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学生勇者。  作者: AK-4
7/8

夢みる☆学園戦争っ!! その4

 突然校内に侵入してきたモンスターたち。屋上から裏庭に向かった時にはその数は増えていた。

 オオカミのような見た目をしたものと、蜂のような見た目をしたもの。どちらもどこかグロテスクだ。だが、俺たちはその程度でひるむことはない。

「かのこっ、行くぞ!」

「了解っ!!」

 早速剣を振るいまとわりついてくるモンスターを一掃。かのこもモンスターを蹴り上げ、殴り倒している。しかし俊敏に動く蜂型のモンスターには苦戦しているようだ。

 かのこの背後を狙う蜂型のモンスターを俺が切り捨てる。俺の足元に寄り付くオオカミ型のモンスターにかのこがかかと落としを決める。もうコンビネーションは最高だった。菊池はと言えば時々こちらにシールドの魔法を使い、あとは杖で殴り倒すという単純作業。倒すまでには至らず、良くて脳震盪ぐらいじゃないか。くっそ思ってたより使えねぇ。

 次々に湧くように出てくるモンスターに俺とかのこの体力は減らされる一方だ。奴らは減らしても新しいものが出てくるから疲れ知らずだろう。

「っしゃーねな! スキル発動ッ!! 『浄化』!!」

 菊池が杖を振り上げると、青い光が降り注いだ。すると嘘のように疲れが飛ぶ。菊池の持つスキル「浄化」は味方の体力を一瞬で全回復させる力を持っているようだ。菊池はスキルまでもが白魔術寄りらしい。

「菊池、助かった!」

 お礼もそこそこに剣を振るう。腹を突き、首をはね落とし、宙に放り出す―――何度同じ作業を繰り返しただろうか。それでも敵は増える一方だ。かのこも倒したモンスターを持ち上げ、投げることで俊敏な蜂型を倒すことに成功しているが、それでも倒しきれてはいない。いくら回復しても体力はすり減る一方だ。

「なんで…こんな…!」

 かのこが悔しそうな言葉を漏らす。しかし、状況はよくなることはない。まさに四面楚歌…囲まれた。

 どうするこの状況、必殺技を解放すべきか…? 悩んでいたその時だった。突然モンスターがいた場所が一斉に黒い霧で覆われる。まるであのサモナーの少年の時のような禍々しい霧。まさか奴が現れたかと思ったが、そうではないようだ。黒い霧に包まれたモンスターたちは苦しみ、やがて死んでいった。それはまるで呪いのように地から染みだしている。

「これ…どういうことだよ」

 またたく間にモンスターは全滅し、それきり新しいものが現れることはなかった。

 菊池の独り言に答える者は誰もいない。理由は俺にもわからないし、かのこもぽかんとしたままだ。

「…と、とにかく! みんな無事だったんだからよかったよ!」

 かのこが胸の前で両手を合わせて明るく笑う。それもそうか、と納得し俺と菊池も釣られて笑った。

 その時だった。俺たちの横をものすごいスピードで先ほどの生き残りと思われる蜂型のモンスターが横切る。明らかに俺たち狙いではない。

 まっすぐ奴が向かって行った場所は、少し遠くにいる一般生徒の元だった。黒い髪をひとつに結んだ男子生徒。どこか虚ろな目でふらふらと歩いている。

「スキル発動ッ!! 『疾風』!!」

 かのこの叫び声とほぼ同時に風を切る音が響く。かのこは弾丸のような早さでモンスターを追いかける。彼女が残した追い風は凄まじいものだった。

 男子生徒は向かってくるモンスターとかのこに気付いたが、何か言う暇もなくかのこがモンスターに追いついた。そして彼女の右ストレートがモンスターにヒット。粉々に砕け散る。その衝撃かモンスターの攻撃を受けたのかはわからないが男子生徒は地面に倒れていた。

「えっ、だっ、大丈夫ですか?!」

 俺たちが慌ててかのこと倒れた男子生徒に駆け寄ると彼はすっと起き上がり、「別に、大丈夫」と無愛想に一言残した。

「あの、怪我とか…」

「どいて、バイト遅れる」

 心配そうなかのこの声を無視し俺たちに冷たく一言放つと、さっさと歩いて行ってしまった。その足取りは思っていた以上にしっかりしている。先ほどふらふらと歩いていた彼と同一人物とは思えないほどだ。

 菊池はなんだよあいつ、と不満そうに愚痴を漏らしている。かのこもどこか腑に落ちないようだ。

 …それより、さっきの男子生徒。俺はあいつに会ったことがあるような気がしてならなかった。でもどこで会ったか思い出せない。

 彼の冷たい言葉は、何度も頭の中でこだました。


インターバル

⇒かのこ


 高橋くんと菊池くんと別れたあと、私は気になることがあってカウンセリング室に立ち寄ることにした。

 扉を開くとコーヒーの香り。それから、七緒先生が優しく迎えてくれる。

「七緒先生! 聞きたいことがあります!」

「どうした? 改まって…」

「あの…『ネクロマンサー』のことなんだけど…」

 三年生にいるという「ネクロマンサー」。私には心当たりがあった。

「黒い髪がすっごく綺麗で、ちょっと冷たい感じの人かな…?」

 さっきの戦いで巻き込まれかけていたところを私が助けたあの人。あの人は突然現れたんじゃない。きっと、ずっと私たちを見ていたんだと思う。あんなモンスターを見て、混乱しない一般人がいないはずがないし。根拠としては弱いかもしれないけど…。

「『ネクロマンサー』はね…明るくて優しくて、気配りができるいい子だよ」

「えっ…」

 じゃあ、私の予想は間違っていた?

 七緒先生はコーヒーを一口飲んでから、呟くように言った。

「でもね、ちょっと事情があって他人と壁を作っちゃうんだ」

「じゃあ…?」

「かのこちゃんの予想は大当たり。君が会った子が『ネクロマンサー』、中野ナオキくん」

 中野ナオキ…先輩。

 彼があんなにも冷たかったのはただ単純に壁を作っているから…本当は優しい先輩みたいだけど…。

「時々ここにも来てるから、会えるといいね」

 七緒先生がいつも見ている、明るくて優しい中野先輩も見てみたい、かも!



 ほんの少し苛立ちを引きずる帰り道。あの男子生徒の正体や突然のモンスターの出現の理由―――考えなければならないことは山積みだ。勉強とか予習復習とか、そんなレベルではない。まだ学校の宿題のほうが易しいだろう。なんせこっちはヒントがほぼ与えられていない。

 モンスター出現はあのサモナーのガキが関わっていると考えていいだろう。しかし何故わざわざ俺たちの学校に奴らをけしかけてきた? 狙いは俺たちだったのか? …考えれば考えるほど謎だ。ついでにあの男子生徒の正体もまったくつかめない。

「うっわーーー!! 勇者だーーー!」

 馬鹿にするような小学生の声。そろそろ頭が痛くなってきた。こんな幻聴まで聞こえるなんて。

「おい勇者ーーー!! こっち向けよーー!」

「うっるっせぇーーー! なんだよこんのクソガキ!!」

 勢いよく振り向くと、そこにいたのは―――

「クソガキとは失礼だなクソ勇者!!」

 例のサモナー小学生だった。

 俺が呆気にとられていると、小学生は馬鹿にするように笑う。

「うっわービビってやんのーオレにビビってやんのーだっせー」

「うるせぇビビってねぇわ」

 先日会ったこいつは禍々しいオーラと威圧感で俺たちを圧倒してきたのだが、今はただの小学生のガキにしか見えない。言葉も重みもクソもないただのガキの戯言だ。相手をするだけ時間の無駄だろう。ここはさっさと撤退するのが正解だ、じゃあなガキ、と一言残し立ち去ろうとする。…と、俺の背中にまた新たな暴言が浴びせかけられた。

「うわっ逃げるのか?! お前の母ちゃんゴムパッキーン!!」

 その斬新すぎる暴言に思わず噴き出した。

 小学生の襲撃を無事切り抜け、また閑散とした道を歩く。歩きながら、例の男子生徒について思案を巡らせた。

 長い黒髪に整った中性的な顔。どこかで見たことがある。…そう、俺は奴の笑顔を見たことがある。一体どこで…?

「どいて、バイト遅れる」

 彼の冷たい言葉をふと思い出した。バイト、バイトに遅れる…。

「…まさか」

 あのたまたま立ち寄ったコンビニのレジにいたどこか「おしい」店員。男子生徒の顔と店員の顔が一致した。同一人物だ!

 …と、まぁ思い出したところでひとつ疑問が解決してすっきり程度のものだ。これでぐっすり眠れる。

 なんとなく携帯を開くと、メールが一件入っていた。今回はかのこからだ。メアド交換をしてから3回目のメール。

『いきなりメールしてごめんね。今日私が助けた(って言っていいのかな?)人いるじゃない?

 あの人「ネクロマンサー」の伝道師だったみたいなの!』

 「ネクロマンサー」の文字を見て、俺の脳裏に浮かんだのはあの鋭い視線ではなかった。コンビニのレジで見たまぶしい笑顔。人懐こいまぶしい笑顔はそう簡単に作れるものでもないから、きっと素なのだろう。

 キラキラ笑顔の「ネクロマンサー」…いくらなんでも斬新すぎないかと道端で頭を抱えた。



たかはし ジョブ:こうこうせい けんし

かのこ ジョブ:こうこうせい かくとうか

きくち ジョブ:こうこうせい まどうし

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