第2話:初めての現場
森の匂いが鼻腔を満たす。湿った土と苔の匂い、遠くで小川がかすかにせせらぐ音。翔子は足元の地面に目を落とす。細かい砂文様が、図書館で見たものとわずかに異なっている。
「…これが現場の文様…?」
声は震えていた。理論では説明できない微妙なずれ。翔子はメモを取り出すが、手が少し震えている。
ロンが横に立ち、足元を慎重に確認する。「滑りやすい。気をつけろ」
その指示に従いながらも、翔子は心の奥で新たな好奇心が芽生えていることに気付く。理論だけでは届かない現実が、ここにある。
足跡が土にくっきりと残っていた。小さな動きひとつで土が崩れる。
「これ…誰か最近通った形跡…?」
ロンが視線を翔子に向ける。「間違いない。ここに何かある」
二人は少しずつ慎重に遺跡を進む。木漏れ日が影を作り、石の表面に微細な模様を映し出す。
翔子は指先でその文様をなぞる。論理の頭で考えるのではなく、直感で読むしかない。
奥の岩陰で、わずかに光るものを見つけた。古びた石版の角が土に埋もれている。
「ロン…これは…」
ロンは膝をつき、石版の端を丁寧に掘り出す。「見つけたぞ。これが初めての証拠だ」
その瞬間、遠くの森の陰で葉がかすかに揺れる。誰かが見ている気配。
翔子の心臓が早鐘のように打つ。
田辺圭か、それとも他の人物か――。
翔子は深呼吸し、石版に刻まれた文様をスケッチし始める。
小さな証拠が、やがて大きな謎への扉を開くことになるのを、まだ誰も知らない。




