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第十一話『先輩の打解け言』by鯉

意外と時間がかかりましたね(笑) ということで、先輩のお言葉シリーズ三つ目!

 人を押しのけて、映画館の出口へ走った。頭の片隅で、安っぽいドラマにこんなシーンがあったな、などと考えていた。大通りのどちらを見ても、映画館の中にも、彼女は見当たらなかった。

 映画館の中に戻ったり、また外に出てみたり。見つけられっこないと分かっていながら、僕は数十分以上もの間、あたりをうろうろしていた。

 家には帰りづらい。珍しくめかしこんでしまったのがばれ、誰と何をしに行くのか知られてしまったからだ。成り行きとはいえ小遣いまでもらってしまったのですごすご帰るのも気まずかった。

 今日は大学も休みだ。行ったところで、まだ研究室に所属していない僕は居場所がない。

 どこか適当な場所で暇をつぶそうにも、そんな経験はなかった。どこへ行けばいいのか分からない。

 映画館から近くの駅まで、未練を残しながら宮野さんを探しながらゆっくり歩いている間には、ちょうどいい行き先が見つからなかった。機械的に券売機を操作して地元まで帰る切符を買うと、間もなくやってきた電車に乗った。


「で、バイト先に来たわけだ。なるほどな、お前らしいと言えばお前らしい結論じゃね?」

 よりにもよって先輩がシフトに入っていた。

「こんなとこでサボってていいんですか」

「見え透いた負け惜しみなんて言うんじゃねえよみっともない。勤務マニュアルにあるだろ、定期的に休憩をとりましょう。マニュアルにちゃんと従う俺、なんて模範的」

 彼が天井に向かって煙を吐く。

「……高校の時から煙草こっそり吸ってたくせに」

「それとこれは別。お、もしかして羨ましいか? 今なら一本やるぜ?」

「いりません」

「って言うと思った」

 ニヤニヤしながら肩をすくめている。

 やっぱり来るんじゃなかったと思いながら部屋の隅に居場所を作った蜘蛛に目をやっていると、

「お前さ、いつもそうやってなよ」

 唐突にそう言われた。

「……はい?」

 視線を戻すと、いつも軽薄そうなニヤけ顔をさらしている先輩が、かつて見たことないほど真面目な表情をしていた。

 思わず背筋が伸びた。

「人の前だと固くなってんだろ。お前、反射的になんか言い返すの、俺だけなんじゃねえの?」

「…………」

「仲良くなりたいんなら遠慮すんな。それが本人だろうが本人の親だろうが。大体な、俺に言わせりゃその女はオススメしねえな。男がこんなこと言うのは有り得ないってのは置いといてだな、『僕とお父さんとどっちが大事なの!?』って言われたら父親を選ぶってことだろ」

「違う、だって彼女のお父さんは厳しくて――」

「何も違わない。好いたから庇ってるだけだ。よく考えてみろよ、その後の予定まで決めておきながら、理由も事情の説明もなしに突然『ごめんなさい』だぜ。父親云々もお前が勝手に推測したことで、本人からそう言われた訳じゃない。もしかしたら体よく振られたのかもしれねえぜ? お前は怒っていいくらいなんだよ」

「…………」

「大抵、男は未練がましくて、女はさばさばして次を考えんだよ。恋は盲目っていうだろ、諦めて次のコでも探せ」

 何を言っていいものか、分からない。頭の中が熱を持ち真っ白になっている片隅で、先輩の言っていることは間違っていないんじゃないかと考えている自分がいた。

「それでもその子がいいんなら、今度は遠慮なく接してみろよ。何か言う前に考えないで、発言してから後悔しろよ。俺と会話してる時に『これを言ったら嫌がられるな』とか考えねえだろ。言っとくがな、長く彼氏彼女でいたいなら相手に一言いう前にいつも考えるようじゃダメだからな。一緒にいる時間が長くなるほどお互いに疲れるだけだ」

 呆然としている僕の前で、先輩は短くなった煙草を灰皿に擦り付けて立ち上がった。いつものようにかったるそうに、ポケットに両手を突っ込んで部屋から出ていった。

 一人残された僕は、空調が残った煙を吸い出そうと躍起になっている音を聞いていた。

うちとけごと【打解け言】

うちとけて話す言葉

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