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銀のコイン ―陸上戦闘艦「黄龍」起動―  作者: くまかご
1 最善の選択を……
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1-3

◆海に浮かぶ船と違い、陸の船=陸上船は速度があまり出ません。また、平らな水の上ではなく、起伏のある陸地を進む訳ですから、速度を出しすぎると危険です。

 巡視艇の操舵手は暗視装置付きのゴーグルをかけ、慎重に艇を操りウォーカーに近づいて行った。

 前甲板では機関銃手が、真っ暗な荒野の先を見透かして敵が見えるかのように、銃身を動かして狙いを定めた。巡視艇の船舷でも、手すりに備えつけられた防弾板の後ろで、ブリッジクルー以外の船員達が小銃を操作して、いつでも撃てるよう準備を整えた。


「距離千!」


 操舵手が告げた。


「距離五百で、探照灯を再点灯。距離四百で重機関銃、攻撃開始」


 藤堂が指示をすると、艇長が復唱して、艇内に指示を伝えた。

 大滝村を攻撃している二機のウォーカーは岩の後ろに隠れながら、それぞれが交互に銃撃を繰り返していた。後からくる陸上船を待っているのだろうか、あまり積極的な攻撃はしていないようだ。


「距離五百!」


 巡視艇の強力な探照灯が再点灯され、ウォーカーを照らしだした。

 光の中に浮かび上がったウォーカーは、皇国陸軍が使用しているような軍事用ベースの物ではなく、作業用ウォーカーを改造して機関銃を取り付けているようだ。

 突然後ろから強烈な光を浴びせられたウォーカーは、機体を反転させようとした。しかし、大滝村の銃撃から隠れながらなので、うまく動けない。


「距離四百!」


 合図を受け、巡視艇の攻撃が始まった。手前にいた敵ウォーカーは、巡視艇の十二・七ミリ重機関銃が放つ最初の連射を受け、前のめりに崩れ落ちた。

 隣にいたもう一機のウォーカーは、巡視艇の重機関銃の射線から逃れようと岩から出た所を、大滝村からの斉射を受けている。

 動きが取れなくなったウォーカーに、重機関銃の銃弾が火花をあげながら食い込んでいく。作業用ウォーカーの外装では、十二・七ミリの銃弾に耐えられるはずもなく、瞬く間に穴だらけになった。


「取舵、一杯!」


 艇長の指示で、操舵手が舵をきる。船体が大きく右に傾き、巡視艇は左へ進路を変更した。

 巡視艇の探照灯がやや左前方に向けられ、その先にいる敵船の姿を探した――双胴船のような船体に、高く突き出たブリッジを納める檣楼(しょうろう)――大型の陸上船に共通するシルエットを、夜の闇の中に浮かび上がらせた。


「敵船、距離千五百!」


 操舵手が次の目標である、敵船との距離を告げた。巡視艇と敵船は、互いに正対する進路となり距離を縮めて行った。


「艇長。一応、敵船に停船命令を出してくれ。中尉は――ここに居てください。行くぞ、軍曹」


 軍務に就いてから技術畑一筋で、荒事には向いていない千原はうなずいた。

 藤堂はベストに入っている通信機のスイッチを入れると、マイク付きのイヤフォンを左耳につけヘルメットをかぶった。宝田とお互いの装備を確認し小銃を受け取ると、藤堂達は船舷に駆け降りた。


 ◇


 二人が船舷に降りると、武装した船員達が所定の位置で小銃を構えていた。普段は巡視艇の航行に携わる作業をしているが、軍人なので当然戦闘訓練も受けている。

 藤堂は左舷の防弾板の後ろにしゃがみ、船舷に待機している戦闘班長に指示を出した。


「江川伍長。重機関銃は――今度は、距離五百で攻撃開始――敵船のブリッジを狙え。ほかは、距離三百で各個に攻撃」

「重機関銃は、距離五百で攻撃。ほかは、距離三百で各個に攻撃。了解しました」


 隣の防弾板に控える江川が、命令を復唱し乗組員に伝えた。

 停船命令のサイレンが鳴り響く中、藤堂も自分の小銃を操作して射撃の準備をした。敵船は停船命令を無視し、大滝村に向かって進み続けていた。

 藤堂は首からさげた双眼鏡を目に当て敵船を観察した。距離が近づくにつれ細部が見えてきたが、その船形は見覚えがあるようでないような、はっきりしない形状だった。


 五十メートル級の陸上船は、大戦前なら数多くあったようだが、現在では民間用の輸送船が数隻運用されているのみで、陸軍でも保有していない。推進力となるAC機関が、大戦前とは比べ物にならないほど非力だからだ。


 双方に距離があるにもかかわらず、敵船の甲板のあちこちから、発射光が見え始めた。

 小銃による発射光らしいが、まだ有効射程距離に入ってもいないのに撃ち始めているようだ。ざっと数えると、十五ほどの光が見える。

 敵船からの攻撃は小銃ばかりで、備え付けの重火器は無いようだ。それでも時折、船体に小銃弾が当たる小さな音が聞こえた。


「距離五百! 重機関銃、撃ち方、始め!」


 江川の号令で、前甲板の重機関銃が敵船に向けて攻撃を開始した。重機関銃から放たれた銃弾は、光の線を描きながら次々にブリッジに飛び込んで行った。


「距離三百! 各個、撃ち方、始め!」


 藤堂は防弾板の後ろで片膝立ちの姿勢をとり小銃を構えると、敵船甲板上の発射光を狙って引き金を引いた。

 船員達は短い連射を繰り返し、甲板には無数の空になった薬莢が転がった。

 すれ違いざまの数十秒で、巡視艇からの銃撃は確実に敵船の人影を捉えて行く。


「撃ち方、止め! 方向転換に備えろ!」


 江川の命令で銃撃を止めると、手すりに掴まり足を踏ん張った。

 陸上の船は速度が出ない分、海の船に比べ小回りが利く。横滑りと方向転換を合わせたような挙動で向きを変えると、巡視艇はすれ違ったばかりの敵船の後ろを追い始めた。


「艇長、敵船を止められなかったら、左側から並んで巡視艇をぶつけてくれ」


 藤堂は、無線で艇長に指示をした。大滝村はこの先十一時の方向にあり、このまま敵船を村に入れるわけにはいかない。

 巡視艇は速度を上げながら、敵船の左後ろから接近した。重機関銃は攻撃を再開し、敵船に向けて銃弾を放ち続けた。最初の交戦で見えた敵船の小銃からの発射光は、今は一つも見えない。


「……敵船の動きが、おかしいですね」


 宝田がつぶやいた。

 確かに回避行動で右へと進路を変えたように見えた敵船だったが、今もそのまま大きく右へと進み続けている――その先には、小高く盛り上がった丘があった。


「撃ち方、止め!」


 敵船の異常な動きに気付いた江川も、重機関銃の射撃を止めさせた。巡視艇は速度を維持しながら、敵船のやや後ろに位置取り追走する。

 敵船は速度を落とさず、船の右前から丘に乗り上げていった。

 丘の緩やかなすそ野から、急角度でせり上がった頂付近に乗り上げた所で、船体が左に浮き上がり大きく傾き始めた。だが、船体下部の推進機は稼働をし続けている。

 敵船はさらに傾き、ほとんど垂直になった所で少しの間進み続けた。側面の鋼材と地面が擦れ、火花が散る。

 ついに敵船は、金属のきしむ不気味な音を立てながらゆっくりと横転し始めた。

 全長五十メートル、全幅三十メートルの船体が、上部にあったブリッジや構造物を押しつぶしながら転覆して行くのを、藤堂達は唖然として見つめた。


 敵船は、完全に裏返った所で動きを止めた。



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