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1 -8 奇才塾の天才女優⑧

 そして、その約1カ月後、キャストや撮影関係者のみ参加で、試写会が行なわれた。


 その映画「クイーンダイヤモンド号を救助せよ!」は、その救出劇に合わせて、救助隊員たちの温かい心を通したヒューマンドラマでもあった。いきなり、オープニングからの客船の衝突事故の迫力がすさまじい。最初から、多くの見どころを重ねて、観るものを惹きつけてやまない展開が続く。


 そして、たった2人の女性隊員は、その作品の中では年齢的な違和感など全くなく、それよりも2人の隙のないシャープな対応がとても光っていた。途中、いくつかの緊縛したシーンでの2人のセリフは、さすがの演技力は、観るものを感動させる。ここで、監督も、やはり、この2人でよかったと、改めて実感した。


 すると、乗客が救命ボートに無事に移り、麗子は、男子隊員と最後の打ち合わせをしている一方で、救命ボートに、最後に移っていった女性隊員の吹雪すずめ。


 ここで、一言、乗客に、元気づけるため、ねぎらいの言葉をかける。という展開のはずだったのだが、そのシーンをみていた麗子は、唖然とした。


 そのシーンのすずめのセリフ。これは、一言くらいで終わるはずのシーン。ところが、意外にも長いセリフとなっていた。


 これは、どういうことなの。ここでは、一言のお疲れ様云々のような、簡単なセリフで終わるはず、しかし、30秒近いセリフになっている。台本にもないわ、こんなセリフ。完全なアドリブよ、ありえない。まして、こんな映画の本番で、アドリブは禁止のはずよ。


 実際、その時の撮影現場では、ありえないことが起こっていた。救命ボートに、乗客が全員移り、とりあえず、ホッとするシーン。


 もはや、緊縛したシーンも終わり、このシーンが終われば、すずめの出演シーンは最後になる。そして、その後、麗子が、やはり、帰りの船内で一言残して、すべての撮影が終了となる間近で、すずめから、


「麗子、事務所から、なんか、あなたに電話があって、すぐに連絡がほしいって言われたわ。すぐに行って。」


「えっ、こんな撮影中に?でも、今から、あなたのシーンがあるから、私の最後のシーンは、その後だし。じゃあ、その隙に、急いで行ってくるわ、すぐ戻るから。」


「あわてなくても、大丈夫よ。」


すると、すずめは、監督に声をかけた。

「監督、すみません。私の最後のシーンですが、すみませんが、スタートの前に、10からカウントダウンして頂いてもいいですか。」

「えっ、10からカウントダウンって、こんな本番であまりやらないよ、そんなこと。」

「そんな。お願いしますよ、ここが最後のシーンなので、ここまで撮影が長引いたので、ちょっと、このシーンに入るための準備に、呼吸を整える時間がほしいんです。」

「しょうがないな。わかったよ。今回だけだよ、10からでいいんだな。」

「すみません。ありがとうございます。助かります。」


すると、すずめは、


 やったわ。麗子、見ていなさい。私の、奇才塾での成果を。


 すると、監督が10、と発すると、すぐに、すずめは、監督に向けて、変調波動を発し始めた。


 これは、【秘技 主導交代】よ。これには、7、8秒かかるから、スタートの掛け声までに、10秒は必要なのよ。


 すると、すずめは、監督に向けて、変調波動を送り始めた。監督の表情がみるみるうちに変化していき、その現場での多くのスタッフたちの顔つきも変わっていく。そして、監督のトップだった眼差しは、かけらも残っていない。


 よし、これでいいわ、これで、ここでの監督や現場の人たちの意識が変化して、私の方が、この現場での立ち位置はトップになった。私は、今、この現場では1番偉い、監督よりも偉いのよ。これでセリフを変えても誰も文句を言う人はいないわ。さて、これは、5分しかもたないから、急がないと。


 次の瞬間、スタートの声がかかった。


 次は、【秘技 主張演技】よ。私に対する意識は、この、今、いる現場では、1番際立たせていく。そして、私が、今から行なう演技は、誰よりも際立ってしまう。その、私のすばらしい演技も、さらに実際の何倍にも際立ってしまうのよ。


 すると、その現場全体に、新たな変調波動を広げていく。すると、現場の人間は、残らず、異常なまでに、すずめに注目している。


 そして、まるで、催眠術にでもかかったように、すずめに最高の敬意をはらっている。もはや、彼女の術中に完全に落ちている。


 すると、すずめは、冷静な表情で、ゆっくりと周りを見渡しながら、乗客に話し始めた。


「皆さん、まずはここまで無事にたどり着けたこと、本当に良かったです。今日は、私たち全員が命をつなぎとめるために、力を合わせ、勇気を持って戦いました。この場にいる全ての人が、誰かのために尽力し、支え合ったことで、私たちはこうしてここにいます。


 しかし、私たちが経験した恐怖や不安は、一瞬で消えるものではありません。皆がまだ混乱し、心の整理がついていないこと、よくわかります。でも、だからこそ、今ここで、互いの存在を確認し合い、支え合うことが大切です。


 皆さん、どうか覚えていてください。私たちは一人ではありません。この大変な経験を共に乗り越えた仲間がいます。これからも、お互いを支え合い、寄り添い合いながら、新たな一歩を踏み出しましょう。


 私たちは強いのです。皆さんが今ここにいることがその証拠ですよ。私たちが共に歩んでいく未来は、きっと明るいものになるでしょう。


 だから、どうか顔を上げて、手を取り合って、前を向いて進んでいきましょう。私たちには、まだまだ素晴らしい未来が待っています。今日はその第一歩です。共にこの困難を乗り越え、明日へ向かって進んでいきましょう。」


 その実際の感動以上に、主張が拡大されたセリフが終わると、台本にはない、乗客たちの惜しみない感動の拍手が起こり、つい、現場のスタッフたちも、すずめの秘技のせいで、実際以上の感動を覚え、一緒に拍手してしまった。普通なら、こんなスタッフたちの拍手が入れば、絶対に撮り直しが必至なのだが、監督のカットの掛け声のあと、すずめは、監督に言った。


 「オッケーですよね、監督。」


 すると、監督、


「大丈夫。君が、そう言うなら、これでオッケーだ。完璧だよ。お疲れ様でした。」


 なんと、ここまで【秘技 主導交代】の効果は続いていた。

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