初登校の日って本当にそんなにワクワクするの?
俺は退屈だ。
いや、本当に退屈だ。
初登校の日、教室の前列に座らされるなんて…
まるでこれで僕が天才になれるかのように。
先生の話なんて聞いちゃいない。
いや、聞きたいとも思わない。
もし十二歳の時点でこんなことをやらされるなら、未来は一体どうなるのだろう…
ため息。
東京には二週間前に引っ越してきた。
父の仕事の都合で、新しい支店を手伝わなければならないらしい。
まあ、父の言うことだ。
うん、めんどくさい。
本当にめんどくさい。
父親?
背骨のない人間だ。
「タノリ!!」
先生の声が夢から引き戻す。「クラスのみんなに話したこと、わかったか?」
脳が飛び上がった。
「は、はい、先生…」
無関心な目で見つめる僕に、先生は言った。
「じゃあ、言ったことを一言一句繰り返してみなさい」
…終わった。
「えっと…確か…グループでペアを作る話だったような…」
口ごもる僕を、冷たい視線が射抜く。
(食べないで、先生…)
そして小さな舌打ちが聞こえた。
「ジュリアナと組め」
うざい。
指示されるのは慣れてない。
でも、選択肢はない。
立ち上がってジュリアナの隣に座る。
後ろの冷たい視線はまだ僕を追ってくる。
しょ〜しょ〜
ジュリアナ、か。
顔を見た。
特別なことはない。
少し背が高く、肩まで真っ直ぐな黒髪。
穏やかで平凡な顔。意図的に控えめな印象。
落ち着いた目。静かな表情。
一見して何も目立たない。
でも…その視線はちょっと変だ。
待て、待て…
あれ、彼女ってあの男子を堂々と抱きついていた子だよな?
初日からパートナーがそんな子だなんて…
まあ、僕から見れば“そういう子”だ。
抱きつくのが普通なのか?よくわからない。
少し気持ち悪い。
彼女は僕をまるで謎の宝物みたいに見ている。
まずは挨拶だ、後回しにするな。
「はじめまして、タノリ・ナリナです。よろしくお願いします」
彼女の目が輝いた。
うわぁ…。
「ええ…最高のプロジェクトにしようね!新入りだよね?顔が小さくて可愛い〜、赤ちゃんみたい!」
可愛い…?
なにこの子…
これが噂のフラグ?
面倒だ。
正直、恋愛ってよくわからない。
抱きしめ、キス、喧嘩…全部未知だ。
多分、一度も恋に落ちたことがないからだろう。
僕は歯を食いしばるのを我慢して、にこっと微笑む。
そしてノートにプロジェクトのアイディアを書き始めた。
「どう思う?人種差別とか…いや、差別の話でもいいかな」
そっと尋ねる。
「うーん…別に、どっちでもいいよ。提出できれば何でもいい」
その答えに少しムッとした。
ほとんど丸投げじゃないか。
「でも、一緒にやろうよ」
「もうやってるよ!!」
からかうように言うジュリアナ。
「君を見てるのも仕事なんだから、けっこう大変だよ?」
「…それは仕事じゃない」
噛みしめすぎて歯が痛い。
バレてないといいけど。
ジュリアナは笑った。
「冗談だって。さあ、やろう」
やっと。
うんざり。
そして、そんな風にして、僕たちはこのくそったれプロジェクトを一時間かけて仕上げた。
ベルが鳴る。
鋭く、突然。僕の集中を引き裂くように。
素晴らしい担任の先生は教室を去り、昼休みになった。
僕は席に戻り、鞄から弁当を取り出す。
一人で静かに食べるつもりだった。
平和に、静かに。
もちろん、そんなことは長く続かない。
「タノリくん!!一緒に昼ご飯食べよう!!」
うわ。
名字なしで呼び捨て…?
断れない。
断れば印象が悪くなる。
漫画のかっこいい主人公みたいに堂々と無視できればいいのに。
社会生活は生き残らなきゃいけない。
「…わかった」
僕は彼女について外のベンチへ。
三人の女の子が手を振っている。多分ジュリアナの友達だ。
一人がジュリアナに飛びつき、抱きつく。
「ジュリィ!」
青髪の子とジュリアナは特に親しいらしい。
残り二人は笑顔で手を振る。
僕たちはベンチに座った。
「みんな!新しい友達だよ。タノリっていうの。ちょっとおとなしいけど、楽しい人!」
誰が友達になりたいって言ったんだ…
「とにかく、タノリ、紹介するね。幼馴染の明莉、華奈、美優」
どうでもいい。
挨拶だけはした。
少し緊張していた。
「ジュリアナ、失礼じゃない?」
眼鏡の短髪の子、華奈だろうか。
「名字で呼ぶところから始めるべきじゃない?」
「そんなの必要ないもん。もう友達だから…ふん」
この子…
僕たちは弁当を食べ始めた。
「タノリくん、名字は?」
青髪の子、明莉だ。
「ナリナだ」
「へえ…いい名字だね」
正直、この状況は好きじゃない。
普通の人なら、男一人に女子四人なんて夢のような光景。
でも僕には少し…いや、かなり居心地悪い。
なんでだろう、僕の知ってる“普通の人”はこういうときもっと平然としてる。
まあ、漫画の主人公でもない限り、仕方ないか。




