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第十話『私を縛るもの、僕を進ませてくれないもの』by屋根の上のばよりん弾き

随分の間が空いてしまいましたね。唯一の救いはこの小説には定期購読者がいないということでしょうか?(笑)

とはいえ、時間が空いて申し訳ありませんでした。

     ○

 目の前に広がる大きなスクリーンでは、下層民出身の主人公がヒロインである上流貴族出身の女の子とようやく出会い、二人でデートを楽しんでいるシーンが映されていた。もちろん、ヒロインのお付きのものにばれないようにこっそりと。ありふれたラブ・ストーリー、展開も予想できる。だけど私は楽しかった。映画の内容なんて正直どうでもいい。今は隣にいる七海さんと、同じ時間を共有できるだけで満足だった。

 私もこんな情熱的でロマンティックな恋ができたら、そう思ったときだった。ふっ、と主人公の顔が七海さんの顔に変わった。ヒロインの顔にも自分の顔が重なった。画面の中の二人は互いに顔を寄せると、ややぎこちなくキスをした。その途端、かあっ、と顔が熱くなった。何考えてるんだろう、私。こんな子供みたいな妄想をするなんて、はしたない。まさかとは思うが七海さんに私の妄想が悟られたりしてないだろうか、と恐る恐る七海さんの顔を見ると、彼は落ち着いてスクリーンを見つめていた。やましいことを考えてしまったのは私だけらしい、気づかれていないとわかると同時に、自分の破廉恥さにまた顔が赤く染まった。


     ○

 宮野さんと暗闇の中で目が合って笑いあってから、僕の体はかちかちに固まっていた。映画の内容に集中しようとしても、ぼんやりと見えた宮野さんの笑顔が頭から離れなくて、それどころじゃなかったのだ。おかげで上映から二時間経って映画が終わり、シアターの照明が点いて明るくなった今さっきまで僕は、じっとスクリーンを見つめたままだった。

「いい映画でしたね」

 だから宮野さんのその言葉にも、僕はうまく反応できなかった。咄嗟に「え、ああ、うん! よかったよね」などと返してみたものの、僕は何一つ内容を覚えていないのだ。もしかしたらとんでもなくつまらないB級映画だったのかもしれない。そうだとしたら、そんな映画に付き合わせてしまった宮野さんにはとても申し訳なく思う。そっと宮野さんの顔をうかがってみたが、その表情からは映画の出来は読み取れなかった。ただ彼女は笑っていた。少なくとも不機嫌さは感じられないということは、今までの時間はまあまあ楽しかったと考えていいだろう。どこまでも自分に都合のいい解釈だが、ポジティブに考えないと、初心な僕の気は持ちそうになかった。

 予定ではこの後、僕と宮野さんは夕飯を一緒に食べることになっている。映画のフィルムの長さは一定にして不変のものであるので、見やった時計が示した時刻も予定通りだった。

「じゃあそろそろ、ご飯行こうか」

「はい! あ、ごめんなさい、その前に……お手洗い、行ってもいいですか?」

 少し顔を赤らめて宮野さんは言った。「トイレ」じゃなくて「お手洗い」と言うあたりに彼女の育ちの良さを感じる。何より恥ずかしそうな彼女の顔は、下世話な考えではあるけれど、とても可愛かった。

 ちょうど僕も用を足したかったところだったので、じゃあ終わったらここで、と僕らは一旦分かれて別々のトイレに向かった。


     ○

 映画館の女子トイレは幕間の時間ということもあって混んでいた。大人しく列に並んで順番を待つ私は、上映中は携帯電話の電源を切っていたことを思い出して、ポケットから携帯を取り出すと電源を入れた。途端に、過去二時間の間に届いたメールやメッセージの通知を示すバイブ音が立て続けに響いた。一つ一つそれらをチェックしていくと、一件だけ、メールでもメッセージでもないものがあった。不在着信だった。私は普段からあまり電話をする人間ではない。普通に生活していて、直接声を聞かないといけないような状況にはなかなか陥らないからだ。電話の発信も着信も、私にはあまり馴染みのないものだった。

 その不在着信通知を見ると、私の友人からのものだった。お父様への置手紙に書いた「お泊り会」の宿泊先の家の子だ。ここが家ならすぐさま折り返し電話をかけるのだが、周りに人がいるので彼女への発信を諦めてメッセージのチェックを再開した私は、あるメッセージを開いた瞬間、ぞわりと背中に鳥肌が立った。


 差出人はお父様。文面はただ一文。

「何をしている?」


     ○

 男の小用なんて時間はかからない。反対に女性の場合は少々手間がかかるので女性用トイレの方が混みやすい、したがって男女が分かれてトイレに入って待ち合わせをした場合待たされるのは男の方だ。それくらいのことはデート経験ゼロの僕でも考えればわかることだった。

 しかし、それにしても宮野さんは一向に姿を現さない。確かに女性用トイレは混んでいて、行列の最後尾が外からでも確認できるほどに女性客が並んでいたが、僕らがここで分かれたのはもう十分は前のことだ。いくらなんでも遅すぎる。

 ここは紳士的に待ち続けようか、それともいっそ彼女の携帯に連絡しようか、いやしかし、女性にトイレを急かすというのは紳士云々の前に男としてどうなのか、などとごちゃごちゃと考えていると、僕のポケットの中で携帯が震えた。ブー、ブー、というバイブの鳴動周期から考えておそらくメッセージの通知だろう。携帯を操作して、たった今届いたメッセージを確認した僕は、目を疑った。


 差出人は宮野さん、内容は一言だけ。

「ごめんなさい」

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