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第十二話『彼(か)の夢』by49号

はい、今回は助っ人で49号さんに委託しました。49号さんは私のリア友でして、本来なら本名で小説を書いているそうです!

 カーペットの幾何学文様が、なぜだか滲んで見えてくる。大臣は、自分が情けなく涙していたことに初めて気付かされた。額をこすりつけて平伏する彼に、深紅のマントを纏った若い国王が浮かべていたのは、扱いかねて呆れたような苦笑いだった。

「大泣きすることもないだろう」

「いいえ……老い先短い私めにとって、生涯にまたとなき光栄でございます!」

 肥えた身体をわななかせながら、大臣が再び土下座した。王も同僚たちも、叱るべきか一緒に喜ぶべきなのかも分からなくて、困った顔を見合わせるしかなかった。大臣が人目もはばからず泣いていたのは、彼の一人娘・シェヘラが成人する来年を待って、王妃とすることが決まったからだった。娘がそうとなれば、誰だって有難く思うものだろう。自分が年寄りであればなおさらだ。

 それに大臣が泣いていたのは、己の名誉になるから、などという些細な利己心とは違っていた。ただ、彼自身すら驚くほど純粋に、娘の結婚ということだけが幸福だった。疫病に妻を奪われ、これまでろくな教育も施せずにいたシェヘラへ、今までずっと責任を感じていた。

 やっと幸せにしてやれる……

 胸の中が、まるで氷が融けたみたいな温もりを持っていた。

 しかし、意気揚々と家に帰った大臣へ、娘は言葉ひとつ掛けなかった。

「シェヘラ。来年になったら、お前は国王の后になるんだ!」

「……」

「よかった、よかった。父さんは本当にうれしいぞ」

「…………」

「結婚できる。これで、やっと、幸せに――」

「…………ト、サマ……」

 無理やり笑顔を作っていた父に、彼女は大きな瞳を向けた。その内側に、少年の、かつてシェヘラと何度も会っていた少年の姿が見えたように思えて、大臣は言葉を継げずに嗚咽を洩らしそうになった。彼は、少年のことを知ろうともしないまま追放した。もう去年のことで、ただ卑しい身分の出だったからというだけの理由だった。

 娘が恋願った相手を追い出した時から、少年は殺してしまった、そう嘘をつき続けている。探すなんて真似をして欲しくない親心の許に、彼女を欺く言葉は紡がれていた。

 それは初めての嘘ではなかった。シェヘラの病気を移された妻が死んだときだって同じだった。母さんは追い出した、と。優しい気性だった娘に降り掛かろうとする罪悪を、自分が身代わりになって受け止めてあげようと思っていたのだ。

 けれど、そんなことはもう関係ない。

「シェヘラ。答えてくれ、教えてくれ……」

 左胸を占領していった黒に突き動かされ、大臣は娘の両肩をむんずと掴んで揺さぶる。すっかり衰えた腕力であっても、痛みで正気を取り戻せると信じたかった。全てが手遅れだと、心の奥底で諦めている自分が憎たらしかった。

「……ケ……」

 言葉が、半分開いた口の間から煙のように流れてくる。

 笑わない。悲しまない。喜ばない。泣かない。怒らない。

 死んだ妻と似て均整のとれた表情が、一つ、また一つ、意志を失っていく。

 ロウソクの灯りが消える。

 視界は、影が差したように暗くなっていく。


「やつ、な……を言うな!」

 掛け布団を跳ね飛ばすようにして目覚めた後、思わず息を止めた。何秒かしてから大きく吸い込んで、自分が夢を見ていたこと、そして今が、大臣も国王もない世界の午後七時だということをやっと知る。普段、夢では記憶に残っている場所や人ばかりが登場するものだが、あの物語に見覚えなんてなかった。いつか娘の部屋で見つけた映画のパンフレットに、昔から何度もコピー&ペーストされたような筋書きが載せられてあったから、きっと本当の記憶とないまぜになって出てきたのだろう。

 ふとベッド脇の机に視線を向けて、夏の陽光が封筒へ差しているのを見つけた。荒い呼吸を整えつつ、温かくなったそれを開いてみると、中には美葵の置き手紙があった。

『友達の家に泊まります! なので、夕食は要りません』

 意識の外からため息が洩れる。どうしようもなく、娘は偽るのが下手だ。あの気弱な男と会うことくらい、誰に教えられずとも分かりきっていた。ほぼ反射的に、日陰で冷えていた携帯電話へ『何をしている』と打ち込み、すぐさま送ってやろうと思った。

 彼女とて、足の赴くまま行動して許される歳ではないのだ。あるべき方向へ娘を教育することこそが、親の存在意義だった、少なくともそう確信していたはずだ。


 ……ト……サマ……

 ……ケ……


 けれど、なぜかボタンを押すことはできなかった。脳裏にありありと浮かぶ妙な悪夢のせいかもしれない。言い訳がましく考えて、すぐにそんな自分が嫌いになる。送信しますか、と無機質で迫ってくるような画面を閉じられないまま、一人きりで会社へ向かった。

 結局、彼女へメッセージを送信したのは夕暮れ時だった。『?』などという、曖昧極まりない記号を文末に添えて。

 きっと、あの青年は自分を恐れるだろう。娘には輪を掛けて嫌われるだろう。

 これは罰だと、思う。

一応、49号さんのアカウントはこのサイトにあるそうなので、是非登録を(笑)

あと、伏線回収のためにもう一回書いていただけることになりました。あと、もう一回お願いします。

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