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第十五話『先輩の気迷い言と雷のような訪問者』by無駄に哀愁のある背中

 フフンフン。

 鼻歌交じりで、ロッカーからハンガーを取り出して、脱いだバイトの制服を掛ける。私服に着替え終わってからはずっと腕時計と店の休憩室の置時計を往復するだけの目は落ち着きがなかった。

「今日は随分とお機嫌だな」

「あ、先輩、いたんすか?」

「少し前からな、機嫌がいいことはいいこった」

「別に機嫌なんて良くないっすよ」

「俺を馬鹿だと思ってるのか? あのな、いつもだったら俺とこの時間中に話すのが嫌で、すぐ帰るくせにそんなに休憩室にいるんじゃあ、ご機嫌を見せびらかしているみたいだぞ」

「そんなことはないっすよ」

 自分が機嫌がいいのははっきりわかっていた、それが隠せてないこともわかっている。でも、この先輩にそれを見透かされていることは信じたくなかった。

「まあ、俺としては天気屋のお前は面白いからいいからよ」

 先輩は吸っていたタバコをまだ長いの消すと、だるそうに立ち上がった。

「あれ、どこ行くんすか、トイレ?」

「いや、トイレじゃねーよ、仕事だよ」

「先輩っていつもタバコをギリギリまで吸ってから、行くじゃないですか?」

「どうやら、俺が観察してると思っていたが、どうやら俺も観察されていたみたいだな」

「僕も自分で言ってちょっと驚きましたよ」

「今日のお前は見たくなくてな。どうせ恋愛がうまくなり始めてるとかそんなんだろ? でも、どこかあやゆい」

 なぜかその言葉は胸に刺さった。

「まあ、恋愛ってものは何が起こるか、わからんもんだぞ。一つ困難が去ってもまた来るものだ。思いもよらない介入があったりなかったりしてな。俺も21年しか生きてないけどな、いろいろあったよ」

先輩は店の方にいるドアを開けながら言った。

「先輩って、まだ21だったんすね。老けてますね」

「うるさい」

 先輩はそのままバイトへ行った。俺は彼女との時間が近づいてきたので、店のゴミを持って外に出た。でも、どうもさっきの言葉が気になる。なぜか、困難が近づいてきているような気がした。単に言われたから気になるだけだろうか?

「うわ」

 顔になにか糸のようなモノが引っかかった。手で払うと透明の糸がくっついている。少し上を見上げると、下の部分が崩れた蜘蛛の巣があった。店の路地裏といえど、街に蜘蛛なんて住んでるのかっと思った。


     ○

 時間はそろそろ八時半。ドキドキが止まらない。初めての恋愛だと思う。授業中だって、寝ている時だって、食事中だって、一度も慶さんの顔が離れない。八時くらいにお風呂を出てからずっと携帯と窓から見える公衆電話を交互に見ている。週2たった二回、彼がコンビニの夜勤のあとに夜8時半から9時まで30分だけ。それ以上はお父様に怪しまれるかもしれないし、使用人の夕食時間だから、使用人も来ない。私と彼だけの30分。

 プルルプルル。

 電話が突然なった。私はドキドキのあまり一度、置いてある携帯を取れず空振りしてしまった。それから一回呼吸してから、電話を出た。

「もしもし!」

 だけど、次に聞こえた声はどう考えても彼の声ではなかった。

『宮野美葵様の携帯でしょうか?』

 声の主は少ししょげた声で、おそらく老人のかたの声だった。

「ええ、そうですが? あのあなたは誰でしょうか?」

『八木家で使用人をしております池坊熊蔵と申します。今、八木亨様に変わりますので』

「え? え?」

 意味がわからなかった。八木グループといえば、私の許嫁の人ってこと。でも、これまで何にも音沙汰なかったのになんで今? 入籍だって、予定では大学卒業後だったはずなのに。

『もしもし』

「えっと、もしもし」

『初めまして、八木亨です。宮野美葵さんですよね?』

「は、はい」

『緊張しなくてもいいのに、僕たちは将来を誓った仲なんだから』

「え、まあ、そうですね」

『まあ、緊張しないでよ。俺の親父や君のお父さんは結婚前にお見合いさせたあと、2回くらい食事させて結婚式のつもりらしい』

「そうなんですか……全然知らなかったです」

『敬語も止めてよ、ね? でさ、俺としてはそんなのは嫌なわけ。だから、きちんと会おうと思って今、そっちに向かってるんだ』

「え? なんで今日なんですか、こんな夜遅いのに?」

『さっき電話した俺の使用人がね、思いついたらさっさとやれってうるさくてね。そっちのお父さんにも連絡したら、大喜びだったみたいだから大丈夫だよ』

「え?」

『突然だけどびっくりしないで、俺も緊張してるしね。じゃあ、もうそろそろ車が着くから』

 電話はそこで切れてしまった。心が動転した。焦った結果、窓際に行った。すると、慶さんらしき人が公衆電話に近づいているのが見えた。一瞬、ほっこりとしたが、その次の瞬間で電話しないでーと思った。彼がゆっくりと公衆電話に寄ってくるのを見ていると、その横を黒塗りの高級車が通り抜けた。

(待って、二人共待ってよ)

 心の中の叫びはもちろん聞こえない。すると、ノックが聞こえた。

「美葵、いるかー?」

「はい、お父様」

「これから、例の八木亨君がやってくる。今日がお前にとって素晴らしい日になるのは間違いない。今すぐ、おめかししなさい」

「は、はい」

 私はウォークインクローゼットの中に入って仕方なく服を選び始めた。

適度君に爆弾投げます(笑)

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