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銀のコイン ―陸上戦闘艦「黄龍」起動―  作者: くまかご
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1-2 ※作業用ウォーカー左面図

◆大戦から復興したこの世界の技術レベルは、1970~80年代ぐらいでしょうか。パソコンが、マイコンと呼ばれていた時代ですね。ちなみにファミコンは、1983年発売です。

◆作業用ウォーカー

挿絵(By みてみん)

 ……何か……おかしい。


 先程まで荒野を照らしていた満月は山脈の西に沈み、辺りを照らすのは巡視艇に設置された探照灯のみ。

 にもかかわらず、前方の丘の輪郭がぼんやりと浮かび上がっていた。

 丘の輪郭は、強くなったり弱くなったりを繰り返している――という事は丘の向こうに、明るさの一定していない光源があるという事だ。


 まるで、炎のように。


 藤堂と同じ結論に達した宝田が、船内に駆け込んで行った。ブリッジでも、異常を察した艇長が双眼鏡で前方を観察していた。すぐに宝田が暗視機能の付いた双眼鏡を二つ持ってきて、一つを藤堂に渡した。

 暗視機能を作動させて、双眼鏡を構えた。ピントが合うとズームをして、丘の周辺を拡大する。丘の向こうでは、確かに火事が起きているようだ。大滝村に防衛用に設置された監視塔からの、サーチライトの光の筋も見えた。


「少佐、左、十時です!」


 宝田が叫ぶ。

 双眼鏡を左に振ると、パパパ、パパパと断続的に銃撃の小さな光が見えた。


「艇長、銃撃だ! 左、十時!」


 藤堂は振り返り口に手をあてて、ブリッジに呼びかけた。

 艇長は藤堂が指さす方向に双眼鏡を向けると、すぐにうなずきブリッジクルーに振り向いた。船内に警報が鳴り響き、照明が赤に変わる。

 艇長から、船内放送で指示が発せられた。


「総員、戦闘準備。大滝村にて火災発生、および銃撃戦の兆候。本艇はこれより、全速にて当該地域に向かう」


 船内から出てきた機関銃手が、前甲板に備え付けられた装甲板付きの重機関銃の覆いを外し、弾倉を取り付けた。

 藤堂達はドア・ハッチをくぐって船内に入ると、階段を上り急ぎブリッジに向かった。


「――少佐、中尉」

「――艇長」


 お互いに敬礼をして、藤堂と千原はブリッジに入った。

 赤い光に照らされた薄暗いブリッジでは、既に全員が防弾ベストとヘルメットを着用して配置についていた。

「先程、大滝村守備隊から通信が入りました――十五分ほど前に、正体不明の武装勢力からの襲撃、交戦中。敵の数不明――至急、救援を請う」

 ブリッジの中央にある艇長席の傍らに藤堂が立つと、艇長が振り向いて報告した。


「本艇は、全速で航行中。大滝村へは、十分ほどで到着します。現在も散発的に、大滝村への銃撃が続いています」


 藤堂はうなずいて、大滝村周辺の地形図を見た。


「少佐、中尉、これを」


 宝田が藤堂達の防弾ベストとヘルメットを持って、ブリッジに入ってきた。肩には二挺の自動小銃を掛けている。

 宝田に防弾ベストを着るのを手伝ってもらいながら、もう一度地形図を見る。藤堂は少し考え、艇長に指示をした。


「艇長。進路を左、十時に――本艇を、敵の後ろにつける様にしてくれ」


 艇長はうなずき、操舵手に指示を繰り返した。巡視艇は少し右に傾くと、進路を左に修正した。


「大滝村守備隊から通信――敵は、ウォーカー三機。内、一機を制圧。残り二機は大滝村外周部から、散発的に銃撃を繰り返しています」


 通信士が振り返り報告した。

 ウォーカーが三機だけで襲撃? 藤堂は不思議に思った。

 〈ウォーカー〉とは操縦席に歩行脚がついた二足の歩行機械で、一般の作業用ウォーカーのほか、戦場で偵察や大型のランドウォーカー――通称〈戦機〉――の随伴として使用される武装ウォーカーがある。

 大滝村でも守備隊の武装ウォーカーと、村の作業用ウォーカーが何機かあった。武装はせいぜい七・六二ミリ機銃を積むくらいだ。

 それが、たった三機で襲撃……。


「この巡視艇の、防弾性能は?」


 藤堂は艇長に尋ねた。


「ブリッジ周りと機関部は、二十ミリに耐えます。それ以外は、小銃弾を弾くぐらいです」

「もしかしたら船同士の、撃ち合いになるかもしれない――ウォーカーが、単独で行動する事はないから――後方に、ウォーカーをここまで運んできた船がいるはずだ」


 艇長はうなずくと、コンソールからマイクを取り上げた。藤堂の推測を艇内に伝え、レーダー手に船影を見逃さないように指示した。

 藤堂は左手を傾け、腕時計を見た――襲撃開始から、二十分ほど経っている。後方の船が、すでに大滝村に向かって突入していてもおかしくはない。


「敵船発見!」


 レーダー手が告げた。


「十時の方向、距離四千五百。五十メートル級一隻、船型不名。船影は、他に見えません――大滝村へ、時速十五キロで進行中」

「五十メートル級? 間違いではないのか。そんな大きな陸上船が、何故こんな所に」


 艇長が驚いて訊き返す。皇国では五十メートル級の陸上船は、貨物用が数隻存在するのみだからだ。

 藤堂はレーダー手が告げた方向に、双眼鏡を向けた――今まで、丘の向こうで探知できなかったのだろう――確かに、遠くにゆっくりと大滝村に進んで行く光が見えた。ここからでは、大きさまでは分らない。

 艇長の指示で、ブリッジの上に備えつけられた探照灯が消された。


「今頃になって、敵船が動き始めたのか? 何と言うか……まるで、素人のようだな。こちらとしては、助かるが……」


 藤堂の言葉に、艇長も宝田も同意してうなずく。


「大滝村まで、二千。本艇が先に、敵ウォーカーの後ろに入れます」


 操舵手の報告に、藤堂が今後の行動を指示した。


「このまま、敵ウォーカーの後ろから重機関銃で攻撃する――ウォーカーの撃破には、こだわらない――大滝村の守備隊で、十分対処できるだろう。本艇はそのまま敵船の頭を抑える進路をとり、これを迎え撃つ」




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