。

 でもなんか、どんどん高度が下がっている気がする。

 気圧の変化で頭痛がするから、何となく分かる。


『ちぃっ……! まさか究極魔術のひとつである《魔術消去》を使える者がいようとは……! ぬかったわ……!』


 そのまま急降下していくドラゴンさん。

 またもや万事休す。


 さようなら、みなさん。


 さすがに今度こそ、わたし、死ぬっぽいです。





 ごめん、生きてた。

 なんか平原みたいなところに不時着しました。


『う……うがああああああ! ぺっ!』


「痛い!」


 ドラゴンさんの口から強制的に吐き出されたわたし。

 三回転くらい前転したけど、両足を広げて開脚前転みたいな形でなんとか止まりました。

 セーフ。


『お……のれ! 我の魔力を消去するなど……ぐっ……! これが……どういうことか……分かっているのか……』


 どんどん縮んでいくドラゴンさん。

 もしかして、このままこの世から消えてなくなっちゃうのかな。

 わたしは何てことをしてしまったのだろう。

 謝らなくちゃ……!


「……ドラゴンさん。本当にごめんなさい。…………何か遺言はありますか?」


 ついそんな不謹慎な言葉を言ってしまった瞬間――。


 ――ドラゴンさんの全身を眩い光が覆いました。


「目がー! 目が潰れるー!」


 思いきり直視してしまったわたしはその場でもがき苦しみました。

 これが天罰というやつなのですね。


 光は平原を遥か彼方まで照らしました。

 そして数秒の静寂の後、そこに現れたのは――。


「うぅ……。我が力が底を突いてしまった……」


「……」


 私は何度も目を瞬かせました。

 だって仕方ないじゃない。

 そこにはショタがいたんだもん。


「…………誰?」


「……『誰』とは失礼な物言いだな。貴様が我の魔力を消去したのだろう。早く元に戻せ。今ならば我に対する貴様の所業に目を瞑ってやらんでもない」


 ショタがなんか言っています。

 すっごい可愛い。すっごい可愛い。

 なにこれ。

 髪は金髪だし、目はブルーだし、外国の子供みたい。


「君、名前は? どこから来たの?」


「……貴様、我の話を一切聞いていないな。もう一度だけ言うぞ。早く元の姿に戻せ。さもなくば命はないぞ。貴様とて命は惜しいだろう。我が魔力は竜族の源。すぐに同胞が異常を察知し、ここに飛んでくるぞ。それでもいいのか」


「飴食べる? あ、でも今は持ってないや。買ってあげたいけど、お金もってないし……」


「……」


 青い目がわたしを見上げている。

 たぶん睨んでいるんだろうけれど、ぜんぜん怖くない。むしろ可愛い。

 抱っことかしてもいいかな。


「……おい。その怪しい手つきはなんだ。死にたいのか、貴様」


 指を噛みつかれそうになり、流石に断念したわたし。

 まあ、いずれ隙を見て抱っこしちゃうと思うけど。


チンチロリーン。


「ん?」


 なんか変な音が聞こえて上空を見上げたわたし。

 なんだろ。携帯のアラームかな。

 ……持ってないよね、携帯なんて。


「ちっ、我の魔力を無効化した報酬か。人間なんぞに『経験値』など与える必要はないというのに……神め」


「経験値? …………あー」


 ショタの言葉の意味を理解したわたしはステータスを表示させた。

 実は「ステータスオープン」って言わなくても表示できるのは最初から何となく分かってたんだけど。


 なんともなしに視線を上に向ける。

 で、そこでわたしは固まってしまった。


「ふん、どうでもいいが早く我を元に戻せ。……おい。おいったら。…………駄目か」


 ショタの言葉がすごく遠くに聞こえる。

 だって、わたしにだってよく分からないことになっているんだもん。


 つまり――。



ユー・キハラ LV2654310

経験値:8756498300

職業:無職

特殊能力:等価交換++、技術吸収+、過去の水鏡、ステータスチェック、幸運付与、魔術消去、ぼっち++、飲酒覚醒《極》



 ――そう。

 これが、わたしの無職チートの始まりだったっていう。


 そういう、お話――。




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