第79話 コスタリア領都の日常8
「お茶にしましょうとは言いましたが・・・もうお昼に近い時間ですし、少し早い昼食にした方が良いかしらね」
「いいわね~、デザートは王都で流行りのプリンってお菓子をお土産で持ってきたからみんなでいただきましょう」
日当たりのいいサロンで休憩と軽い昼食にすることになったようだ。
王妃様と奥方様は元々親戚なので気心が知れた仲のようで会話がはずんでいる。
「それにしても聖魔法はすごいわね~。聖教会が政治への発言力や民衆への影響力が大きいのも納得がいくわね。あの奇跡を目の当たりにすると逆らえないわ・・・」
「聖魔法の素質はただでさえ貴重なのに鑑定の儀を教会で行うから素質のあった子はそのまま聖女候補などといって囲いこむのよね」
「貴族や大商人の子どもでも無い限り教会からの報酬の魅力と圧力には勝てないでしょうね」
「あのゴブリンちゃんの仲間はまだいるのかしら?一度、東の森へ討伐部隊を派遣するようお願いしてみようかな~。私の指揮下で」
「私たちがまだ捜索していないとでも思って?ミセッティを見つけた森と付近の洞窟は一通り調査させているわよ。近い時期に小規模なゴブリンの氾濫があったようだけどあっさり近くの町の冒険者ギルドだけで鎮圧されたってことだし、捜すだけ無駄な労力になりそうね」
「あ~あ、王家、いや内緒で私の専属として一匹欲しいわ~。臣下の持ち物を欲しがるのはご法度だけどアレはちょっと独占欲への刺激が強いわよ」
「ふふふ、ミセッティはコスタリア家でも専属のメイドがしっかり監視して体調管理していますからね。通常のゴブリンよりも長生きしてもらうわよ~。本人も健康には興味があるらしく毎日朝に体操や走り込みをしているしね」
「えっ何それ、かわいいじゃない。人間みたいね」
「本当にね~、本も読めるし《《簡単な》》計算もするしお金も好きだし変わっているのよ。言葉が通じるのはアイラちゃんだけなのが難点だけどね」
「計算も出来るの?やばいでしょ、それは。私だったらこっそり執務をやらせちゃうかも。いや、さすがに魔物に内政に関わらすのは貴族の誇りがさせないか」
「・・・このお茶はダンドール家からいただいた隣りの大陸からの輸入品で香りがまた国内産と違っておいしいわよ」
「ああ、そういえばダンドール子爵のお嬢様の問題も解決してくれたのでしたね。あの小僧、次の淑女会の議題にあげて追い込んでやるわ」
「女癖が悪いといえば王家にも聖魔法の使い手がおられたじゃないですか」
「ああ~、10歳下の《《元》》王弟陛下か・・・いたわね。確かサイネリアちゃんと一つ年下の学年だったかしら?」
「確かオーデンハルト殿下ですね、学園と入学と同時に聖魔法で回復させてあげるからと女の子を誘いまくって王家への悪評と反感をばらまいたという」
「あの時も淑女会で議題にあげて王家に苦情申し入れをしたんだったわね」
「私も生徒会代表としてしっかりと悪行を証言いたしましたわ」
「ひぇぇ、軍閥組の奥様たちにも手を出すなんて命知らずな・・・」
マリーが思わず会話に反応してつぶやいてしまった。
「いいえ、マリー。逆です。ほとんどの女生徒にちょっかいを掛けていたのに奥様たちに《《手を出そうとしなかった》》から逆鱗に触れたのです」
「うわっ、それは・・・やばいっすね」
入口に立っていたライアンも思わず反応してしまった。
「ところかまわず女の子を誘うのもダメ、誘わないのもダメ・・・自業自得ですね」
マリーがうんうん、と頷いて納得している。
「ふふふ、ライアン君も軽口をたたいて女性を口説くのもいいけど、ヤケドじゃすまない相手もいることを肝に命じておくのですね。女心は複雑なのよ」
「ははっ、自分は大丈夫であります」
「王様は最後までかばっておられたけど結局は学園を2年で退学になり南方の直轄地への内政補助として飛ばされたのですわ」
「そこで大人しくしていればまた王都に戻ってこられたものを、今度はバカンスに来ていた他国の貴族の奥様に手を出しちゃったから最悪でしたね」
「ええ~・・・それは初耳ですね。勉強のために他国にしばらく出張して滞在されているとの話を聞いておりましたが」
「表向きはね・・・国際問題に発展しそうなところをこちらがかなり不利になる交易条件を呑んで無理やり無かったことにしたのですわ。今考えると全てハメられた可能性もありますが・・・言い訳が出来ない状況だったそうです。さすがにあの時は王様もご立腹で王位継承権の剥奪と10年間の社交界からの追放、つまり貴族としての死刑宣告となったのです」
「でも本人は気にしてなさそうですね」
「全くです、こちらは隠蔽工作と他国への配慮にどれだけ苦労したかも知らずに。本人は10年ぐらい旅に出て美味しいものと美しい景色を見てくるなどとのたまったらしいですからね」
「どうせ行く先々で女の子に手を出しては問題が起こしているんでしょうね」
「聖魔法は低レベルしか使えないようですが顔だちが良いのでタチが悪いのです」
「どこかでまた追放されているか、女の子に背中を刺されて野垂れ死にしているか・・・最近はぱったりと連絡も無いようですが」
「どうせ居てもたいして役に立たずに女を泣かせてばかりいるのですからそんなに女が好きならゴブリンやオークに捕まって種馬にでもなっていれば良いのです」
サロンに通じる部屋の扉がノックされてお嬢様たちが入ってきた。
「失礼いたします、遅れて申し訳ありません。ミセッティの治療も終わりました」
「ゴブ~」(全然痛くなかったゴブ~。お菓子をもらうゴブ~)
すっきりとした顔で入ってきたミセッティは肌こそ緑色だがゴブリンにしてはかなり人間に近い整った顔立ちをしている。
「あはは~、まさかね~」




