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9-6 星影百合の秘密⑥

 だが、その頃から、百合の中で、どうしても、また悪役を演じて、観客を怖がらせたり、その役柄で、ゾクゾクして、すごいとため息をつかせたい、と心の中では思うようになり、どうしたらいいかと、思いつめるようになっていった。


 そして、ある日、仕事から帰ると、夕食をとり、入浴を済ませた百合に、どうしようもない気持ちが湧き上がってきた。百合の、その自宅には、地下に数階に渡る防音の部屋がいくつもあり、そこでセリフや演技の練習や、さらなる勉強や研究を行なっていた。


 だが、気持ちが抑えられない百合は、つい数日前に観た映画があり、その役どころで、悪役がすばらしい役で、百合は、どうしても自分がやりたかったと、その人物を映画館で観て、虜になってしまった。その時の、その役柄が、今、心に湧き上がってきたのだった。


 すると、できるだけ、悪役風のイメージになる衣装に着替えた百合は、その防音の地下部屋にこもり、その映画で観た役を、セリフと共に、その映画全編に渡り、必死になって演じ切っていた。その役柄というのが、セリフも、長く難しい。その上、その役柄には、相当な演技力が必要で、他のキャストを圧倒する役柄で、その感情表現に至っては、主役の穏やかな役柄とは違い、その特徴的なキャラクターに、演ずることが困難であると感じながら、ストーリーが進むにつれて、百合は、その困難さに酔いしれて演じてゆく。


そして、その最後のセリフを言ったあと、百合の気持ちは、爽快であり、その満足感も最高のものであった。もはや、百合は、一度観ただけで、その演技やセリフは、すぺて自身の中にあっという間に取り込んでしまい、その困難な役柄を再現することなどは、普通なら、とんでもなく難しいのだが、それが百合に快感を覚えさせ、約2時間を1人演じていた。百合は、喜びのあまり、涙を流し、しばらくは、その、えもしれない達成感に酔いしれていた。


 その時の快感が忘れられない百合は、その日から、悪役が際立ったドラマや映画をチェックするのが、日課として楽しみになっていった。そして、鑑賞し終えて、百合が素晴らしかったと感じる悪役をみつけると、次の日、帰宅すると、サッと夕食を済ませ、着替えたあと、地下室へ。思う存分、悪役を楽しく演じ切るのであった。


 そんな生活が始まると、昼間、映画やドラマに出ていると、現場の監督やスタッフから、最近、とてもすっきりとした顔で、演技にもさらに磨きがかかっていると、よく言われるようになった。それは、まさに、夜、自宅で1人悪役を演じる楽しみのお陰であり、爽快感を得るストレス解消法になっていたのである。しかし、これだけは、誰にも明かすことができない秘密であった。



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