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4.溜息のペルー

「なぁ?とーちゃん」

「んー?」


 休日の昼下がり、のんびりとソファで寝転がりながら任天堂DSの画面を眺めていた長男が声を掛けて来る。


「異世界トリップものの話って、なんで大体が中世ヨーロッパ風の世界なんかなぁ?」


 どうやらゲームをやっていた訳ではなく、DSのブラウザ機能を使ってオンライン小説でも読んでいたらしい。

このぐらいの年齢だと自由になる小遣いの額など知れてるから、無料で手軽に読めるオンライン小説は身近な娯楽なのだろう。

ちなみにうちの子達曰く、DSで表示させると、なろうのページレイアウトは文字サイズや横幅などがジャストフィットでとても読みやすいのだそうだ。


「うーん。そうやなぁ……やっぱファンタジーって言うと、RPGとか映画や小説の影響で剣と魔法、騎士、勇者をイメージする人が多いからとちゃうか?

エルフとかドラゴン、ゴブリンなんかの種族はヨーロッパ方面の民間伝承をルーツにしてるものが多いし、魔法の存在も中世の頃は信じられていたから、そういう混沌とした時代の世界観やったら、非現実的な事が起きても不思議ではないって感じなんかもなぁ。」


「ふーん、そういうもん?

最近はトリップした主人公が異世界のごはんに満足出来んくて、普段食べてたものを再現しようとする話とかも多いやん?実際のとこ、中世ヨーロッパの世界ってどんなごはん食べてたんかなー?やっぱあんまし美味しくなかったんやろか?」


「そういや異世界で和食とかカレーとかピザとかグラタン作ってるような話、よく見るな。

けど、アレはあくまで〝異世界〟で〝ファンタジー〟だからこそやしなー。実際の中世ヨーロッパとは全然別物やろ?

それに、そもそも現代日本人とは味覚も違うやろし、一概に美味しいか美味しくないかとは言えへんのとちゃうか。」


「そっかぁ。……あ、ところで今日のごはんって何?」


 ちなみに昨晩のうちに既に次男坊の手によって地球儀は回されていて、どこの国の料理を作るのかは決定済だ。

 

「今日はペルー料理。」

「なーんや、中世ヨーロッパと全然関係なやん。ファンタジーなごはん食べてみたかったな」



 が、意外にも南米ペルー料理と中世ヨーロッパの料理にまったく関係ないかと言えば、実はそうでもなかったりするのである。



 ++++



「パパラーパーラララーパーラララー♪ ペルー共和国。

ペルーは、南アメリカ西部に位置する共和制国家である。壮大な地形と気候が織りなす大自然が広がり、紀元前3000年頃から人々の定住が始まったと言われる。遺跡から過去に多くの文明が存在していた事が判明しているが、当時を伝える〝文字〟の発見が未だされていない為、詳しい歴史については不明な点が多い。」


挿絵(By みてみん)



 ++++



 じゃがいも

 トマト

 なすび

 ピーマン(パプリカ)

 とうがらし

 ししとう

 タバコ

 ホウズキ


これらの植物の共通点をご存知だろうか?


 家庭菜園でもやっていない限り普段あまり意識する事もないかと思うが、これらの植物は全て南米原産のナス科の植物で、16世紀にやって来た征服者達がスペインに持ち帰り、その後爆発的に世界中に広がっていったものである。

 つまりどういう事かというと、中世(5~15世紀ごろ)のヨーロッパにはこれらの植物は存在しないのだ。

トマトに至っては、ヨーロッパに伝わった後も17世紀のイタリア飢饉の頃まで「悪魔の実」だと信じられ、観賞用としてしか栽培されていなかった。

 それまでヨーロッパに自生していたメジャーなナス科の植物と言えば、マンドレイク(麻薬効果がある)や、ベラドンナ(毒殺に用いられた)などといった怪しげな植物ばかりだったから、尚更敬遠されていたのかも知れない。


 だが、現代ではこれら南米原産の食材の普及率は驚く程に高い。

こんな風に地球儀を使って世界の料理を作るようになってからつくづく感じるようになったのだが、昔から食べられているその国独自の伝統料理と言われているようなものでさえ、大抵なんらかの形でこれら南米原産の食材が使われている事が多いのだ。

 逆に改めて考えてみると、これらの食材が存在しなかった16世紀以前の人々が、一体何を食べて生活していたのか心配になってしまう。

おそらく食糧は随分と乏しく、飢えで亡くなる人もさぞかし多かった事だろうと思う。

中世以前の古い物語などを読んでいると、若年婚が盛んだったり、性に対して奔放だったりする描写がちょくちょく見受けられるのは、出生率を上げる為にも自然な事だったのかも知れない。



 ++++


 

 さて、そろそろ本日のペルー料理のメニューを考えてみたいと思う。

そもそも現代のペルーではどんな料理が食べられているのだろうか?

やはり移民が多い国らしく、スペイン、アフリカ、中国、日本、イタリアなどの文化の影響を受けている事と、地域によって手に入る食材に特色がある事から、かなり多様化しているようだ。

キャッサバや紫色のトウモロコシ、クイ(モルモット)、アルパカ(!?)など日本ではまずお目に掛かれないような食材も多い。

そんな中、日本でも材料が揃って調理が簡単なものを選んでみた。



 1品目は「ロモ・サルタード」。

牛肉とフライドポテト、野菜類をアジア系の調味料で炒めて白ご飯と一緒に食べる料理。


 まずはフライドポテトを揚げて置く。面倒ならば冷凍のポテトを買ってきてオーブントースターで加熱してもいいし、100円マックなど買って来るという手もある。

 玉ねぎやトマト、パプリカなどの野菜と牛肉を強火のフライパンで手早く炒めて、塩コショウ、醤油、酢などで味付けして、熱々の白いごはんに添えれば出来上がり。誰でも簡単に作れるずぼら飯だ。

牛肉はちょっと贅沢をしてステーキ肉を細く切ったものを使えば、ジューシーでなかなかに旨い。

 思いのほか馴染みの深い調味料で調理する為、はじめてこのレシピを目にした時はてっきり日本人でも作りやすいように都合よく調味料を置き換えているのでは無いかと疑ってしまった。

だが、ルーツを調べてみると19世紀に渡って来た広東系の移民が創作した料理で元からこういうものなのだそうだ。


挿絵(By みてみん)




 2品目は「ソパ・ミヌータ」。

直訳すると〝あっという間に出来るスープ〟という意味。

たっぷりの野菜とパスタが入ったミルク風味のスープ。


 じゃがいも、玉ねぎ、にんじんを細かく切って炒めた後、コンソメスープとパスタを投入する。

しばらく煮込んだ後、牛乳を加えて塩コショウで味をととのえるだけという、その名の通りとても簡単なスープだ。

乳脂肪分が多めの牛乳を使うと濃厚で優しい味わいになる。

 実はこのスープに入れるパスタ、米粉を使ったものが一番メジャーらしいのだが、別にマカロニやスパゲティ、そうめんなど割と何でもいいらしい。……さすがラテン系とでもいうべきアバウトさ?


挿絵(By みてみん) 




 3品目はデザート。「ススピロ・デ・リメーニャ」

直訳すると〝リマ娘のため息〟という意味になる。

思わずリマ娘もため息を吐いてしまうほど、とても甘くて濃厚なデザート。

何ともロマンチックな名前を付けたものだと思う。


 ドゥルセ・デ・レチェと呼ばれる焦がし練乳を作ってカクテルグラスに盛り付け、その上にポートワインで風味づけしたメレンゲをふんわりと乗せ、シナモンを飾った見た目にも上品な一品。

このドゥルセ・デ・レチェなるもの、本格的に作ろうと思えばかなり手の掛かるシロモノらしいのだが、缶入りのコンデンスミルクを使えば比較的簡単に作れる。

缶ごと鍋に突っ込んでグツグツと湯煎してしまうのだ。

しばらく煮込んでいるうちに徐々に色付いて来て濃厚な生キャラメルのような味わいになる。余ったら、パンやクレープに塗って食べても美味い。


挿絵(By みてみん) 




 ++++


 

「ふーん。ペールのごはんって割と普通なんやなー?

何も言わんと出されたら、絶対外国の料理やって気付かんと食べてると思うわ。なんかじーちゃんが作った料理みたい」


 うちのじーちゃんは長崎出身の人間なので、炒め物などには酢を掛けたがる傾向があるのだ。


「普通って言うか、日本人にも馴染んだ味って感じなんやろな。酢とか醤油とか使ってるし。白ごはんと一緒に食べるから尚更や。」




 馴染みやすくて簡単なペルー料理。良かったら一度作ってみては?

レシピ詳細



●ロモ・サルタード(ペルーの牛肉野菜炒め)

材料 ( 4~5人分 )

牛薄切り肉 180g

じゃがいも 2個

玉ねぎ 1個

トマト 1/2個

パプリカ 1個

にんにく(みじん切り) 1片分

サラダ油(炒め用) 適量

サラダ油(揚げ用) 適量

塩コショウ 少々

醤油 少々

酢 少々


1.じゃがいもの皮をむいて1cm幅のスティック状に切ります。

2.1のじゃがいもをきつね色に素揚げします(面倒なら冷凍のフライドポテトをオーブントースターでチンしてもいい)

3.牛肉、ピーマンは1cm幅に切り、玉ねぎ→くし切り、トマト→乱切り、にんにく→みじん切りに。

4.牛肉に塩コショウをしてから、フライパンでサッと炒めて取り出して置きます

5.フライパンで、にんにく、玉ねぎを炒め、火が通ったらさらにピーマン、4の牛肉、トマト、2のじゃがいもを加えて炒めます。

6.水大さじ1を入れ、塩コショウ、醤油で味をつけます。最後に隠し味程度に酢を加え火を止めます。

7.白ご飯と一緒に盛り付けてどうぞ。



●ソパ・ミヌータ(野菜マカロニスープ)

材料 ( 4~5人分 )

じゃがいも(小) 2個

人参 1本

玉ねぎ 1/2個

マカロニ 60g

一味とうがらし 少々

パセリ 少々

オレガノ 少々

塩コショウ 少々

固形スープの素 2個

水 500ml

牛乳 100ml

サラダ油 少々


1.全ての野菜を食べやすいように細かく切る。

2.鍋にサラダ油をしき、にんにく、玉ねぎを炒めます。

3.じゃがいも、にんじんを加えて軽くいためた後、水500mlと固形スープの素、マカロニ、一味とうがらし、オレガノを加えて煮る

4.野菜が柔らかくなったら塩コショウで味を整え、牛乳を加えてさっち煮たてた後、器に盛り付け、パセリを散らす。



●ススピロ・デ・リメーニャ(リマ娘のため息)

材料 ( グラス6~8杯分 )

■ ドゥルセ・デ・レチェ(焦がし練乳)

コンデンスミルク 1缶

バニラエッセンス 1滴

塩 1つまみ

卵黄 1個分

■ メレンゲ

ポートワイン 1/2カップ

卵白 2個分

砂糖 1/4カップ

■ シナモンパウダー(飾り用)


1.コンデンスミルク缶を使って焦がし練乳を作ります。圧力鍋に水を張り(缶に1cmくらい被るくらい)コンデンスミルクを缶ごと入れ、蒸気が出てから20分くらい加熱→20分放置

(圧力鍋が無い場合は普通の鍋でコトコトゆっくり煮てください)

3.ボウルに2のコンデンスミルクをあけ、バニラエッセンスと塩を加え混ぜます。

4.溶いた卵黄を漉したものを4に加え、なめらかになるまでよく混ぜ、ある程度冷えたらグラスに(グラス1/3程度まで)盛ります

5.メレンゲ用のシロップを作ります。

ポートワインと砂糖を小鍋でシロップ状になるまで煮詰めます。

6.煮詰めてる間に卵白を泡立てツノが立つようになったら少しづつシロップを加えてさらに混ぜます。

7.5のグラスにメレンゲを盛り、仕上げにシナモンを飾れば完成。

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