第4話:微細な証拠
森の湿った空気が肺を満たす。翔子は石版の横に落ちていた微細な砂粒に目を止めた。
「…この砂の流れ、規則的だわ」
指で慎重に掬い上げ、ルーペで観察する。細かい線が、遺跡の文様と微妙に一致している。
ロンはその横で膝をつき、足跡を追っている。小さな穴や土の盛り上がり、葉の散り方まで見逃さない。
「この足跡、二人分以上の動きがあるな。時間差が微妙に違う」
翔子はノートに図示しながら、文献と現場の差異を再確認した。
「理論だけじゃ、見落としていたわ…」翔子は自分の頭を軽く叩く。
ロンが微笑む。「直感は正しい。文献と現場、両方を繋げれば真実に近づく」
二人が調査を進めると、石版の隅にわずかに掘られた線を発見した。
「これ…文様に隠された矢印?」翔子の声が震える。
ロンは頷き、「見落としやすい場所だ。でもこの矢印が次の手掛かりになる」
森の奥から、風に混じる葉の擦れる音が聞こえた。
翔子は一瞬身を固くする。「やっぱり、誰かいる…」
ロンは静かに視線を森に投げ、「俺たちだけじゃない。用心しろ」
翔子は深呼吸し、ペンを握り直した。
「小さな証拠でも、無視できない。全部繋げるの」
微細な砂文様、足跡、石版の矢印。
現場に潜む真実の断片は、理論と直感を交差させる二人にだけ、その意味を示そうとしていた。
森の静寂が続く中、遠くの木陰に影が揺れる。
誰の目か、まだ分からない。だが、次の行動を見極める緊張は、二人の心に刻まれていた。




