5-23 映画 「少女歌人の恋」23
なんの事件も起こらない江戸の穏やかな日常に、屈託のない表情で過ごしていた柚にとって、突然にやってきた、思いがけない感情。それが、涼真と志乃の楽しそうな会話から生まれたものであり、その仲の良さが、なぜか、柚の心に突き刺さってきた。
しかし、そのショックは、実は、二重にやってきたのであった。2人の仲の良さが与えたショックのすぐあとに、その感情を生み出した自分の思わぬ嫉妬の気持ちが、さらに、柚にショックを与えたのだった。
他人に嫉妬を覚えるなどと、そんなにごった気持ちなど、これまでなかった柚にとって、その気持ちは意外であり、そこで柚は苦しみを味わい、一首詠む。これが、当作品における初めての和歌の詠み上げであった。この場面で、観客は、柚を演じるソフィアの秘流の能力を初めて、体験することになる。
監督やスタッフたちも、完成した作品としてあらためて、このシーンをスクリーンで観るのを楽しみにしていた。
作品の中では、発動詠歌などから、いきなり、和歌の詠み上げに入る。
「よもすがら 思ひはまさる あけぼのに ただよふ雲を 君とぞ見しや」
すると、監督を始め、その場にいるスタッフたち全員は、はっと息を呑んだ。劇場の空気感が一変して、小野 柚のたった今の感情が、その場に広がって、その切ない気持ちが観客に伝わっていく。
すると、このシーンの小野 柚を演じているソフィアの演技力と、そして、伝承者としての秘流の力を併せ持つソフィアの総合的な魅力をあらためて、体験して、感動していた。
この切ない気持ちを和歌に込めて、その思いを観客の中に、たった今、花開かせてゆく。
その場面で、この作品では、初めてでてくる柚の和歌であり、涼真が志乃と仲良く話していたことで、湧き上がる、これまで感じたことのない嫉妬する気持ち、それは、柚と涼真の間に、壁を作り、この時から、互いになかなか話せなくなってしまった。
しかし、そんな中、涼真に対して、恋心を抱いていたことに、とうとう気付いた柚は、一気に辛い気持ちになってしまった。
その気持ちにいたたまれない柚は、その気持ちで和歌を詠むのであった。
【発動詠歌】を唱えると、今回は、小野小町が降臨し、柚自らの秘流の力とともに、その気持ちを詠みあげてゆく。
それは、、、、
「言の葉を 探すまにまに 逃げる視線 うつむく心 花のごとくに」
この一首の、その意味とは、
言葉を探しているうちに、視線をそらしてしまい、そのもどかしさと、花がうつむくように羞恥して、また初恋の高鳴りを重ねている。そして、それは、今までかつてない、自らに生まれた、甘く切ない気持ち、それなのに、なぜだか、そこに伴う、真逆の苦しい心持ちに、柚は、その心に戸惑いを隠せない。
しかし、柚は、ついに、その思いを打ち明ける決心をする。これまで、異性に対して全くなかった気持ちを、初めて芽生えた相手に伝える。これが、柚にとって、どれほど、その心を注ぐ決意と行動であったのか。それは、まるで、その身を削ぐほどの勇気を必要とするものであったであろう。
だが、しかし、以前から世話になっている、寺の住職から、衝撃の事実が伝えられる。涼真と柚は、実は兄妹であったと告げられたのである。
2人が体験していた、10年以上前、幼少の頃にあった江戸の大火災。これまでにない規模の大火災であり、多くの建物が消失し、多くの人命が失われた。涼真と柚は、それぞれ、父と母に抱かれて、燃えさかる自宅から、逃げ延びていった。だが、両親は、その際に大火傷を負い、2人とも命を失ってしまう。そして、それぞれ2人は、柚は、知り合いの大工のもとに、そして、涼真は、呉服屋の後継としてもらわれていった。
そして、2人がもらわれていった先は、偶然近所にあったことで、その後、初めて知り合うのだが、呉服屋では、子供ができず、その後継が養子であると明かされることを嫌い、実の息子であると周囲には伝えていた。
そのことから、2人が兄妹であることは、隠されていたのである。
そして、柚は、その血縁の事実にショックを受けて、一首、詠みあげる。
この度は、大伴黒主が降臨し、秘流との融合を経て、
その和歌は、
「たがために 咲かぬと知りて 折りし花 手のひらの上 匂いまさりぬ」
その意味とは、、、
摘んだ花が、愛でることを許されないものと知る。告白しようとした直前に知らされた禁忌の関係であると知り、その苦悩と哀惜を描写したものである。




