8-4 大女優、美礼多恵子(みれいたえこ)の逆襲④
それから、ひと月がすぎて、社長もやっと、現場を訪れていた。そこには、ちょうど華々しくおしゃれをして演じているシーンでの現場での、美礼多恵子がいた。
それを遠くから見た社長は、
えっ!う、うそだろ!ええっ!!
すぐに彼女の下に駆け寄る、三つ巴社長、
すると、監督から、カットの声がかかる。
「社長さん、困りますね。今、いいところなんですから。社長さんの姿がみえたと思ったら、急に、多恵子さんに駆け寄るから、驚きましたよ。ちょっと、このシーン撮ったら、休憩になりますから、それまでお待ちください。」
「えっ!?いや、うん、わ、わかった!待ってるよ。」
社長が、久しぶりにみた美礼多恵子は、今回、映画化の依頼に訪れた時よりも、さらに洗練された姿となっていて、なんだか少し若返ったようにすら見えた。やる気をだした女優というものは、こんなにも変わるものなのかと、見た目の変化に、ここまで変わることに衝撃を受けていて、監督が驚いていたのも頷けた。
すると、とにかく、撮影の邪魔をしないようにして、撮影を見続けていたが、さらに驚きが止まらない。
まず、それは、彼女の演技力であった。
現役バリバリの若い頃のような、その姿を思い出させるような、その素晴らしい演技力を目の当たりにして、これが引退を意識していた女優なのだろうかと、社長は不思議でならなかった。
これは、引退のための作品なんてもんじゃない。そう思って、見ているうちに、休憩の時間がやってきた。とりあえず、控え室に戻る多恵子は、疲れを全く感じられないような見た目であり、やる気も活気も、そして、その魅力もかつてないほどにあふれていた。
社長は、早速、監督に声をかけた。
「ああ、監督、お疲れ様。いやあ、美礼多恵子だがね。いやあ、驚いたのなんのって。」
「よくきてくれましたね。驚いたでしょう、社長さん。今の彼女を見たら、驚くしかないはずですよ。」
「いやあ、そうなんだ。先日、少し聞いてはいたけど、まさか、そんな、、、。」
「だから、言ったじゃないですか。驚いたって。だけど、あれから、撮影するたびに、その魅力が増していて、演技力まで、かなりレベルが上がってきているんですよ。本当に信じられない。それに、多恵子さん、いや、美礼多恵子は、今、何歳だったか、わかりますか、社長さん。」
「えっ、多恵子さんは、54か、いや、55に、今度なるのかな、とにかく、そんな感じかな。」
「そうですよね。だけど、今の美礼多恵子は、その年に見えますか、社長さん。」
あらためて、そう問われた社長は、
「いやあ、50代には、とても見えないなあ。40代半ばか、いや、もっと若くにも見えるし、それにしても、肌の色つやや美しさは、どうだ。いや、それも、そうだが、あの演技力は、なんだか、あそこまで、素晴らしい演技力は、見たことがない。確かに、美礼多恵子は、演技は素晴らしいが、さらに、すごくなったようにみえるんだが、そんな言い方は、ちょっと失礼だったかな。」
「社長さん、ここに今、彼女が、いないから言いますけど、実は、私もそう思うんです。今まで、多くの作品を一緒に撮ってきましたが、こんなにまでも演技力がすごかったのかって思ってしまったんです。いや、もちろん、これまでも素晴らしかったんですが、今回は、それまでを遥かに超えているとすら感じるんですよ。気合いが入ってるだけだとは考えられない。」
「うーん。確かに、この美礼多恵子は、しばらく前に会っていた、弱気になって引退するなんて言ってた彼女とは、全然違っている。これなら、もはや、引退どころじゃないなあ。」
「そうですね。ちょっともう、引退なんて、考え直してほしい気もしますね。だけど、もしかしたら、あと、これ一本で最後だと思うからこそ、全力を出し切って、頑張ってるのかもしれませんね。こればかりは、本人に聞いてみないことには、わからないですな。」
社長は、そう言って、自らを納得させて、現場を後にした。




