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いつだって覚悟は必要

「いやー、すまんすまん。急に目の前に敵がいたから思わず盾にしてしまった」


「ふざけんなこの野郎!もう少しで死ぬとこだったわ!肋骨折れてたし!魔法があって助かったけど!」


怒るのは当たり前である。なにせ盾にされたのだから。


「ほんと困るよな。人の話聞かずに襲い掛かってくるやつ。何なの?ストレスでも溜まってんの?でも安心しろ。お前の仇はとっておいたから」


「責任の九割はお前だろぉぉぉぉが!」


「気にすんな。禿げるぞ。で?魔法なんてものがあるのかここには?」


「あー、そうみたいだ。さっきまで折れてた骨がもうくっついている」


少年は自分のわき腹の辺りをぽんぽんと叩き、無事をアピールする


「便利だなー魔法。医者が泣くぞ」


「まあ、必要ないだろな。でも病気の時とかはいるんじゃねーの。科学は発達していないみたいだし」


少年二人が魔法について語り合う、学校の休み時間みたいなことをしていると、コンコンとノックの音が聞こえる


「どーぞ」


「失礼します」


入っていたのはさっきのお姫様と従者数人であった(従者は武装しているが)


「ご無事でしょうか勇者様」


「あ、大丈夫ですけど。それより勇者って……」


「ああ、すいません。えー、あなた方のお名前は……」


ベッドに寝転がっている少年は「小林光。高校二年17歳。こっち風に言うとヒカル・コバヤシ?」と答え


椅子に座っている少年は「七識流十四代目予定七識泉。言い換えるとイズミ・シチシキ。嘘だろとよく言われる18歳」と答える


「年上!?嘘だろ!?」


「本当だよ。まあ、この身長のせいでそう思うのは無理もないと思うけど」


七識泉の身長は150程度であり、18歳としてはかなり低い部類に入る。間違えても仕方がないことだろう


「そうですか。ではヒカル様、イズミ様。魔王を倒し、この世界を救っていただけないでしょうか」









「すいません意味が分かりません」


「一体どういうことだ?」




「くわしくは別部屋でご説明いたします。こちらへどうぞ」


姫はそういって従者とともに部屋の外へ出る


二人も立ち上がり、その後に続く


つい、数十分前に骨を数本折ったのに、もう痛みを感じることなく平然と歩けることにヒカルは驚くと同時に、異世界に来たという現実を認識していた


一方のイズミは社会化見学に来た子供のように(見た目子供だが)、城の内装を見て、目をキラキラさせていた








「魔王というのは数百年前突如北の大陸に現れた者でございます。わが国も何度も攻撃を受けました。我々も何度も騎士団を編成し、討伐に行かせましたがあっけなく全滅。それも魔王と戦うどころか大陸の途中で魔獣に襲われることによってです」


魔王にたどり着くことすらできなかったのだ


「そこで同じように勇者を召喚し、魔王を討伐したのが約二百年前でございます」


だが、その方法は完璧ではなかった


「ですが魔王は五十六年前復活しました。数百年前のようにこの首都に攻撃こそしていないものの、国境線では魔物による何度も攻撃を受け、何とか押さえ込んでいる状態です。ですが、そのせいか最近魔物の行動が活発になっております」


魔物は暴れ、焼き、襲った


「ギルドやパーティに頼み、魔物は駆除しておりますが、魔物は次々と生まれ、いたちごっこを繰り返しております。そこで、根源である魔王を倒すため呼び出したのがあなた方二人でございます」


そして、一縷の望みにかけた


「お願いします。この世界をお救いください」


勇者は覚悟を決めた。世界のために戦うことを


「はい、分かり「少し考えさせてくれ」」


ヒカルの言葉は遮られる。もうひとりの勇者は覚悟を決めなかった


姫はニコリと笑いながら「まあ、突然のことですし、そのお気持ちは良く分かります。部屋を用意してあるので今日はそこでお休みください」


「分かりました」


姫は従者を引き連れて廊下を進んでいく。そしてその背中が見えなくなったところでヒカルが口を開いた


「何で止めたんだ!」


怒りながら怒鳴りつける。なにせ、あの人たちは本当に困っていた。伊達や酔狂でこんなことはしない。本当に最後の望みとして二人を呼び出したのだから


「俺らがやらなきゃ誰がやるんだ!」


「落ち着け脳筋。少しは脳みそを使え。お前の頭は飾りか?だとしたら飾りの役割を果たしてないぞ」


今代の勇者は毒舌である。どう見ても勇者ではない


「いいか。魔物がいるって言ってただろう。魔物がどんなものかは俺は知らん。だけど、普通の人間では歯が立たないことぐらいは話から分かる。それにこんな世界だ。盗賊なんかがいてもおかしくない」


「だからどうした!それでもやらなきゃだめだろ!」


「なら――――







―――――お前、死ぬ覚悟、それと殺す覚悟はあるのか?」


「……なっ!?」


「ちなみに俺にはない。ぶっちゃけ見ず知らずの人間のために命を賭け、人を殺す覚悟はない」


勇者が全員良い奴とでも思ってんじゃねえぞと主張する


「で、でも死ぬ覚悟はともかく殺す覚悟は」


「必要に決まってんだろうが。お前は魔物なら殺せると思う。だけど人は殺せない」


「そ、そんなの当たり前じゃないか」


「俺は殺せる」


「へ?」


「例えば今、お前が俺の仲間に向かってナイフで切りつけてたら、俺は容赦なく殺せる。後悔も悲しみも無く、ただ単に拳を振り下ろしてお前の頭を砕ける。魔物や悪人ならなおさらだ」


「だけど!」


「お前は敵を倒したらそいつはもう二度と悪いことをしないとでも?自分より強い奴と戦えば改心するとでも?一度倒せば相手は恨みも怒りも無く諦めるとでも?そう思ってるなら少年漫画の読みすぎだ。

敵と戦う→敗北→激しい修行→勝利→敵が味方になる→新たな敵との遭遇 なんていうループは現実ではありえないんだよ。いつかは人を殺す必要がある。どうしても覚悟を決めなきゃいけない時がくるんだよ」


敵は必ずしも味方にならない。むしろより厄介になる可能性だってある


ヒカルは優しい。現代日本という平和な場所で育ったため『殺す』ということに抵抗ができてしまう。それは当たり前だろう。普通に道徳教育を受けたものなら誰だってそうだ。人を殺すことはいけない。法律がどうとか人の痛みがどうとかいう以前の問題になんであろうと生き物の命を奪ってはいけないことを知っている


しかし、イズミは違う


イズミは優しい。だが容赦が無い。幼いころから七識流として戦いと修練に身をおいてきた。故に、戦いに慣れている。敵に闇討ちや伏兵、待ち伏せをされたことなど何度もある。人に優しいが、いざ攻撃の矛先が家族などに向かったり自分に危害が及んだ瞬間、容赦なく殺せる


別に人の命を軽んじているわけではない。戦いの中で、人の命の重みを、大切さを知った上で大切な者のために殺せる。その人間がもう二度と動かなくなることを知った上で殺せる


何があろうと相手の命を奪わない偽善者と大切な者の為には誰だって殺す狂人、どちらが正しいということではない。どちらも正解でありどちらも間違いなのだ


「まあ、今日一日ゆっくり考えろ。世界の平和のために一部を殺すかどうかを……」


イズミはゆっくりと歩いていった


そして、下を向いて唇をかみ締めているひとりの勇者だけが残った













「ああ、忘れてたけど、俺の部屋ってどこか知ってる?」


「空気読めよ!」


台無しである



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