冬の忘れもの(超短編)
彼女は、僕のことを「ネコさん」と呼ぶ
「どうして?」と聞くと、「手がまるくて暖かいから」らしい。
ある冬の日の夜、駅の改札を出ると彼女が立っていた。
「どうしたの?」と聞くと、「傘を忘れた」らしい。
彼女の家は、僕の駅とはぜんぜん違う場所にあるので、
「どうしてこの駅で降りたの?」と聞いたら、
「間違えて降りた」らしい。
「じゃあ、送ってってあげるね」と言うと、
首を横に振って「ネコさんのウチに行きたい」と笑った。
僕たちは、冷たい雨が降る中をひとつの傘をさして歩いた。
「ネコさん、手が冷たいの」と言うから、
「あれ?手袋は?」と聞くと、
「忘れた」と言って、せがむような目をして僕を見た。
「それじゃあ、手をつなぎましょうか?」と手を差し出すと
「そうしましょうか~」と嬉しそうに笑った。
僕は、つないだ手をそのままダウンのポケットに入れ、
「こうすると暖かいでしょ?」と聞くと、
「にゃ~」と鳴いて肩のあたりに頬ずりをする。
雨はいつの間にか雪に変わってた。
おしまい