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学生勇者。  作者: AK-4
6/8

夢みる☆学園戦争っ!! その3

 次の日の朝、いつも通りの通学路を踏む足取りは軽い。昨日の天草先生とかのこの一件がどうも癒し要素になっているらしい。

 天草先生は勇者業に悩んだらいつでもここにおいでと言ってくれた。彼女はただのカウンセリングではないような気がしたが、その正体を探るのはやめよう。今はさほど重要なことでもないだろうし。

 それよりも、菊池だ。今日の放課後行われるであろう「魔道師」の伝道師であり魔王の息子でもある菊池との決闘。俺があいつに勝てなければ、あいつのパーティ入りはない。負ける気はしないが、万が一のことを考えるといくばくかの不安はある。

 勇者が魔王の息子に負けるなど、勇者村の恥さらしではないか。…そんな地味なプレッシャーに負けるほど俺は弱い男ではない。そんなことで勇者をやっていけるわけがない。

 今日はかのこの襲撃もないようだし、大丈夫だ。安心したように息をついた瞬間、後ろからベルの音が響いた。

「高橋くーん!」

 元気な声と共に横できっちり止まった自転車。

「高橋くん、おはよ!」

 ふと、かのこの笑顔に救われている自分がいることに気付いた。


 人は誰かの手を借りなければ生きていくことはできない、弱い生き物なのです。

 誰かが言っていたなんだかよくわからん言葉。この人、もし世界で自分だけ、たった一人だけになったらどうするつもりなのだろう。さびしくて死ぬのだろうか。

 俺は人の手は利用するもので借りるものではないと思っているから、この言葉が嫌いだ。もちろん、俺が利用するのだから俺が利用されても文句は言えない。

 そう、きれいごとだけでやっていけるほど美しい世界でもないんだよ―――

「高橋! 教科書の36ページ読め!」

 現代文のハゲ教師の声で考え事は完全に打ち消された。しぶしぶ席を立ち、指定された箇所を読む。野球少年が主人公の小説だ。少年の独白を淡々と読み進めていると、ハゲからのストップがかかる。第三段落はここで終了らしい。俺は席についてシャーペンを手に取った。黒板の緑がチョークの白に埋まっていく。つまらない授業はまだまだ終わりそうになかった。

 …なんか悟っちゃってるなぁ、俺。昔っからこんな捻くれた性格だったけど。

 シャーペンをくるくると回す。気分転換、という適当な理由を意味もなく乗っけたが実際は本当に意味なんてなかった。

 このシャーペンも右手に持ち、これは武器だと念じれば剣になる。意味のわからない能力を持って生れてきたことを何度も悔いたが今は。

「菊池、安本、起きろ! ノート取らんか!!」

 …ハゲの怒鳴り声のボリューム調整誰か頼む。


 さて、時は飛んで、放課後。例の渡り廊下に俺とかのこはいた。相変わらず時間にルーズな菊池はまだやってこない。かのこは横で緊張したような面持ちだ。

「高橋くん…いよいよだね」

「あぁ、負ける気はしない。任せろ」

 かのこは力強くうなずく。笑って見せると、彼女もにへらと笑った。緊張がほぐれただろうか。あまり肩に力を入れずに観戦してほしい。

 教室と同じ方向の階段から、またアホな笑顔の菊池が現れた。いやーわりぃわりぃ、と頭を掻きながら言う彼に反省の色は見えない。

「…さっさと始めるぞ」

「ここじゃ危ねーからさ、屋上行こうぜ」

 菊池にしてはまともな提案に従うことにした。屋上と言えばサボりの代名詞みたいなものだが一度も行ったことはない。屋上は普通鍵がかかっていて入れないものだからと敬遠していたのだ。だが、なんとうちの学校の屋上は鍵がかかっていなかった。

 菊池は軽々とドアを開ける。視界に飛び込む春のまぶしさ。桜が舞い散るそこはどこか幻想的に見えた。

「ここ、サボりにはうってつけだぜ」

 へらへらと笑う菊池からは昨日の黒い影は一切見えなかった。まるで普通の高校生のような…いや、彼は普通の高校生か。

 まるで自分を否定するかのような言葉を消し去り、ほうきを右手に握る。

「…始めようぜ」

「気ぃ早いんだよ高橋は!」

 不敵に笑い、杖を召喚する。おそらく、あれが武器なのだろう。

 俺もほうきとちりとりを握り、「変換」を発動した。相手は明らかにほうきとちりとりを見て油断している。切り裂いてやろうか。

 先制攻撃だと言わんばかりに動いたのは俺。剣をまっすぐ相手に向け、地を蹴り上げた。菊池は動揺することなく杖を構える。そして小さな声で何かを呟いた。菊池にそのまま刺さる予定だった剣は何かに弾かれてしまった。先ほどの呟きは呪文の詠唱だったのだろう、これは身を守る魔法か。

 流石「魔道師」――最初からうまくいくとは思っていなかったが、これは思っていた以上の難敵になりそうだ。

 切り捨ててやろうと剣を振りかざすも、再び弾かれてしまう。次第にそれの無限ループになっていく。こちらの体力を削ごうとしているのだろうか。

「…どうした、攻撃してこいよ」

 俺は正々堂々と剣と魔法がぶつかり合うような戦いがしたかったのに、歯がゆい戦い方に苛立ちを覚えていた。しかし菊池は不敵に笑うばかりで一向にこちらを攻撃する気配はない。

 腹立ってきたし、こっちの必殺技で完璧に潰してやろうか…そう思った直後のことだった。

「ふふふ…俺の究極の必殺技、見せてやろう」

 ついに菊池がこちらに攻撃を仕掛けてくるようだ。どんな魔法だって跳ね返してやると、左手に力を込める。

「喰らえ! 超究極の煉獄『菊池ファイヤー』!!」

「名前だっせぇーーー!!!」

 思わず飛び出た突っ込みに気を取られてしまい、防御をうっかり忘れてしまう。しまった、これが狙いか!

 舞い踊る紅蓮の炎がこちらに向かう様を想像し――ん? 想像?

「おい菊池、超究極の必殺技はどうした」

「高橋くん! 見逃したの?!」

 ずっと後ろで俺を見守っていたかのこが慌てて助言。見逃した? どういうことだ?

「菊池くんの必殺技は確かに発動したよ!」

「はぁ?」

 かのこまで俺を貶めるか…。しょんぼりしかけたその時だった。菊池が崩れ落ちた。膝から。

「すまない高橋! 俺、白魔術しか使えないんだわ!!」

 白魔術、回復や補助などをメインとした魔法。

「えっ…お前黒魔術使えないの?」

「わりぃ…魔王の息子なのに白魔術しか使えないとか超ダサいよな…」

 深刻そうな顔で謝る彼は本気ですまないと思っているらしい。なんだかこちらが申し訳なくなってくるしょんぼりっぷりだ。

 菊池ユウタは「魔道師」の伝道師でありながら白魔術しか使うことができない…今まで、魔王の息子という肩書で上手いことやってきたのだろう。勇者という肩書で働いている俺とどこか近いものを感じた。

「俺の負けでいいやもう…白魔術しか使えない「魔道師」なんかいらねぇだろ…煮るなり焼くなり臓器売るなりなんなりしてくれ…」

 落ちつけよもう。

「…後方支援が欲しいと思っていた」

「は?」

「白魔術でも、防御魔法なんかは十分役に立つだろう」

「…え? え?」

「俺の仲間になれ、菊池」

 菊池の顔にぱぁっと笑顔が戻った。そしてすごい勢いで立ち上がり、俺の手を握る。

「高橋ぃー! お前は俺の親友だぁーー!!」

「そうか、じゃあ焼きそばパン買ってこい」


 俺たちの様子を笑顔で見ていたかのこが、唐突に振り返る。深刻そうな顔つき、一体何が。

「高橋くん! 下で何か起こってるみたい!」

 屋上のフェンス越しに下を見ると、モンスターが校内に侵入しているのが見えた。一体何が狙いなのか、裏庭に現れた奴らはきょろきょろとあたりを見回している。

 まさか、力を持たない一般生徒が狙いか?

「…仕方ない。菊池、かのこ、行くぞ!」

 新生パーティの初仕事は思っていたよりも早いものとなった。



きくち ユウタ が なかまに なった!

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