8-5 大女優、美礼多恵子(みれいたえこ)の逆襲⑤
その後、無事に撮影は終了して、クランクアップした。
そして、一般公開されたが、監督や社長の心配もよそに、予想に反して大ヒットした。それも、派手な映画ではないだけに、やはり、初回から爆発的というわけではないのだが、普通であれば、次の週を迎えるたびに、毎週興行収入が下がっていくはずが、それほど変化が見られない。その様子をみた三つ巴社長は、少し公開日を延長してみることにした。すると、トータル的には、大ヒットとなり、最初から大ヒットした「運命の時間」に迫る、大ヒットになった。
それに、これは、美礼多恵子の最後の作品ということで、ヒットしたのではないかという見方もあり、とても評判をよんだのであった。
その後、「美礼多恵子・その女優愛」は、日本アオデミー賞の監督賞、作品賞、そして、美礼多恵子は、主演女優賞を受賞した。それで、「運命の時間」は、主演女優賞のノミネートから、久条沙衣莉は、惜しくも受賞を逃して、受賞は、助演女優賞の進藤麗子のみとなった。
受賞を逃して、ショックを受けたサリーだったが、美礼多恵子に負けたことが信じられず、早速、「美礼多恵子・その女優愛」をビデオにて鑑賞した。すると、その美礼多恵子の演技力に感服し、言葉がなかった。それは、麗子も同じであった。
そのアオデミー賞の授賞式の中継を、軽井沢にある豪邸から、みている女性がいた。そして、主演女優賞の発表をみた時、
「なんということ!あの人、本当に、主演女優賞を獲ったわ!信じられない!とうとう、やったのね!」
すると、その女性は、すぐに電話をかけると、美礼多恵子と、マネージャーの神田真理子は、その軽井沢の豪邸にやってきた。
女性は、感激して、美礼多恵子の手を握ると、感極まって思わず、涙を流して、
「本当におめでとう。まさか、あなた、本当に、アオデミー賞の主演女優賞を獲るなんて、信じられないわ。作品が公開されて、けっこう評判がよかったので、私も早速、見に行ったけど、あなたの演技には、本当に度肝を抜かれたわ。本当に信じられない。」
ふうっと、ため息をつくと、さらに言葉を続けた。
「スクリーンでみた、あなたの演技は、いつもの10倍、いいえ、数十倍か、もはや、比べ物にはならないものだったわ。」
もはや引退まで考えていた美礼多恵子が、賞取りに成功したのは、様々なことがあり、それは、数年前の出版サイン会からの出来事に遡る。
ある日、彼女は、その芸能活動の1つとして考え、自伝である「美礼多恵子、人生、一女優」という本を出版していた。その出版記念サイン会は、思っていたよりも老若男女区別なく、集まっていたことが、彼女を、より元気づけ、とても好評であった。そのイベントが終わって片付けが進む中、スタッフたちとは話しがはずんでいた。そして、着替えのために控え室に戻ろうとすると、さっきから、ずっと会場から離れない少女がいた。
美礼多恵子は、こんなに若い娘が、きてくれていたなんて、と、そのイベントでは、何よりも嬉しさが込み上げてきて、その控え室に、招いていた。
「そこの、あなた、私のサイン会に来てくれたのね。あなたみたいな若い子が、きてくれたなんて、もう感激で言葉がないわ。本当にありがとう。もしよかったら、せっかくだから、私の控え室へ来ない。たぶん、ケーキくらいごちそうするわよ。」
すると、マネージャーの神田真理子も、嬉しそうに、その子に駆け寄って、
「せっかく美礼さんが言ってくれてるのよ、さあさ、遠慮しないで、どうぞ。」
すると、マネージャーも、こんなに若い娘が、美礼さんに興味を持ってくれているのを喜んで、美礼多恵子の大好物の、いつも特注しているショートケーキをご馳走した。すると、嬉しそうに、頬張る少女。
ところが、食べ終わり、紅茶を飲み干すと、少女の方から、話しを始めた。
「美礼さん、今度、引退を考えてるって、本当ですか。」
なんと、直球で質問された多恵子は、少し苦笑いをしながら、
「あらあ、実は、そうなのよ。だけど、引退するには、もう1つ記念になるような大きな仕事をして、自身をアピールして終わりたい、と思っているの。でも、実際には、なかなか難しいんだけどね。」
あらら、私ったら、こんな若い子に、こんな私の愚痴みたいな話しを、本音でするなんて、いったいどうしたのかしら。
「そう。じゃあ、たとえばね。今から、アオデミー賞主演女優賞を獲るっていうのは、どう?ぜひ、目指してほしいの。」
「ええ、まさか、そんな、いくらなんでも、そんなこと。さすがに、それは無理だわ。これから、映画一本出るのだって、今から難しいのに。」
すると、少し考える少女。
「そうよね。ちょっと、よくばりすぎたわね。ごめんなさい。今日は、ケーキありがとう。ごちそうさまでした。じゃあ、最後に、握手してください。」
「あら、こちらこそ、きてくれて、本当にうれしかったわ。ありがとう。」
嬉しそうに握手する美礼多恵子だが、その手を少女は、なぜだか、すぐには、はなさない。驚く多恵子、
「えっ、ちょ、ちょっとあなた、どうしたの、この手、はなれないわ!」
徐々に痺れてくる手、だが、まだはなれない。
「ちょっと、どうしたの!はなしなさいよ、ちょっと!」
その痺れが激しくなり、苦悶の表情となる多恵子、
すると、すうーっと、痺れが収まり、手をはなした少女。
「ああ、驚いたわ。あなた、いったい、なんなの?」
少女は、みるみるうちに、その身長は、高身長になり、そして、体型は、さらにスリムにモデル体型へと変化し続け、そのうつむいた顔を上げると、そこには、完全なる美礼多恵子が、もう1人立っていた。
美礼多恵子とマネージャーの神田真理子は、あまりの驚きに言葉を失っていた。
「、、、、あ、、、あああ、、、、」
その変化が完成した少女は、ニコリと笑いながら、
「さて、もう1人、美礼多恵子の出来上がりよ。」
「あ、、あなた、なんなの、い、い、、いったい、、、」
「驚かしてごめんなさいね。私の名前は、【仮面麗華】。これはね、【人写し】と言って、顔や、身体、姿形は、すべてあなたになったのよ。多恵子さん。」
「あなた、いったい、なんなの?、、、いったい、何が起こったの?」
「実はね、これから、あなたの代わりに、アオデミー賞の主演女優賞を獲ってあげようかと思ってね。いかが?」
「あなた、何考えてるの?なんだか知らないけど、見た目だけで、私の代わりができると思ったら、大間違いよ!」
「大丈夫、私が代わりに、完璧な演技をして、絶対にアオデミー賞主演女優賞を獲ってあげる。だから、ぜひ私を雇いなさいよ。もちろん、お金はとるけど、絶対に受賞してあげるから。費用は、まず前金で、100万だけでいいわ。あと、残りの9,900万は、受賞後払いということで引き受ける。」
それを聞いて、思わず笑い出してしまう2人、
「何を言うかと思えば何なの、その金額は!あなた、頭がおかしいんじゃないの!あなたになんか、ビタ一文あげるもんですか!!」
「そう。アオデミー賞主演女優賞受賞だったら、1億って、あなたにとって、安い買い物だと思うんだけどね。数十億も資産があるあなたにとって、1億なんて、はした金でしょ。」
「たしかに、今の私には、お金なんていくらでもあるわ。だけどね、私って、意外に堅実なのよ。衝動買いなんてしないし、少しでも価値が認められないと、1円だってださないわ。まして、あなたが、見た目だけで、私の代わりになるですって?とんでもないわ!たとえ、1万円でもおことわりよ!」
それを聞いて、呆れた表情になる少女、
「やれやれ、なかなか、物わかりが悪いのね。それじゃ、もうちょっと、証拠をみせてあげるわ。実はね、今の私は、顔形や見た目だけではなくて、頭の中まで、あなたのことは、すべて入っているのよ。あなた、今、自身の作品で、好きだった作品を言ってみて。いや、印象に残ったものでも、なんでもいいわ。」
「なんですって!そ、それはね、、、えーと、、、、」
「そう、迷うなら、私から言いましょうか。2,015年のTVドラマ、「刑事 霧島零子」の、零子の最後のセリフね。」
それを聞いて驚く美礼多恵子、
すると、ちょっと身構えた、目の前の、もう1人の美礼多恵子は、
おもわぬセリフを口にした。
「この、霧島零子がいる限り、悪の種は、必ず絶やしてみせる!私と同じ時代を生きていることを後悔させてみせるわ!!!」
あ、あの決めセリフは、まるで生の、あの時のドラマのようだった。いや、多恵子とマネージャーの神田にこれほど、記憶に残る最高の作品は他にはなく、この美礼多恵子に、霧島零子あり、とまでうたわれた、最高傑作の作品であった。それが、あの時の決まり文句のセリフが、その真似ごととはいえ、当時の自分を超えるほどの見事なセリフ回しに、2人は、そのセリフの再現度とともに、あまりにも高レベルでの、その演技に、あまりの驚きに一瞬、言葉を失っていた。
「あ、あなた、その、セリフ、、、信じられないわ。そんなにも、素晴らしい再現をされるなんて、、、、、。本物の霧島零子を、そこまで超えてくるなんて、ひどいじゃない、、、、あなた、、、いったい、、何者?!!」
すると、少し微笑んだ麗華、
「どう?驚いたようね。これは、ほんの小手調べよ。このセリフの何倍も上手く、あなたを演じてみせるわ。それも、あなたの個性を、全く変えずに、最高の演技のあなたを演じて、アオデミー賞の主演女優賞を獲ってみせる。いかがかしら、これなら、決して高くはないでしょ。」
すると、すぐに、マネージャーの神田に目をやる多恵子。だが、驚いたまま、それ以上の反応をしない神田をみた多恵子は、すぐに答えを出した。
「わ、わかったわ。だけど、それには、今、あなたから言ったように、私には、1億円なんて、大したことないけど、それは、あなたの提案通り、最初は、100万円だけをお支払いします。それで、残りの9,900万円は、アオデミー賞主演女優賞を獲った時にだけ、あらためて、支払うわ。それでいいわよね。あなたが言った条件よ。そうだわ。それに、もしも、獲れなかったら、その100万も返してもらうわ。映画ができただけでも、それがヒットしても、ダメよ。主演女優賞を獲ることだけが条件だからね。」
頷きながら、微笑んでいる麗華、
「充分よ。これで、あなたも、再び復活して、それも、これまでで最高の美礼多恵子を見せる時が、やってきたのよ。私から、お祝いを伝えるわ。アオデミー賞主演女優賞おめでとう。ちょっとだけ早いかもだけど、それは、必ずやってくるのよ、お楽しみに。」
すると、そのまま、多恵子は、軽井沢の別荘に、しばらく身を隠すこととなり、マネージャーの神田は、そのまま、麗華と共に、かつて世話になり、多くの美礼多恵子の作品を生み出していた三つ巴映画会社を訪れていた。そして、この先の引退に向けて、ラストシネマを提案し、その自伝作品として、依頼するのであった。
その後、製作が決まり、無事にクランクイン、作品は完成し、クランクアップして、いよいよ公開された。その評判も上々の上、美礼多恵子は、アオデミー賞、作品賞とともに、主演女優賞を受賞した。
そして、それを見ていた本物の美礼多恵子は、マネージャーと仮面麗華を別荘に呼び出していた。
「仮面麗華さん、あの演技力こそ、アオデミー賞に相応しいと思ったわ。そして、これまでの多くの女優たちは、もちろん、もはや常識を超えていたわ。あまりの感動に、それに、1億円の価値は充分にあった。正直言って、こんな演技は、もう決して見ることはできないわ。いったい、あなたは、何者なの。ただ女優を目指して勉強したとか、そんなことでは理由にはならないわ。普通なら、たとえ何十年も努力したからとか、でも、そういう次元のものではないわ。もはや、超能力だったとか、そのくらいの架空の世界の話しでなければ、とても理解することは、できないのよ。」
すると、そこで、初めて、麗華は、言葉を発した。
「そうね。私も、自分の演技力は、、、、そう、私からすれば、無限の力なんだと思う。今、私が言えるのは、それだけよ。じゃあ、残りは、頂くわ。」
すると、帰るのを、思わず引き止める多恵子、
「ちょっと待って、麗華さん。ここにある残りのお金だけど、ここには、1億あるわ。」
「そうだったの。でも、私は、もう100万円は、もらったから、あとは、9,900万円でけっこうよ。」
「いいえ、そうじゃないの。今回、あなたには、この1億円を、ぜひ、そのままもらってほしいのよ。それはね、なぜかというと、あなたのおかげで、引退するのしばらく先にしようと決めたからなのよ。そう決心させてくれた、あなたのおかげ、だから、これは、あなたへのお礼の気持ちなのよ。」
「なんですって?!!じゃあ、また、映画にでるのね。あなた、これからもご自分の顔を、また公にさらしていくのよね。」
「そうなるわね。」
「なんて勝手なことを!それなら、このままじゃいけないわ!」
麗華はそういうと、再び、多恵子の手を、ぐっと掴んだ。だが、今度は、さっきの【人写し】の時とは、痺れ方が違う。
「何?今度は、どうするつもり!?」
すると、麗華は、大声で、
「黙って、このままでしばらく離さないで!!!」
「なんなの?今度は、いったい何をするつもりなの?」
すると、今度は、多恵子の顔が、みるみるうちに、変化してゆく。
「これでオッケーよ。」
そう言うと、手を離した麗華、
「私ね、あなたの代わりに、映画に出るのに、ちょっと考えたのよ。このままの姿でも、もちろんよかったけど、まあ、あなたの引退記念作品でしょ。それに、これが、多くのファンに、最後のあなたの姿が残るわけでしょ。だから、少しだけ、その顔を、今から7年前に、つまり、ギリギリで、40代、49才の時まで、顔を戻したのよ。そうすれば、少しだけ、今よりも肌に張りがあるし、しわも違うでしょ。そして、この姿をあなたの記念作品の顔として、その印象を残そうとしたのよ。ちょっとだけ、サービスってところかしらね。だけど、今、あなた、まだやめないなんて言うじゃないの。それじゃ、今回、私が演じたのと、その顔じゃ、繋がらなくなっちゃうじゃないのよ。だから、仕方ないから、あなたの顔、映画の時の49才の顔に戻したのよ。もう、勝手に続けるなんていうからね、もう。」
「なんですって!!!」
思わず、鏡に駆け寄る多恵子、そこに自分の顔を、恐る恐る見てみると、
「あああっ、ウソでしょ!!しわも肌も、若くなってるわ!信じられない!!」
「まあ、これは、あなたに、主演女優賞を獲ったお祝いのプレゼントにしてね。じゃあ、私は、この1億はありがたくもらっていくわ。それじゃあ、もうしばらく、頑張るのね。その顔なら、また少しは、やる気も出るでしょ。でも、演技力、もっと頑張らないと、私のあとだと、かなりきついわよ。もっと勉強しなさいよ。じゃあね。」
そう言うと、麗華は、ふーっと、その顔を戻して、そして、去っていくのだった。
すると、思わず、感極まった多恵子とマネージャーの神田は、抱き合って泣きながら、
「神田さん、私、もう少し、女優を続けたいの、いいかしら。勝手を言ってごめんなさい。」
「とんでもないわ。だけど、あの子の、あの作品のあとじゃ、よほど頑張らないと大変よ。」
「そうね。でも、もう、やるしかないわ。もう一度がんばってみるわ、私。」
そう言うと、2人は、あふれる涙で、微笑みあうのだった。




