第103話 招かれざる客10
今度はどうやら貴族としての礼節やマナーを比べて勝敗を決めるらしい
こっちはゴブリンだし向こうは猫やぞ・・・
一体何を求めているのか
「ふふ、いつも教えている通りに優雅に振舞えばよいのです。出来なければいつものアレですわよ?心して臨むのですよ」
「にゃ~、ビリビリはもう勘弁してほしいのにゃ~。頑張るのにゃ~」
ケット・シーさんはスキルでテイムされている訳ではなく隷属の契約書で従わされているらしく命令に逆らったり主人の呪文で雷魔法の電撃が入るようになっているらしい・・・少しかわいそうな話ではある
対決とは言ってもとりあえずは一旦休憩としてお茶をいただくことになった
アイラお嬢様とわたしが隣り合ってイスに座り、対面にシンシア様とケット・シーが横並びに座る
手慣れた手つきで音もたてずにコスタリア家のメイドさん達が紅茶とお菓子をきれいに並べていく
「ふふ、お菓子を前にいきなりがっつかなくて偉いじゃない、ゴブリンですのに」
「ええ、まあ。ミセッティは普段からお母様たちとお茶を楽しんでいるようですからね。最低限の作法は身についているのですわ」
お嬢様たちが他愛もない会話の中に相手を牽制した皮肉を交えて会話を始めている
わたしはお嬢様たちに気付かれないようにスプーンを長い棒に変化させハンカチを丸めて縛り、少しほどけさせてふわふわの毛玉にした
まるでウサギのしっぽのように可愛いのモフモフの毛玉棒が出来た
そう、俗にいう猫じゃらしが完成したのだゴブ
「王都では黒髪の一族という方々が新しい料理やお菓子、音楽などを披露されてとても賑わっているのです。先程勝負に使った白黒大逆転も最近になって発表された新しい遊戯でしたのにさすがコスタリア家ですわね、完敗でしたわ」
「え、ええ、まあ。少し前にお父様が手に入れてお土産にいただいてはおりました、単純ですが奥が深い遊戯盤ですよね。ミセッティが何故か得意なのですが」
「ほほほ、単純な遊びには単細胞な生き物の方が向いているということかしらね」
軽くディスられていますね、単細胞のスライムになれなかったゴブリンですが何か?
わたしはお嬢様たちに見えずにケット・シーだけに見えるように机の下で猫じゃらしをぴこぴこと振って挑発してみた
「!!」
ケット・シーは即座に猫じゃらしに気付き、耳がピーンと立って凝視している
ちらっ。ちらっ。さささっ。
わたしは机のカゲに見えるか見えないの微妙な位置で人には聞こえない程度にこすれる音を出しながら猫じゃらしを振り続ける
「フッ、フシュー、フッ、フッ」
ケット・シーの鼻息が少し荒くなってきた、もう少しだな
「ねぇ、ミセッテイ、あなた白黒は初めてやった時から強かったですよね?」
お嬢様がわたしに声をかけてきてわたしが少し目線がお嬢様に向いた瞬間
「フシャー!!」
ケット・シーがイスから飛び出し猫じゃらしに突進してきた
「きゃっ、なになに?突然」
「フシャー、フシャー!」
突然ケモノと化したケット・シーにお嬢様たちはびっくりしている
「ゴブ、ゴブゥ~」(ぶははは、ほ~ら、ほ~ら~)
わたしはさらに大きく猫じゃらしを振り回し挑発してみる
「シャー!シャァァー!」
ケット・シーは床を転がりながら必死に猫じゃらしを掴もうと夢中に追い回してくる
「くっ、上品なお茶の場で何たる失態。#$#*#・・・静まりなさい!」
シンシアお嬢様が小声で何かつぶやいて命令し始めた
「にぎゃ~、ビリビリはやめてにゃ~」
シンシアお嬢様が命令を発するが早いかケット・シーが頭を押さえて転がりだした
「ゴブ、ゴブ~」(ぶひゃひゃひゃ、最高ゴブ~)
わたしはヘソ天して痛がるケット・シーを見て腹を抱えて笑ってしまった
「こらー、ミセッティいつのまにそんなものを作っていたの!お茶の時間にそんな遊びをしたらダメでしょう。すみません、シンシア様うちのミセッティがいたずらを」
アイラお嬢様に怒られてしまったゴブ
こちらはお行儀対決を有利に進めようと思っただけなのに・・・なんちゃって
人間のように振舞っていても所詮は猫。本能には勝てないのだなぁ、ぷぷぷ。
あ~、面白かった
わたしはもう一度猫じゃらしを大きくブンブン振り回してやった
「フシャー!」
またケット・シーの奴が両手を伸ばして飛び込んでくる
こりない奴め、ほらほら~簡単には掴ませないゴブ
「だ~か~ら~、やめなさいって言ってるでしょ~が」
アイラお嬢様に頭をはたかれて猫じゃらしを没収されたゴブ
家庭内暴力反対ゴブ。
あ、でもここは脳筋の軍派閥でした、日常で普通に命のやり取りがあります
アイラお嬢様もやはり血筋は争えませんね
「・・・何かまたバカなことを考えているでしょう、とにかくマナー対決はもう終わりです。先に手をだして挑発したこちらが負けで結構ですわ・・・」
なんとアイラお嬢様が負けを宣言してしまった
せっかく猫じゃらしまで作って有利に進めたのに・・・ぐぬぬ
「ええ、まぁこちらも躾が不充分で醜態をさらしたことをお詫びいたしますわ」
シンシアお嬢様もお詫びを入れながらも勝ちを譲るとは言っていない
礼儀、マナー対決はわたしの負けで決定してしまったようだ、許すまじ
澄ました顔をなかなか崩さない公爵家のメイドさんたちも今回の件は動揺したようだ、壁際に控えていたのにいつの間にか2歩ほど離れたところまで近づいてきて気配を消して佇んでいる
「はぁはぁ、ホントにもうやめてくださいぃ・・・泣きますよ、もう」
マリーの奴が後ろで過呼吸気味にぐちぐち言っているな
悪者にされて泣きたいのはこっちだってのに
わたしはふてくされて机の上に散らばってしまったクッキーを一つ空中に放り投げて手を使わずに口でキャッチして食べた
甘いものでも食べなきゃやってられないゴブ
なんだかこの体になって動態視力が上がった気がするな
「・・・礼儀作法は私たちの負けということで構いません」
アイラお嬢様がもう一度マナー対決の負けを宣言した
解せぬ・・・




