表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
零時のログ  作者: 橋本陽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/14

1-2

引き続き感想アドバイス等いただけますと嬉しいです。

よろしくお願いいたします。

「やっと着いた! 雪、降るかと思った」

 明るい声。結菜の肩がほどける前に、胸の奥が痛んだ。梨央だ。自分の親友。来るなんて聞いていない。聞いていたら、この旅行に来ただろうか。


 梨央はコートの襟を立てたまま、航を見て眉を上げた。

「なに、ちゃんと来たんだ」

「来たよ。約束したし」

 航の声が、ほんの少しだけ低くなる。結菜はその変化に気づいてしまう。気づくのは得意だ。気づいた後、どう扱えばいいのかが下手なだけで。


 梨央の後ろから、男が入ってきた。背が高く、眼鏡の奥の目が落ち着いている。荷物は最小限。コートのポケットに手を突っ込んだまま、周囲を一度だけ見回していた。

「修です。……久しぶり」

 修は航に向かって軽く顎を引いた。

「相沢さん、ですよね。梨央から聞いてます」

結菜の方には、初対面の礼儀の角度だけを向ける。


 聞いてます、という言い方が妙に引っかかった。私の何を? 旅行のこと? それとも——。

 結菜が口を開く前に、梨央が先に笑った。

「結菜、びっくりした? ごめん、言うと逃げると思って」

「逃げるって……」

 言い返そうとして、結菜はやめた。ここで声を荒げたら、目的が壊れる。目的。関係修復。その言葉を、結菜は何度も頭の中で転がしてきた。転がすほどに角が取れて、結局何を修復するのかが曖昧になる。


 峰岸は混乱した様子を見せない。むしろ、全員が揃ったことを確認するみたいに宿帳を閉じた。

「お越しいただきありがとうございます。航さま、結菜さま、梨央さま、修さま。静香さまは、少し遅れると連絡が入っております」


「静香って?」

 結菜が口に出したのは、それが誰か知らないからだ。知らないのに、喉の奥に小さな棘が立つ。名前だけで嫌な予感がする。

 梨央は笑って、笑いきれないまま言った。

「来るよ。——今日の“精算”には、必要だから」


 精算。会計みたいな単語が、なぜこんなに重く響くのだろう。

 結菜は思わず航を見た。航は視線を逸らし、ロビーの壁の写真を眺めている。山の稜線。川。季節の花。どれも人がいない。ここには、生活の匂いがない。残っているのは、“記録”だけだ。


 峰岸がカウンターの下から鍵束を出した。鍵は二つだけ。金属が触れ合う音が、妙に大きく響く。

「お部屋は二階になります。本日は——」

 峰岸は言いかけて、ほんの一拍だけ言葉を選んだ。選んだのではなく、確認したみたいに見えた。

「——本日は、皆さまに同意をいただいた上で、ご滞在いただきます。ご安心ください」


 結菜は思わず眉をひそめた。

「同意、って……さっきの規約ですか?」

 峰岸は結菜を見た。その視線には、感情がない。あるのは、確認。

「はい。——同意は取れてます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ