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1.乙嫁の国ウズベキスタン

【登場人物紹介】


鶏皮家の人々


・父(35)・

割とフリーダムに生きてるリーマン親父。バツイチ。料理する事は好きだが、大して経験がある訳でもなく特別なスキルはない。(離婚するまで厨房に立った事はほとんど無かった)


・長男(13)・

中2。お菓子を作るのが好き。少しパティシエ願望があるらしい。特技:5分間でじゃがいもを15個剥く事が出来る。


・次男(11)・

小5。好き嫌いが非常に多い。アイスクリームとジャンク食品がやたら好き。


・じーちゃん(71)・

頑固爺。我儘で怒りっぽい。かなりの甘党。


・ばーちゃん(65)・

平日の家事全般担当。その為、休日には一切働かない事にしている。口を開けば「なんかご馳走が食べたい」と言う。

 みなさんのご家庭には地球儀があるだろうか?

元々一般家庭で頻繁に使うようなものでも無ければ、学校教材に指定されている訳でもない。無駄に場所を取るし、油断するとすぐにホコリを被ってしまう。

それに加えて世界情勢というものは流動的であり、ここ数年間の出来事のみに絞り込んで見ても既に描かれた時の状態から様変わりしていて、〝地図〟としての正しい役割を果たせなくなっている物の方が多いのではないだろうか?

旅行やビジネスなどでより正確な情報を得たいと思っている人ならば、大抵はネットを利用するだろうと思う。



 さて、ここに一つそんな地球儀がある。

これは微妙アイテムでもある地球儀を、ある意味でとても有効に活用している一家のお話。



 ++++



――とある金曜の夜。鶏皮家


カラカラと乾いた音を立てて回る地球儀に「スタンッ!」と勢い良くタッチペンが突き立てられた。


「チャーラーラララーラーチャーチャラーラー♪ ウズベキスタン共和国。

ウズベキスタンは東洋と西洋の文化を繋ぐ交易路〝シルクロード〟の要所として古くから栄えて来た国。

まさに〝人種のるつぼ〟と呼ぶに相応しく、何世紀にも渡り様々な民族がこの地に移り住み、国の興亡が繰り返されてきました。」


 軽快なガイダンスが地球儀から流れて来る。型落ちした古いモデルではあるが、一時期話題になったしゃべる地球儀が鶏皮家では愛用されているのだ。


「へぇ、ウズベキスタンやってさ。

と言う訳で、とーちゃん! 明日はウズベキスタンのご飯に決定な。よろしくー」


「えっ!?ちょっ待て!なんやそれ?そもそもウズベキスタンってどこやねん」


「もー!ちゃんと聞いとかなあかんやん。ウズベキスタンはほらココ!シルクロードの要所で古くから栄えて来た国なんやってさ」


挿絵(By みてみん)



 次男坊が得意げな顔で地球儀をコンコンと叩きながら解説してくる。

ニヤニヤしながら無理難題を吹っ掛けて来る様はムカつくぐらいばーちゃんにそっくりだ。


「大体、地球儀で夕飯のメニューを決めるって何や? 所さんのダー○の旅かっちゅーねん!」


 今日のごはん何?とかじゃなく、今日はどこの国のごはん?って発想ですか。そうですか。

呆気にとられていると、背後から長男も面白そうに口を出して来る。


「ええやん別に。地球儀でご飯っていうのもおもろいやん?どうせ休みの日はとーちゃんがご飯作るんやし、たまには変わった国のもん食べるっていうのもマンネリにならんくていいんとちゃう?

それにじーちゃんとばーちゃんは体悪いから、もう行きたくても旅行とかも行かれへんのやし、とーちゃんが作ってくれたら我が家に居ながらにして世界旅行気分が味わえるで?

親孝行も出来て、変わったもん食えて、世界地理とか文化にも詳しくなれる。コレって一石二~三鳥なんちゃう?」


「……うぐぐ」


 

 その日、鶏皮家の家長はアッサリと家族に丸め込まれてしまったのであった。



 ++++



「へぇ。ウズベキスタンってアレか。乙嫁の国なんやなー」


 調理をするに当たっては、当然下調べが必要だ。

その点、ウズベキスタンという国は意外なところで資料が多かった。

森薫氏の人気漫画「乙嫁語り」の舞台になっている国なのだ。

 19世紀後半の若夫婦を中心とした遊牧民達の生活が描かれているのだが、〝乙嫁〟という言葉が表す通り、当時のウズベキスタンの花嫁の平均年齢は15~16歳とかなり若い。現在でも平均18~20歳までに結婚してしまうのだそうだ。


・コミックにも登場した屋台で売られていた大鍋で作られる焼き飯「プロフ」

・乙嫁たちが楽しそうにポンポンと模様を付けていたかまどの日の飾りパン「チャチチナン」


とりあえず今回はこの2品を作ってみようと思う。



 まずはプロフ。

これは中央アジア一帯で広く食べられている大鍋で作られる伝統的な焼き飯。地域によって700種類以上のレシピがあるのだそうだ。乙嫁の作中でも「ニンジンより玉ネギを先に炒めるべきだ」「ハミ瓜は入れないのか」などと揉めていた。

 中華鍋に大量の油を熱して玉ネギや肉を炒めていく。

実にいい香りがするのだが、この油の量というのが半端じゃない。なんと本来のレシピをそのまま忠実に再現すると実に2カップ(400ml)分もの油を使うのだ。

……さすがにちょっとコレは日本人にはキツイので、半分の1カップにまで減らしてみた。

が、それでもかなりの量だ。

適当な言葉が無いので、焼き飯やチャーハン、ピラフなどと訳されている事が多いのだが、水ではなく「油で米を炊く」感覚に近いかも知れない。

 この辺りの国では、日本で一般的なサラダ油(コーン油)ではなく綿油や亜麻仁油を使う事が多いらしい。

コレは当然と言っちゃ当然かも知れない。コーン油の原料であるトウモロコシは南米大陸がヨーロッパ側に〝発見〟されるまでは流通していなかったのだから。


 ニンジン、調味料類と水を加えて強火でしばらく煮込んで行く。

米を加えて平らに均し、クミンを振り入れれば美味そうな香りが漂ってくる。

乙嫁では鍋に皿を大量載せて落し蓋代わりに使っていたが、今回調べたレシピではこまめに米の部分を混ぜるとあったので、使用しなかった。

やはり地域によってかなりレシピの差があるようだ。

 後は、にんにくやひよこ豆の水煮やレーズンなどを加えれば完成。肉の串焼きを添えて食べるとなかなかボリュームのある一品だ。


挿絵(By みてみん)


 お次は、かまどの日に乙嫁達が寄り集まって楽しそうにポンポンと模様を付けていたチャチチナン。

チャチチというのは、活け花に使う剣山のような物に大きめの角印鑑のような木製のグリップ部分が付いた道具だ。

 洋菓子のタルトなどを焼く時にもフォークなどで空気穴ピケをあける事がある。

これと同じ理由で生地に気泡が出来たり浮き上がらないようにする為のものなのだが、ウズベキスタンの市場に行くと実に色んな形のチャチチが売られていて、作り手によって様々な模様の華やかなナンが出来上がるのだそうだ。

 生地をこねて発酵させ、丸く伸ばして空気穴を開けていく。

本当はチャチチがあれば理想的だったのが当然そんなものは持っていないので、フォークとクッキー型で適当に模様を付けてみた。

 後からよく考えると、剣山を使えばよかったかも知れない。次回また作る機会があるとすれば剣山を使ってみようと思う。


挿絵(By みてみん)

※画像は焼き上げる前のもの。


 後はハケで濃いめの塩水を塗って、焼き上げれば完成。シンプルなので現地では一度に大量に作って保存する事が多いようだ。 

 ナンもまた広い地域で食べられている食品なのだが、このウズベキスタンのナンは少しもっちりしたインド系のものとは違って、少し歯ごたえがあり塩気があって飽きない風味だ。

 形を作って一度焼き上げてしまえば結構しっかりしていて、フリスビーのように投げても平気そうな気がする。


 

 後はおまけで、ウズベキスタン風のマントゥ(餃子)や大根サラダなども添えてみた。

同じ餃子でもウズベキスタンのものはクミンやチリが入るのが特徴的。野菜が少ない中央アジアでは、サラダと言えば、根菜や豆のもの等が多いようだ。ヨーグルトを掛けて食べるあたり、遊牧民ぽいなと感じた。



 ++++



「で、どうなん?食べてみた感想は」


「クミンって苦手やったけど、料理に合っててすごく食欲をそそるんやね。」

「ビールにめっちゃ合うやん。これは是非羊肉バージョンを食べてみたいな。」

「パリパリの皮付きにんにくがホクホクで美味しいー!レーズンの甘さとかひよこ豆とか色んな味がアクセントになってるのがいい」



 どうやら概ね初のウズベキスタン料理は好評だったようです。 

レシピ詳細


●「乙嫁語り」に出て来た炊込ご飯・プロフ(サマルカンド風)

材料 (4~5人分)

米 3合

玉ねぎ(中) 2個

人参 1と1/2本

サラダ油+オリーブオイル 合わせて1カップ

水 500ml

クミン 大さじ1×2回

塩 大さじ1/2

黒コショウ 大さじ1

ひよこ豆(水煮缶) 1缶

チリパウダー 適量

うずら卵 好みで

レーズン 1/2カップ

にんにく 1玉

鶏肉(もも肉) 2枚

■ 串焼き

鶏、羊、牛など好みで。 人数分×2本

塩コショウ 適量

パプリカパウダー 適量


1.玉ねぎはくし型、人参は細かめの千切り、鶏肉は一口大に切っておき、米は前もって5分くらい水につけておきます。

2.中華鍋で油を5分熱します(本来なら綿油か亜麻油がいいそうですが、手に入らなかったのでサラダ油とオリーブオイルをミックス)

3.玉ねぎを炒めます。(というより揚げてる感じ)

4.玉ねぎが飴色になってきたら、肉を投入。

5.人参と塩大さじ1/2を加えて味見しながらさらに炒めます。

6.水500mlを加え、強火で水が無くなるまで煮込みます。

7.6の上に米を入れ、平たくしてクミン大さじ1、黒こしょう大さじ1を入れて強火で2~3分。

8.上の米の部分だけ混ぜて、中火にしてまたさらに2~3分。というのを4~5回繰り返す。

9.さらにクミン大さじ1と皮をむいたにんにくの欠片を入れ、蓋をして弱火で30分ほど炊く。

10.最後にひよこ豆水煮と、レーズン、うずら卵を入れて混ぜたらプロフ本体は完成。

11.フライパンでお好みの肉を焼いて塩コショウ、パプリカパウダーをふり、プロフと一緒に盛り付けたら完成。



●「乙嫁語り」に出て来た花模様のパン「チャチチナン」

材料 (25cm/2枚)

■ 生地

薄力粉 150g

強力粉 150g

ドライイースト 小さじ1

砂糖 小さじ1

塩 小さじ1

ぬるま湯 1カップ

■ 仕上げ用

濃いめの塩水 適量

バターまたはマーガリン 適量


1.ボウルに生地の材料を入れ、よくこねる。

2.綺麗にまとまったら、ラップをして暖かい場所で40分ほど発酵させる。

3.生地が倍くらいまで膨らんだら、ガス抜きをして2等分し、25cmくらいの丸い円形に伸ばす。

4.生地の端を少し巻き込んで、平たい部分はフォークで穴を開け(空気穴です)抜き型などで模様をつける。

5.ハケで濃いめの塩水を塗る。(塩はダマにならないように綺麗に溶かしておく)

6.200度のオーブンで8分ほど焼いたら、冷めないうちに表面に軽くバターを塗る(好みで塗らなくてもいい)

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