表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/88

6-2 最強のライバル、久条沙衣莉(くじょうさいり)②

驚異の 【奥義 感情烈火弾かんじょうれっかだん

 今から、5年前の、その日は、マリカマナル小学校で、演劇部の発表会が催された。この学校の演劇部は、国内でも有数のハイレベルの演劇部であり、演劇の素質がある子たちが集まっていて、すでに多くの生徒たちが子役として、テレビに映画に出演していた。そして、1年に1度、校内でも、発表会が催されて、その作品は、大人顔負けのすごいもので、いつも絶賛されるものであった。その中でも、ひときわ目立つのは、久条沙衣莉くじょうさいりであった。


 発表会が終わって、正面玄関から、彼女を待つ女性がいた。すると、彼女の目の前に進むと、


「私、もうあんなこと、決して許さないわ!」


そう叫ぶと、それを聞いていた久条沙衣莉くじょうさいりも、同じく、そう叫んだ。


「私、もうあんなこと、決して許さないわ!」


すると、その女性は、


「さすが、久条沙衣莉くじょうさいりね。さっきの舞台でのあなたのセリフ、今、私が手直しして、叫んだら、すぐに、対応して、言い直してくれたのね。そう、さっきよりも、俄然よくなったわ。」


「お姉さん、だれ?今のセリフね、私だって、共演者があんなガキどもじゃなかったら、もっともっといい演技ができたのよ。もう、子供騙しの中にいるなんて、正直言って、うんざりなのよ。」


「私も、そう思うわ。それなら、私の養成所に入らない。あなたなら、もっともっと、その才能が発揮できるかと思うけど。」


「そうね。まあ、今のセリフをきいたあなたが、そこまで言うなら、行ってあげてもいいわ。そうしたら、これからの名前は、芸名として、本名の久条沙衣莉くじょうさいりにして、だけど、普通の日常では、サリーと呼んでちょうだい。」


「ふふふ、負けず嫌いなところも、とても気に入ったわ。じゃ、行きましょう。」


すると、サリーは、

「ちょっと待って。携帯電話貸してくれる。」


すると、サリーは、何やら連絡をしている。

「あ、もしもし、ママ、いる?


 あ、ママ、私だけど、今ね、星影百合ほしかげゆりさんって知ってる?そうそう、その引退していた女優さんよ、その人が、自分の養成所にこないかって、今、誘われているのよ。


 ええ?行っていいか、聞いてるんじゃないわよ。もう、決めたから、5年後には帰ると思うわ。え、いいのよ。もう決めたから、、、じゃあね、ババによろしく。」


電話を切ると、携帯電話を返すサリー、


「あなた、激しいわね。」

「なんでよ。私が、自分のこと、自分で決めて何がわるいの?なんか、文句ある?ないわよね。」

「まあ、いいわ。とにかく、いきましょう。」


 サリーは、とにかく、どこまでも、頑固な性格で、人の言うことを聞かない子であり、どこまでも信じられるのは、自分だけであった。


 サリーは、初対面で、かなり年上の百合に、強い態度で接していた。だが、サリーの持つ様々な才能には、それだけ自負するものが備わっていたのである。


 まさに、主技の思惑を裏切って、奇才塾をあとにして、その日、オーディションを迎えたサリー。


 応募者は、名前を呼ばれ、5人ずつ、面接の部屋に入っていく。面接官は、本松天都ほんまつてんと監督を始め、プロデューサーに、脚本家、助監督、そして、この映画で、とても大事な役どころを務める大御所男優と、大物女優の2人。


 一度に5人ずつ、名前を呼ばれて、入室すると、まず1人ずつ質問されて、最後に、5人まとめて順番に、課題について、演じてもらう。


 これは、ただ課題を演ずるだけではなく、同じ参加者が見ている前での緊張感や、態度をも見るためであった。周りに対する反応をも採点の対象となるのであった。


 そして、その応募者の中にいる、前回の映画で驚異的な演技力を見せた進藤麗子のことは、今回、とても期待していた。


 だが、麗子もマネージャーの万根田まねだも、今回の監督が、前回と同じ本松天都ほんまつてんと監督であることを知って、このオーディションは一度見合わせようと考えていた。しかし、サリーが応募していることを知り、なんとしても、これは外せないと決意したのであった。


 すると、麗子は、マネージャーの万根田まねだに、サリーとは、ライバルであり、今回は、絶対に逃げることはできないと説得し、応募するのであった。


 そして、オーディションは始まり、5人ずつの面接で、奇しくも、麗子とサリーは、最終のグループ5人に含まれていた。


 5人に対する質問が終わり、1人ずつ、演技の課題が与えられ、演技試験が始まった。


その1人目は、麗子であった。


 その与えられたセリフは、悲しみのセリフであった。この面接という状況では、絶対に、緊張もあり、気持ちが高揚している場では、どうしても興奮した気持ちが入り混じりやすくなり、自然な演技がそこなわれやすい。そこが、1番の注意点であり、悲しみは、ある程度感情を強く表現しなければならないが、感情が高まりすぎてはいけない。そこが、1つの大きな採点のポイントとなる。


 すると、麗子は、呼吸を整えて、数秒ののちに、不自然さをかき消す目的から、気づかれない程度、多少ペースを落として、ゆっくりと、悲しみのセリフを、発していった。


 麗子は、落ち着いた面持ちで、無事にセリフを言い終えた。ただ、気持ちを落ち着かせ、冷静に発していたことは、乱れることなく、セリフにもよどみもなく、自身では、非常に判断もよかったと、ある程度満足した結果であった。


 そして、その5人の最後にきたのは、サリーであった。


 サリーに与えられた課題は、「喜び」のセリフであった。


 麗子は思った。「喜び」というのは、やはり気持ちとして、爆発的な気持ちであるので、オーバーになって、不自然にならないかが、1つの注意点であり、どのような表現をするのか、とても気になっていた。


 すると、深呼吸のあと、サリーは、やや、静かな口調で喜びを口にした。


 一見なんの変哲もない印象のようなセリフだったが、その次の瞬間、その場にいる人たちは、何か訳の分からない爆発的に広がる何かを感じた。


 サリーが、そのセリフに込める感情を、感情弾へと変換し、その場の中央に強烈に落とし込んだ。


 すると、それは一気に爆発して、そこから、無数の細かな感情弾をさらに、放出し、その場にいる人たちの、個々の心へと突き刺さっていく。それが心の中心に入り込んで、内側から爆発した。そして、すでに、中央で爆発して放出し人たちに当たった以外の残りの感情弾は、その周辺に次々と爆発して、その人たちの回りからも、さらに感情弾の爆発のショックを与え、内外から同時に、感情弾の衝撃を与えていた。


 だが、その光景は、実際には、音もなく、サリー以外に目で見ることはできない。サリーの感じた喜びが、音もない爆発と共に強烈に心に沁みて、あっという間に、広がっていくのであった。


 審査員たちは、驚愕した。たった、あの一言のセリフが、数秒後には、心に突き刺さり、広がっていく。こんな感動の感じ方は初めてであり、並の感じ方ではなかった。


 それは、もちろん、麗子も、その場にいる、他の応募者たちにも、投下されていて、その感動を強烈に感じていた。


 麗子は、思った。


 こんな感動の仕方は、初めてよ。いったい、何が起こっているの。たった短い一言なのに、ただ突き刺さるだけではなくて、こんなに、心に広がっていくなんて。なんて印象深いセリフなの、それに、感情の込め方が、とんでもないわ!


 その後、すべての審査が終了して、合格者の発表となった。


「それでは、主演女優、ならびに、助演女優を発表いたします。主演女優には、久条沙衣莉くじょうさいりさん、そして、助演女優は、進藤麗子さんに決定いたしました。


 それでは、寸評にはなりますが、助演女優役に選ばれた進藤さんですが、これまでも、多くの主演女優賞を受賞しており、この度も、本来なら、主演女優に選ばれても当然のレベルで、とてもよかったのですが、今回、主演女優に合格された久条沙衣莉くじょうさいりさんは、ちょっと過去には見たことがないレベルで合格となりました。審査員一同、言葉になりません。」


 そして、主演女優は、サリーとなり、麗子は、助演女優に合格した。


 すると、受賞式など、すべて終わったあと、麗子の元に、サリーがやってきた。


「助演女優、合格おめでとう。主演は、当然、私で間違いないのは仕方ないけど、あなたも、助演女優おめでとう。一応、一緒に頑張っていきましょうね。」


すると、麗子は、その謎について、聞かないではいられなかった。


「あ、ありがとう。それで、ちょっと聞いてもいい?」

「いいわよ、別にかくすことはないから、なんでもきいて。そんなに、私から学びたいというのなら、教えてあげるわ。」

「あなたが、演技試験でやった演技、喜びの演技だけど、これまで味わったことのない不思議なものだったわ。あれは、ただの感動ではなかったし、あそこまで突き刺さるようなところから、あんなに広がって感動する気持ちって、いったいなんだったの。教えてもらってもいい?それって、企業秘密って感じかしら。」


すると、サリーは、微笑みながら、


「まあね、別に明かしてもいいわよ。あれは、これまで奇才塾でマスターした【真意法秘密演技】を元にして、私が独自に編み出したものよ。名付けて、【感情烈火弾かんじょうれっかだん】といって、そのセリフに込めた感情を感情弾に変換して、その場の真ん中に落とすのよ。すると、爆発して、細かい感情弾となって、人たちの心に直撃して、内側から爆発して、その心に一気に広がっていくの。


そうね、感動って、人それぞれ、色々な気持ちから、感じ方も少しずつ違ったりするのよね。たとえば、喜びの気持ちだって、Aという喜びが、ある人には、そこまで好みではないとしたら、その感動って、他の人よりも薄れるでしょう。


 そうなると、その感動って、その人には、そこまで刺さらないのよね。だけど、ここで発揮する感動とは、とても繊細かつ純粋なものだから、好みであるとか、余計な感情なんかすり抜けて、心に直接突き刺さるのよ。


 人のもともとの心は、好みとか余計な気持ちとかは、一切ないピュアなものだから、素直に、抵抗なく感じられるの。だから、普通の感動よりも感じ方が深いのよ。そして、爆発的に、炸裂して、一気に広がっていくから、激しく、その広がり方は、広く力強いのよ。だから、その感動と、その程度は、並のレベルではないの。


 まあ、とにかく簡単に言えば、心の真の奥底に感動の爆弾を落としたようなものかしら。それも、急に落としたあとから、そこで広がっていくから、とても意外性があって、そして、さらに、衝撃を受けるのよ。


 そして、このやり方は、突然、突発的に訪れて、爆発的に広がるので、驚きがプラスされて、やたらに使うと、慣れてきて、本来のせっかくの効果が多少薄れてしまう。だから、あまり使わないけどね。今回の面接には、短いし、そこだけで衝撃を与えたいから使ったのよ。使うのに、ちょうどいいタイミングだったわ。」


 すごいわ。すべての、個人の感情を乗り越えて、真の心に感情が直接突き刺さるなんて、それなら、さらに感動が広がるに決まってるわ。それで、さらに繊細だなんて、とても欠点なんて感じられない。

そして、今回のは、ただの面接の演技だったけど、映画作品の中での演技となれば、どんな見せ方をしてくるのか、恐るべし。それを自分で考えだしたなんて、さすが、サリーよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ