勇者とは勇ある者という意味であり正義という意味ではない
全員が呆然としていた。目の前の光景が信じられなかったのだ。あり得ないと
魔王がこの世界に現れて、早数十年。世界は破壊され、蹂躙され、焼き尽くされた。モンスターの動きが活発になり、村や町を襲うようになった。何度も軍を送り込み、魔王を倒そうとしたが全員八つ裂きにされた。ギルドにも依頼をしたが、冒険者たちは依頼を受けようとしない
だが、そんなある日、勇者召喚の魔法が見つかった。王はこれに歓喜し、すぐに魔法の解析を始めた。国中の天才魔法使いを集め、魔法陣の解析に3年をかけた。そして今日、数十人分の魔力を集め、勇者召喚を行った。
ここまではいい
問題は召喚されたのが二人ということだ
OK、OK 少し落ち着こう。二人でも何ら問題はない。むしろ、戦力が二倍になった。
よく観察してみる。一人は、身長が170の半ばぐらい、黒髪黒目であちこち見まわしている。時々、『いや、何これ?ファンタジー?RPG?いや、確かにゲームは好きだけどさ。あり得ねーだろ。あれか、夢は願望を表すっていうけど俺の願望は、異世界に行きたい、なのか。うわ、だめだろそれ。高校生にもなってそれはないだろ。この年で魔法を使えと?メ〇とかホ〇ミとか叫べと。無理だよ、恥ずかしさがMAXだよそれ。確か今、授業中だったよな。そんな寝言聞かれたらもう学校いけねーよ。不登校まっしぐらだよ』と意味の分からないことを口走っている
もう一人は黒髪黒目なのは同じだが、背がとても低い。1mと半分あるかないかぐらいだろう。来た瞬間『寝たら夢から覚めるだろ』といって寝転がり、ただいま熟睡中だ。何人もの目の中でよく眠れるものだ。
この二人は勇者なのだろうか違う
読点が必要ないぐらい違う。これが勇者だと思う人はまずいない
「あの、……勇者様?」
一人の女性が二人に話しかけた。姫である。お姫様である。大事なことなので二回言った。本来ならば、こんなところになど来ないが、勇者のため、世界のためにここまで来たのだ。そんな姫様の勇気を振り絞ってかけた言葉は
「うわー。遂に俺もここまで来たか。お姫様まで夢の中に出すとか、俺の脳はどれだけ欲求不満なんだよ」
「眠いから後にしてください」
辛辣な一言だった。泣いてもいいと思う
「この無礼者!」
近くにいた騎士甲冑を着た男が寝ている勇者に向かって棍棒を振り下ろした
相手が勇者であるので、本気ではなかっただろうが、骨の数本は砕けそうな攻撃だった
寝ていた勇者は目を開き、近くにいたもう一人の勇者の襟首をつかみ、自分の盾にした
もう、勇者でもなんでもなかった。メキメキという音とともに棍棒が直撃する
隠れていた勇者が棍棒の内側に入り込む。それもとてつもない速度で
「七識、青雀!!」
同時に右腕が騎士の腹にたたきこまれ、左の掌底が顎を打ち抜く。膝蹴りが胸に直撃し、両手の手刀が首の両側をたたいた。どれも鎧を着ている人間には意味のない攻撃、素手で何発殴ろうが、中にいる人間には効果のない攻撃
だが、効いた。あり得ない現象。騎士が気を失って地面に倒れた。鎧には傷などついていない。衝撃を鎧の内側に通したのだ。全員が驚愕した。素手の人間が城の騎士を倒したのだから
「おーい、大丈夫か。そんなに強くはやってないんだが……」
そしてその本人はケロッとしている。傷一つない
「そっちのお前も大丈夫か?盾にしたときに骨が何本か折れたかもしれんな。安心しろ。お前の仇は取ってやった。ゆっくり眠れ。しかし許せんな、騎士が一般人に暴力をふるうとは。お前も運が悪かったな」
お前のせいだろとこの場にいる全員が思った