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学生勇者。  作者: AK-4
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夢みる☆学園戦争っ!! その1

 あの第一なんちゃら公園での戦いから一夜明けて、また朝がやってきた。寝不足の頭はしっかりと覚醒しないまま、ふらふらと見慣れた通学路を歩く。

 昨晩はすぐに寝ようと思っていたのにいざ布団に入ると、さまざまなことが頭の中をめぐり眠れなかった。エクスカリバーと少年のこと、古谷かのこのこと、そして、ジョブ「魔道師」の伝道師らしい菊池ユウタのこと。今日はその菊池を仲間に引き入れるために彼をそれなりに口説く必要がある。そこ、変な誤解をするな。はたして菊池は素直に俺の仲間として戦ってくれるのだろうか。…少なくとも、かのこのように上手くはいかないだろう。

「高橋くーーーん!!!」

 噂をすれば…。ジト目で振り返ると、かのこが自転車でこちらに突っ込んでくるところだった。

「おい待てかのこ! ブレーキかけろッ!!」

「えっ、あっ、ちょっ!」

 ブレーキだ、ブレーキ!!

 そんな心の叫びもむなしく、彼女がブレーキを握ることはなかった。

 咄嗟に左手に持っている学生鞄をスキル「変換」で盾に変え、身を守る。まっすぐ俺に突っ込んできた自転車は止まり、ぱたりと倒れた。一方、自転車から投げ出された運転手は見事に受け身を取り無傷。流石ゴリラ女。

「高橋くんごめんねっ!!」

「死ぬかと思ったぞ」

 折れ曲がったスカートや、乱れた髪を戻すよりも先に俺にぺこぺこと頭を下げる姿がいじらしい。可愛いから許した。

「スカート曲がってる、髪ぐしゃぐしゃ。直せ」

 指摘すると、顔を真っ赤にして慌ててスカートや髪を直し始める。鞄から鏡を取り出して前髪もチェック。女子は忙しいなと思いながら倒れたままになっている彼女の自転車を起こした。赤い自転車に目立った傷はなく、こいつも持ち主同様なかなかタフな奴だ。

「かのこ、早くしないと遅刻するぞ!」

「うんっ!」

 門が閉まる時間までは、まだ余裕がある。彼女は自転車を押して、俺の隣を歩いた。

 まるで恋人同士みたいだと思ったが、隣にいるのはメスゴリラだと自分に言い聞かせた。ほら、耳を澄ませばうほうほドンドンという鳴き声が…。

「ねぇ高橋くん」

「はいっ!!」

 うほうほドンドン…じゃなくて。ゴリラで脳内再生していたのに突然かのこの声が聞こえて、驚いてしまった。かのこは不思議そうにこちらを見上げている。

「あのさ、菊池くんのことなんだけど…」

「あぁ…菊池な、うん菊池」

 かのこはやっぱり不思議そうに俺を見ている。

「菊池くんやめない…?」

 彼女の提案にしては酷くナンセンスだ。彼女自身が菊池を推薦してきたくせに、今更やっぱりやめない? とはどういうことか。

「ちょっと嫌な噂聞いちゃってさ…」

「嫌な噂?」

 俺が聞き返した時にはもうそこは校内の駐輪場だった。自然と話はうやむやになる。

 しかし、どうしても引っかかって仕方ない。今更菊池ユウタを諦めなければならない理由とは。そして、嫌な噂とは…。今日の授業は集中できないだろうと、ため息をついた。


 授業中の俺の机から菊池の後ろ姿はよく見えた。

 去年から継続して今年も担当を務める先生は自己紹介もそこそこにさっさと授業を進め始める。つまらない古典の授業、ペンをくるくると回しながら菊池の背を観察。奴は授業開始から3分たたずして、机に突っ伏してしまった。こういうところが教師たちにとっては問題らしい。別に授業中寝る程度のことで何をピーピー騒いでいるのだろうとは思うが。

 それよりも、彼はジョブ「魔道師」らしいところを一切見せていない。「魔道師」は味方のサポートを全般的に行う職業で、素早い頭の回転が必要になるだろう。それなのにあの馬鹿が…。まさか本当はかなりの力を秘めていて、危険すぎるほどなのか? もしそうならば、より一層仲間に引き入れたいと思う。この授業が終わったら、声をかけてみよう。

 黒板を見ると、半分が意味不明な絵で埋まっていた。後から聞けば、「棒人間が正座をしている絵」だったらしい。


 時計の針が50分を指し、授業終了の合図であるチャイムが鳴り響く。寝ていた生徒もそれが目ざましとなり、起き上がり始めた。

 きりーつ、礼、着席ー。まだクラス委員が決まっていないため、古典の教師が言うテンプレートなそれ。皆ありがとうございましたを言い終わる前に動きだしている。

 俺は早速、椅子に座ったまま体を伸ばしたりほぐしたりしている菊池ユウタに声をかけることにした。

「なぁ、菊池」

 最初はフレンドリーに、笑顔で。この笑顔ももちろん猫かぶりだ。気色悪い笑顔だろう。

「うおっ、元1の3の高橋だろ?!」

 菊池は一瞬怪訝そうな顔をした後、ぱぁっと笑顔になった。俺が誰なのか考え込んでいたのだろうか。

「あぁ、高橋・A・トウヤだ」

「俺菊池ユウタな! よろしく! で、俺になんか用?」

「ちょっと話したいことがあるから、昼休みに渡り廊下に来てもらっていいか?」

 一度目を丸くしてから、また笑顔。こいつは表情をよくころころと変える。これを素でやっているのか?

「おういいぞー。なんだなんだ? 恋愛相談かぁ?」

 茶化す声が少しうっとおしいが、悪い奴ではなさそうだ。俺は猫かぶりスマイルで短く礼を言うと、菊池の席の前から去った。

 女子グループの中で楽しそうに話していたかのこが俺を見て、どこか不安そうな瞳を向けていたことには気づいていた。でも、何も言わなかった。

 かのこが隠す、菊池ユウタにまつわる「嫌な噂」とは一体何なのか。それはいまだ解決していない問題だが、かのこが言わないのなら俺自身が暴くしかない。彼女のように人脈などを使って情報を得ることが難しいなら、直接本人に聞くまでだ。

 席に着くと、丁度授業開始のチャイムが鳴った。次の時間は生物だ。教室に入ってきた先生は、頼りなさそうな新人教師だった。

 そんな新人の緊張した声の自己紹介を聞いていると、隣の席からメモが回ってくる。メモに書いてある宛名は「高橋くん」。正式には「高橋くんに回して!」で、字は女子のもの。これは、かのこからの手紙だろう。4つ折りになった小さなメモを開くと、中から女子に人気のキャラクターとまた文字列が現れる。

「高橋くん、気をつけて。菊池くんは魔王の息子なの。魔王サタンの跡取りなの―――」

 …「嫌な噂」とはこのことか。

 相変わらず菊池は机に突っ伏して寝ている。

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