8.ぬりかべのラトビア
「チャーララリラルラルー♪ラトビア共和国。
通称ラトビアは、バルト海に面するヨーロッパ北東部に位置する共和制国家。第一次世界大戦後の1918年に独立。その後1940年にソビエト連邦に占領された。リトアニア、エストニアとともにバルト三国と呼ばれている。総面積はおおよそ北海道の4分の3程にあたる64,589km²。」
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さて、随分と久々の更新になってしまった。
別にネタ切れしていた訳でも世界の料理を調べたり作ったりするのに飽きたと言う訳でも無い。
ただ単に書くのが面倒臭かっただけである。
「はいはいそこ!開き直らないようにねー。
大体さー、一応料理だけは毎週作ってるんやし、ネタを溜め込んどかんとサッサと書いとけばいいのに。
とーちゃんてさ、アレだよね。夏休みの宿題とか放ったらかしで遊び呆けてて、8/31になってから真っ青になって何とかしようと無駄に足掻くタイプ?」
「……うるさい。お前に言われたないわ。お前かて8/31になってから慌てて夏休みの日記全部書いてたやないか。いつどこで何をやったのか思い出せんと、ほとんど毎日『○月△日 特になし』って書いてたの知ってるんやぞ?」
鶏皮家は相も変わらずこんな調子である。
「で、今回はどこの国になったん?」
「バルト三国のラトビアだってさ。」
「……へぇ。」
「あ、今お前目逸らしたな?内心『どこやねんソレ』とか思ったんやろ?」
「そ、そんな事ないで?ラトビアな。うん、知ってる知ってる。当然やーん」
「ふーん?なら、どこにあるんかわかってんのか?」
「えっ!? えーと……南米?」
……まぁ、鶏皮家の長男に限らずとも、大体の人は特別興味が無ければこの程度の地理認識なんではないだろうか?(と思いたい)
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また今回も例によって例のごとく予備知識が無い国に当たってしまったので、とりあえずは歴史や民間伝承方面から調べてみる事にする。
これまでに料理を作って来たいくつかの国がそうであったように、ラトビアもその歴史の中で他国の侵略と征服が繰り返されて来た国だ。
8世紀のヴァイキングの支配から始まり、ドイツ、スウェーデン、ソ連といろんな国の支配を受けている。
中世にドイツ人が入って来てキリスト教の影響を受けるまでラトビアの人々の間では森や川、湖といった自然と深く関係した土着信仰が一般的だったようで、昔話にはウサギやオオカミなど森の動物たちや、炎や棍棒など様々なものが擬人化された形で登場する。
ウサギやオオカミはともかくとして、炎や棍棒などといった無機物にまで魂が宿るという考え方は、八百万の神を信仰している日本人の宗教観とも似ているような気がする。
現在のラトビアの信仰もプロテスタントやカトリック、ロシア正教の三大キリスト教をはじめとしてユダヤ教やイスラム教、ヒンドゥー教、モルモン教、仏教など非常に幅が広い。こんな風に宗教に寛容なのも他のヨーロッパ諸国に比べて珍しいんじゃないだろうか?そういうおおらかなところもやはり民族性なのだろうか?
ラトビアの首都であるリガは、かつてはハンザ同盟(バルト海沿岸の貿易を独占していた都市同盟)に加盟していた交易で栄えた大都市だった。その為、旧市街地には商業ギルド関連の建物がたくさん残っている。
その中でも特に面白いなと思ったのは、建物の塔のてっぺんには黒猫のオブジェが取り付けられている「黒猫の館」と呼ばれる家。実はこの黒猫、当初はこの館の主であった人物がギルドへの加入を認めてもらえて無かったが為にギルドのある方向にお尻を向けていたのだそうだ。が、主が加入を認められた途端、黒猫もくるりと180度向きを変えてギルドの方を向く形で取り付け直されたらしい。とても可愛いオブジェなので、猫好きの方は是非画像検索をして見てみて欲しい。
他にもリガの街には歴史を感じさせる面白い建築物が多い。興味を惹かれて色々と調べていたらこんな伝説を見つけた。1698年に作られた「スウェーデン門」に伝わる物語だ。
旧市街の城壁に設けられていた門のうちのひとつで、向かい側にあった兵舎のスウェーデン兵がよく利用していた為にこの名前が付いたと言われている。
当時のラトビアはスウェーデンによる支配を受けており、一般市民はスウェーデン人を含む外国人達との接触を禁じられていた。
だがある時、一人の町娘が兵舎に住まうスウェーデン兵と恋に落ちてしまう。愛しあう二人はこの門の元でひそかに逢瀬を繰り返すようになったのだが、やがて当局にその事がバレてしまった。
ある晩、いつものように娘が門のところで待っていると、恋人の代わりに当局の警邏が現れて娘を捕らえてしまう。
そして哀れな娘は見せしめの為、生きたままこの門の壁の中に塗り込められてしまったのだと言う。
以来、真夜中にこの門の近くを通ると時々娘のすすり泣く声が聞こえて来るのだそうだ。
いかにもおとぎ話にありそうな、ちょっと残酷な作り話といった印象の物語なのだが、実はこの話にはさらなる後日談があったりする。
今から10年ほど前、伝説を科学的に証明しようと、この門の壁にスキャニングが掛けられたのだそうだ。すると、壁内部には実際に女性のものと思われる人骨が存在する事が判明したのだという。……いやはやすごい話である。
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さて、そろそろラトビアの食文化の話に移りたいと思う。
ラトビアの人々は、その歴史の中で柔軟にいろんな国の食文化を取り入れて来た為、なかなかのグルメぞろいらしい。
ビールが大好きで自家製のワインも好んで飲まれている。ごちそうと歌と踊りが好きな陽気な人々のようだ。日常的にはミートコロッケ、肉・魚料理、ポークリブ、蒸したザウアークラウト、ポテトや卵にサワークリームを添えたもの、野菜サラダなどがよく食べられているのだそうだ。
ちなみに、今回作ってみたのはこの3品。
・牛肉巻きのきのこサワークリーム煮
・カッテージチーズスクランブルエッグ
・スープルィブィヌィイ(魚のスープ)
まずメインは、牛肉巻きのきのこサワークリーム煮。
牛薄切り肉にマスタードを塗って、ハンバーグの種のようなものとドライプルーンを中に入れてくるくると巻いていく。塩こしょう、小麦粉を振ってフライパンできつね色になるまでじっくりと焼き上げる。この時点でもなかなかボリュームがあって旨そうなのだが、さらにマッシュルームとサワークリームのソースで煮込むのである。
出来上がった肉巻きを口に含むと、じゅわっと肉汁が溢れ出し来て実に美味しい。
肉と乳製品をたっぷり使っている割に、プルーンとサワークリームの酸味のおかげでさっぱりとした食感で最後までペロリと食べられてしまう。
ちなみに過去にもいろいろな外国の料理を作ったが、我が家で現在までで一番評価が高いのがこの料理だ。プルーンと肉を使用しているので、貧血気味の人にもオススメの一品である。
お次はカッテージチーズスクランブルエッグ。
カッテージチーズとサワークリーム、卵を混ぜ合わせてスクランブルエッグにし、スライスした玉ねぎ、スモークサーモンを添えたシンプルな料理だ。
スウェーデンの影響が大きい料理だと思う。
ビールやワインによくあうので、お酒が大好きなラトビア人が好むのもわかるような気がした。
最後はスープルィブィヌィイ(魚のスープ)。
ラトビアでよく食べられているスープはサワークリームの入った野菜スープや、ボルシチ系のビーツを使ったスープらしい。今回は既に2品にサワークリームを使用しているし、ボルシチはきっとロシアや他の東欧の国の料理を作る時に紹介する事になると思うのであっさりめの魚介のスープにしてみた。
ちなみにラトビアでは鮭や鯛、タラなどの白身魚を使う事が多く、赤身や光物はあまり食べないようだ。このあたりもスウェーデンなどの北欧諸国と共通している。
ちなみに、鮭はれっきとした白身魚ですよ?時々赤身魚と勘違いしている人がいるようですが、赤いのは単に食べている餌の影響なんだそうです。
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「ところでさー、その娘さんのお相手のスウェーデン兵は一体どうなったん?」
「あ、ボクもそれ気になってた!」
「そやろ?とーちゃんも気になって色々調べてみたんやけど、結局相手の男がどうなったかまではわからんかったわ」
「えー?けど恋人だけ処刑されて自分は咎め無しとかやったらソレはソレできつそうやなぁ」
「うーん、どうやろなぁ?相手は支配してた側の国の兵隊やから当時のラトビアの法では裁けへんかったやろし、裁かれたとしてもスウェーデンの軍規での軽い懲罰だったかもよ?いや、もしかしたらそもそもスウェーデン軍はラトビア市民との付き合いを禁止なんかしてへんかったかも知れへんし。軍隊なんか男所帯な訳やから女買ったりする事もあったんとちゃうやろか?」
「うわぁ、それって生き埋めにされた娘さんって、ひょっとしたら単に遊ばれてただけかも知れんって事?」
「わからんけど、そういう事もありうるかも知れんなー。」
「うぅ……オトナってキタナイ」
レシピ詳細
●牛肉巻きのきのこサワークリーム煮
材料 ( 5人分 )
牛薄切り肉(豚でもいい) 10枚
塩コショウ 少々
粒マスタード 適量
薄力粉 適量
サラダ油 少々
■ 具
合びき肉 180g
玉ねぎ(みじん切り) 1/4個
にんにく(すりおろし) 1片
卵 1個
パン粉 大さじ3
牛乳 1/4カップ
塩コショウ 適量
プルーン 20個
■ ソースの材料
マッシュルーム(スライス) 1缶
バターまたはマーガリン 大さじ1
水・サワークリーム 各1/2カップ
塩コショウ 少々
1.ボウルにプルーン以外の具の材料を入れ良く混ぜ合わせる。
2.牛肉を広げて粒マスタードを塗り、10等分にした1の具とプルーン2個をのせて、くるくる巻く。
3.巻きあがったらまとめて塩コショウを振り、小麦粉をまぶす。
4.フライパンにサラダ油を熱し、3を転がしながら全体的にきつね色になるように焼いて皿に取り出しておく。
5.4のフライパンにバターとマッシュルームを加えて炒める。
6.5のフライパンに水、サワークリーム、塩コショウを加えて味を整え、4の肉を戻して5分ほど煮る。
7.ソースとともに盛り付け、付け合わせにポテトなどを添えたら完成。
●カッテージチーズスクランブルエッグ
材料 ( 4人分 )
卵 4個
カッテージチーズ 100g
サワークリーム 1カップ
スモークサーモン 1パック
玉ねぎ(スライス) 1/2個
1.ボウルに卵を割りほぐす。
2.カッテージチーズとサワークリームを加え、ダマにならないようによく混ぜる。
3.熱したフライパンで大きくかき混ぜるようにスクランブルエッグを作る。
4.スライスしたたまねぎやスモークサーモンなどを添えて盛り付ける。
●スープルィブィヌィイ(魚のスープ)
材料 ( 4~5人分 )
魚(今回はサーモン) 2~3切れ
じゃがいも 1個
にんじん 1/4本
玉ねぎ 1/2個
トマトの水煮缶 1/2缶
水 5カップ
塩コショウ 少々
ローリエの葉 1枚
オールスパイス・マジョラム 少々
イタリアンパセリ 少々
1.魚は一口大に切り、塩コショウを振っておく。
2.じゃがいも→一口大、にんじん、玉ねぎ→さいの目切り、トマト水煮→みじん切りにしておく。
3.鍋に分量の水、魚、じゃがいも以外の野菜、ローリエの葉を入れて強火にかけ、煮立ったらあくを取る。
4.弱火で15分くらい煮たら塩コショウとじゃがいもを加え、じゃがいもが柔らかくなるまで煮込む。
5.最後にオールスパイス、マジョラムを加えよく混ぜてから火から下ろし、皿に盛り付け、刻んだイタリアンパセリを散らす。