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銀のコイン ―陸上戦闘艦「黄龍」起動―  作者: くまかご
4 荒野に少女……
15/43

4-1 ※大滝村~八丈湖市地図

◆短めの第4章です。

ウォーカーの天蓋キャノピーはガラス張りで、炎天下ではとても暑くなります。文中では言及していませんが、すだれなどの日よけでしのいでいます。

◆日本皇国/北部

挿絵(By みてみん)

 大滝村守備隊の休憩室の窓は開け放してあり、少し肌寒い風が吹き込んでいる。雪華が立ち上がり、鎧戸を閉じて窓を閉めた。

 ここまで話し終えた裕司は、いったん言葉を切り、手に持っていたお茶を飲んだ。

 想像もできなかった裕司の話に、休憩室の一同は黙りこくっている。

 あまり口を挟まずに聞いていた藤堂は、考えをまとめるように少し目を閉じた後、裕司に尋ねた。


「では、その後は陸上船に捕まっていた、という事か……」

「はい。鳴海さんが担当の、調理室にいました。昼は調理室を手伝って、夜は食堂で寝ていました」

「裕司君――君が捕まっていた陸上船――日本共和国と名乗る彼らは、どれくらいの勢力で大滝村に来たか分かるかい?」

「僕達を捕まえた陸上船――八丈では見た事がない船――に、途中で僕達が学校を改造した陸上船が合流して、二隻で来ました」

「大滝村を攻撃したのが、一隻だけだったのは?」

「途中で、僕達の乗った陸上船の推進機が故障したからです。あの、大きな渓谷から一日くらい手前の所でした」


 藤堂はうなずいた。大滝村の南には、数キロから数百メートルまで幅がまちまちの、長く続く渓谷がある。


「修理には、三日程かかるという事で、その間にもう一隻が先に……せ、せ……」

「斥候だね」

「はい、斥候に出る事になりました。その時に、僕はウォーカーが操縦できるから、一人だけそっちに乗せ替えられました――本当は、先に来て見張りをするだけだったんです。でも、大滝村に着くと乗組員――僕を捕まえた兵士――が『この村は大した事ないぞ、自分達だけで占領すれば分け前が増える』って言いだして……」

「それで、もう一隻を待たずに攻撃してきたのか」

「僕は、敵の目を引き付けるために、一番大きな敵の前を走り抜けろと言われました。僕のウォーカーに、武器はついていないから攻撃されないと」


 北山曹長が、藤堂に目をやる。藤堂は少し考え、うなずき返した。


「君のウォーカーに……爆発物が仕掛けられていたのは、知っていた?」


 裕司は絶句し、首を振りながら答えた。


「……単なる脅しだと……思っていました……。奴らは事あるごとに『お前が逃げようとしたら、ガキ共もお前も吹っ飛ばしてやるからな』と言っていました。本当に……仕掛けられていたんですか? でも、あの時爆発したのは……?」


 裕司は、混乱しているようだ。北山が引き継ぎ、説明した。


「あの時爆発したのは、近くにあったガスタンクだよ。流れ弾が当たったんだ。今話した爆発物は、君のウォーカーの脚部の間に仕掛けられていた。でも、重要な装置がついていなかったので、爆発しなかったようだ。爆発物に気付いた君が、細工したのかと思ったが……」

「違います……まったく気付きませんでした」


 藤堂はうなずくと、北山に向きなおった。


「そうだ、北山曹長。ここしばらくの、八丈基地との定時連絡は通常通りでしたか?」

「はい、通常通りでした。とはいっても、普段から『異常なし』の二言三言でしたが――ですが、今の話と符合する事がありました」

「と、言うと?」

「ちょうど、八丈湖市が攻撃された頃を境に、担当の通信士が交代したのです」


 大滝村と北海道の間には、一万メートルを超える日本山脈があり、直接通信する事ができない。そこで通信は日本山脈を避ける形で、大滝村から八丈基地、東海道と中継されて北海道へと伝えられる。


「少佐ご出発の連絡も、きちんと伝えてきました――怪しまれたくなかったのでしょう――今後の通信は、どうしますか?」


 藤堂は腕を組み、右手であご先を摘んだ。藤堂が考え事をする時の癖だ。


「大滝村が襲撃された通信は、しましたか?」

「はい、銃撃を受けた時点で、緊急通信として報告しました。その後の事は、少佐にご報告してからと思い、通信はしていません」

「……では『正体不明者による襲撃あり。陸上船、一。小型ウォーカー、三。他、不明。陸上船、操作を誤り自沈。ウォーカー、三は撃破。すべて、生存者なし。戦闘状況、終了』と報告してください。その後は『調査中、詳細が判明次第報告』としてください」


 少し考えた後、藤堂は指示した。


「了解しました」


 北山が、敬礼して了承する。


「裕司君、もう少し聞きたい事があるのだが」

「はい」

「みさきさん達が捕まっている陸上船だけど、どんな船なのか、どんな武装――武器を積んでいるか、分かる事を教えてくれるかい?」

「大きな陸上船です。学校を改造した陸上船と、同じくらいの大きさです。でも、学校みたいに古い船を改造したのではなく、もっと新しい感じでした。武装については、よくわかりません――でも、武器を積んだウォーカーは四機ありました」


 裕司は分かる範囲で答えたが、敵の戦力を知るには不十分だ。

 藤堂は、もう一度腕を組みあごを掻いた。


「――藤堂少佐、意見具申よろしいでしょうか?」


 宝田は立ち上がると、藤堂に向きなおり申し出た。


「うん、何だ?」

「敵の――共和国の陸上船には、皇国の民間人が人質として拉致されています。共和国陸上船との戦闘の前に、人質の救出を進言します」


 宝田が礼をすると、裕司も立ち上がり、見様見真似で同じように礼をした。


「ああ、裕司君、座って――妹さん達の事は、考えていた――」


 藤堂は手を下に振り、ソファーに座るよう促した。


「――北山曹長、大滝村から八丈湖市までが描かれている地図をお願いできますか?」


 北山はうなずくと、部屋のはじに控える兵士に指示をした。すぐに兵士は、大きな地図を持って戻ってくると机の上に拡げた。


「人質の救出と敵戦力の偵察、両方で行きたいが……もう一隻の陸上船がいま何処にいるか、おおよその位置はわかるかい?」

「はい……」


 しばらく考えた後、裕司は地図の一点に指を置いた。


「修理に三日かかったとすると、明日の夜までにこの渓谷に着きます。明後日には渓谷の端まで、三日後の昼ごろには大滝村が見える所まで来ます」


 藤堂を始め、一同が地図を覗き込む。八丈と大滝村の間には渓谷があるので、それを大きく迂回する進路を示した。


「これからの事を考えると、できるだけ早く陸上船に接触したいが……」


 後ろから地図を覗き込んでいた麗奈が、雪華を肘でつついて地図を指差した。

 指が指す部分を見つめた雪華は、麗奈と顔を見合わせうなずいた。


「どうした? 何か気付いた事でも?」


 雪華達の様子に、藤堂が振り向いて尋ねた。麗奈がすっと身を引き、結果的に雪華が一人で前に立つ形になった。


「あ、あのう、はい。気付いた事があります!」


 雪華は、思わず敬礼して答えた。一瞬の間が空き、雪華は真っ赤になって敬礼を解く。


「――どうぞ、お願いします」


 藤堂は、目元に笑みを浮かべながら促した。


「明日の夜までに渓谷の――この辺りに来るんですよね?」


 先程、裕司が示した所に指を置くと、雪華はそのまま左へ渓谷をなぞり、幅が狭くなっている所で止めた。


「――ここに、ウォーカーで渡れる橋があります」


 ◇


 太陽は天頂近くまで登り、熱せられた荒野の地面から陽炎が立昇る。

 藤堂は後部席に備え付けられたミラーで、後ろの様子を確認した。ゆらゆらと揺れる空気越しに、宝田と裕司の乗るウォーカーが見えた。

 前部の操縦席に座る雪華は、時折クリップボードに挟んだ地図と地形を見比べながら、迷う事なくウォーカーを進めた。大滝村に入る時も乗せてもらったが、軍人の藤堂から見てもかなりの腕前に感じる。


「ウォーカーの操縦は、いつ覚えたの?」

「……乗り始めたのは、二年前です。父の遺したウォーカーを、乗らないままにして置くのは悪い気がして。それで、免許を取って乗り始めたんです」

「……そうか、二年前か……お父さんは、残念な事だったね」

「はい、ありがとうございます……あの時、少佐さんには本当にお気遣いいただいて」

「ああ、雪さんのお父さんとは、古い知り合いだったしね」


 何気ない会話のつもりだったが、雪華に辛い事を思い出させてしまい、藤堂は申し訳なく思った。

 雪華も藤堂の気持ちを感じ取ったのか、努めて明るい口調で続けた。


「でも、本格的に乗り始めたのは、その後なんです。麗奈ちゃんが『橋を作ろう』って言いだして」

「橋を? これから渡る?」

「はい。村中を巻き込んで、大騒動でした。結局、記念なんとかって大げさな名前がついて、みんなで手分けして作ったんです」

「それで、作業のためにウォーカーを?」

「ふふっ、楽しかったですよ。学校が休みの時は、テントを建てて泊まり込みで作業をしたり――」


 藤堂はふんふんと、相槌を打った。


「――その時、おじさん――麗奈ちゃんのお父さん――に、ウォーカーの整備を習って。それで今年からは、立山モータースで整備士見習いです」

「……ああっ、しまった!」

「どうしたんですか?」


 藤堂の声に、雪華が驚いて振り返った。


「就職のお祝いを用意していたのだけれど、巡視艇に置いてきてしまった……」

「そうなんですか――じゃあ、楽しみにしていますね」


 しょんぼりとする藤堂とは対照的に、雪華は微笑んで前に向きなおると、再び地図を取り出して地形と見比べた。


「――少佐さん、橋が見えてきましたよ」


 雪華が、前を指差した。

 藤堂は、雪華が示した方角に目をこらした。しばらく前から渓谷は見えていたが、橋らしき物は何も見えない。


「ほら、あそこです。あの大きな岩の右側、少し小高くなっている所です」


 言われて見ると、確かにやぐらのような構造物が二つ見えた。そこから黒い線が、渓谷に向かって伸びていた。


「……橋?」

「はい、橋です」


 少し自慢げな雪華に、藤堂は威厳を持って答えるしかなかった。


「なかなか、立派な、橋だね……」



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