5-24 映画「少女歌人の恋」24
その同じ頃、呉服屋の後取りとなっていた涼真が、たかが大工の娘である柚と親密であることを知った涼真の父親は、これを憂い、早々と米問屋の娘との縁談を進めていた。
涼真は、最近、その態度が若干離れつつあると感じていた柚には、自分に気持ちがないと知ると、あきらめて、米問屋の娘、芽衣との祝言をあげることを父親に承諾する。
だが、それを人づてに知り、ショックを受けた柚。すると、柚は、自分の、その時の気持ちを表現するのに、いつも和歌を詠むことで表現してきたのだが、柚にとっては、もはや欠かせない自己の特別な感情表現であり、この時も思わず、一首詠まずにはいられなかった。
祝言の知らせに、柚が詠んだ和歌、降臨歌人として、在原業平、再び、
「知らずして 夢にて見しか 祝ぎの席 さめし涙に 頬つたう風」
その意味は、、、
夢の中で祝われるべきは自分だったのか――祝言の知らせに現実を突きつけられた、夢と現実の交差点に、1人立つ。
だが、その後、再び、ありえない事実が、さらに、明らかになる。それは、ある日、あの住職が、あの大火災の時の、名簿に、さらに、思わぬ間違いの見落としを目にした。
それは、柚の名が、その名簿に二箇所あり、そのうちの1人は、名の書き違いであることが判明した。それは、涼真の妹の表記が間違いであり、その正しくは、袖という娘で、袖は、あの火災で亡くなっていた涼真の本当の妹であり、涼真と柚は、兄妹ではなかったという新たなる事実であり、2人は、全くの赤の他人だったのである。
すると、それがわかったのが、奇しくも、涼真の祝言の日、そこで、住職は、祝言が始まる前に、涼真にそのことを伝え、祝言を中止させるため、馬を走らせた。しかし、あまりに急いで走ったことから、住職は落馬して、大怪我をしてしまう。
そこに、居合わせた人たちは、住職を医者に運び込むと、その知らせを聞いて駆けつけた柚に、住職は、その名前の間違いとともに、2人は兄妹ではなかったことを伝えた。
そして、柚と涼真の互いの気持ちを知る住職は、祝言には、まだ間に合うので、急ぐように、柚に告げた。
その衝撃的な事実を聞いて驚き、涼真との結婚が可能であることに喜んだ柚は、祝言の場に急いだ。
そこで、急ぎつつも、まず一度、心を落ち着けた柚は、一首、つぶやき、元気を取り戻した。こんな緊急事態であっても、柚にとっての和歌は、慌てるよりも、かえって、気持ちをリラックスさせ、冷静さを取り戻す、最高の回復法でもあったのだ。それに、まさに、名簿の誤記を知り、祝言を止めに走る決意の一首であったが、その祝言を止められることが、涼真との可能性を後押しするものとなろうとも、柚にとっては、そこまで実感するには、まだ時間が必要であった。
それは、再びの、降臨歌人、小野小町であった。
「すれ違ふ 運命を裂くか 風の刃 ひとひらの真 手に掲げたり」
その意味は、、、
運命に逆らうため、真実というひとひらの花を掲げて走る柚の決意を、「風の刃」として詠む力強い歌であり、必ずや、自身の思いを取り戻すという信念がこもっていた。
すると、幸運にも、なんとか、祝言が始まる前に、間に合った柚は、涼真に声をかけて、これまでのことをすべて話す決意をした。その和歌の詠み上げは、柚に、このショックな現実に、ただ喜び、戸惑うことではなく、冷静になって、涼真に伝える勇気を、さらに与えたのであった。




