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第四話

 次弾は撃ってこない。物陰に隠れているから様子を見ているのか、それとも移動しているのか。


「ハーツ! 俺がいつも通り隙を作る!」


 ブリッジが軽機関銃を構え直していた。


「五秒オーバーなんて、そう何回も正確に射撃できるもんじゃねぇ!」


 狙撃手の天敵は、狙撃手の存在に気づいている敵だ。弾が当たらないように適当なステップを踏んで走り出すからだ。

 これだけで、狙撃の難易度は何倍にも膨れ上がる。


 だからこそ、狙撃手は一撃離脱を求められる。その上、標的を狙うのにその場で何十時間も潜んでおかなおといけない忍耐力もいる。


 普通に当てはめるのなら、一発目を外した時点で二発目は当たらない可能性が高い。


──しかし、本当にそう?


 頭の中で、引っかかる。その引っかかりを答え合わせするかのように、空中で風の乱れが起こった。

 静寂に紛れて、微かな機械の駆動音が聞こえる。


 見上げる。そこには何台かの小さなドローンが飛んでいた。今やコストの問題で使い手が少なくなったため、とても希少だ。


「ハーツ、行くぞ!」


 ハーツの返事を聞く前に、ブリッジが立ち上がる。


「だめ──!」


 血が飛んだ。走り出したブリッジの肩に穴があいた。

 喉から声を漏らし、彼はうつ伏せに倒れる。地面を濡らす赤い液体は、彼の生命力を吸い取っているようだ。


「あのバカっ!」


 ロードが身を隠しながら、舌打ちをする。


「どうやら敵は相当やるな……」


 フラッグはため息混じりに、続ける。


「ブリッジはわざと生かされてる。こっちが助けに飛び出すのを待ってるんだ」


 彼のその見立てに、ハーツは全面的に同意だった。


電磁パルス(EMP)はある?」

「……あるけど」


 ハーツの問いにロードは困惑気味だ。

 それはそうだ。今ここで電磁パルスなんてものを使えば電子機器が全面的にショートしてしまう。通信機器で連絡が取れなくなるのはもちろん、トラックも使えなくなり自分たちの撤退の足を削ぐことになる。

 それでもと、ハーツは言った。


「ドローンで観測されてる」


 ハーツが上空を指さした。フラッグとロードがつられて見る。

 小型のドローンたちが、こちらを監視するかのように左右に動いている。


「わかった、使え」


 フラッグの判断に、ロードは頷く。


「飛ばした瞬間、私が狙撃手に牽制する」


 ハーツは自身の狙撃銃を握りながら答えた。


「当てられるのか?」

「無理。さすがに狙う暇はないから」

「……分かった。牽制の間、俺がブリッジを救出する」


 会話で最善を組み立てていく。最悪にならないための道筋を。


「行くわよ」


 ロードが取り出したのは、少し大きめの機械。何やら上軸と下軸で回転が逆になっているものだ。内部が青白く光り、擦れる音とともに回転が速くなっていく。

 臨界点に達するとともに、周囲に音と光りの膜が飛び散った。近くのトラックからスパークが飛ぶ。

 空中を飛んでいたドローンたちは、煙を吹きながら落下した。


 瞬間──ハーツは物影から顔を出す。狙撃銃の銃身を固定し、照準器を覗く。

 遠くで光が瞬いた。太陽光を相手の狙撃銃についてる照準器が反射した光だ。それを頼りに、ハーツは引き金を引く。


 銃声が鳴った。マズルフラッシュが銃口から飛び出す。同時に、ハーツの頬に線がつくように傷がつく。敵の狙撃銃の撃った弾が、掠めたのだ。

 それは相手の狙撃の精度が落ちていることを暗に示していた。


 相手の照準器が反射する光が少し揺れた。

 銃声を聞くと同時に、フラッグが飛び出してブリッジの体を引きずる。

 物影まで運ばれたブリッジの近くに、ロードが近寄った。


「あぁ、ちくしょう……」


 息も絶え絶えのブリッジに、ロードが治療をし始める。


「くっそ、肩がクソいてぇ」

「そんな風に軽口叩ける内は、大丈夫よバカ」


 口調は刺々しいが、ロードの言葉の端には安堵が混じっていた。


 ハーツは小さく呼吸を整えながら、瓦礫の陰に隠れる。ボルトを引いて、薬室から空薬莢を取り出した。

 それは地面に当たると、甲高い金属音が鳴る。


「ハーツ、行けるか?」

「……距離を詰めれば、相手の優位は崩せる」

「わかった、俺はここで牽制する。二人をこのまま置いてはおけない」


 確かにフラッグがここを離れるのは愚策だ。


「お前に負担をかける。すまない」


 彼は拳を握っていた。不甲斐ない隊長だと自分を責めているのだろう。

 その気持ちを汲んで、ハーツは狙撃銃を握る。


「大丈夫」


 小さく言うと、フラッグが応えるように頷いた。


 呼吸を少しずつ大きくする。心の中で三カウントすると、物陰から飛び出した。


 ハーツの脚近くを掠るように二発の銃弾が飛んだ。やはり、精度が落ちている。その上焦っている。

 二発連続で撃ったということは、相手の一撃一殺思想が崩れたということだから。


──愚策。


 ここで初めて、ハーツは相手への評価を下した。

 二発連続で撃てたということは、持ってる狙撃銃はボルトアクションでは確実にない。

 観測係がいないと、超長距離狙撃は成り立たない。


 必然的に相手も詰めてくる必要があるのだ。


 ここからは、どちらが先に有利位置を取るかになってくる。


──引きずり下ろした。


 ハーツは確信を持って、建物の中に入り込んだ。

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