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5-20 映画「少女歌人の恋」20

「それでは、第2回目を始めます。」


 すると、ソフィアは、その立ち位置を、さっきの呉服屋を訪れた時の場面に戻り、全く同じ演技を始めた。2人の楽しそうな会話を目にして、ショックの気持ちの中、そのショックを受けた自分に、あらためて、そこに、再び、別のショックを受けて、その気持ちを詠んでみた。


そのまま、神経集中すると、再び、その脳裏には、言葉が、浮かんでくる。


 そして、それを無意識のうちにつぶやいた。


「「「「【秘流 歌人降臨】、、、紀貫之、下生せり」」」」


「よもすがら 思ひはまさる あけぼのに ただよふ雲を 君とぞ見しや」


 すると、監督を始め、その場にいるスタッフたち全員は、はっと息を呑んだ。


 さっきとは、全く違うものが披露されている。その漂う空気も、そこに生まれている感情も違いを感じる。しかし、それは、どちらがより良いというものではない。明らかに、さっきとは、別の意味であり、別のものをゆうは、明らかにしているのであった。


 この和歌の意味は、


 一晩中、募る想いに眠れず、明け方に目にした漂う雲。あれは、あの時、あなたと一緒に見たものでしたか?それとも、ただ私ひとりが抱く幻だったのでしょうか。


 この和歌は、表面は静か、だが底流は激しいという、とても、その奥深さが特徴であり、「よもすがら(夜もすがら)」で、一夜中悩み続ける内面の苦しみが一言で語られる。だが、そのあとは静かに雲を見る、という演出で、感情を剥き出しにせず、極限まで抑制された激情を描写する。


 そして、「ただよふ雲」という比喩は、恋心、孤独、未練、夢など、あらゆる感情が「雲」に託されている。その雲を“君と見たかもしれない”という、記憶と感情のあいまいな境界線が、切なさと詩情を生む。それは、柚の胸中と完全に重なり、涼真と志乃のやりとりに、何を感じたのか、自分でも言葉にできない。それでも「なぜだか、苦しい」、その心の揺らぎを、雲のように掴みどころのない美しさで詠む。


 この和歌を詠む柚は、無言のまま視線を落とし、口を閉ざしたまま、思わず心が動く。


 風も止んだような静寂の中、唐突に詠み上げる。その言葉を、一句ずつ置くごとに、場の空気が緊張していく。


 周囲のスタッフ、演者、監督たち、誰もが、動けない。詠み終えた柚が、ふっと気を失いそうになる。が、すぐに我に返り、小さく、、、、


   「、、、え、今、、、、」と呟く。


 すると、大門監督は、つぶやくように、


   「これが、、、「六歌仙」の伝承者、、秘流!」


 たった今、「柚自身の、この体験と感情」と「紀貫之の感性」が融合し、ゆうが「今まさに感じていること」を素材に、紀貫之の比喩と陰影で作り出された歌であった。だからこそ、柚と紀貫之からの、他の誰も書けない。だが、「誰にも書けないのに、完璧に存在している」だからこそ、それが、驚きを生むのである。


 そして、もう1つの驚きは、今回の歌人は、六歌仙の6人ではなく、『古今和歌集』の仮名序で6人を挙げた紀貫之だったことも別の驚きであった。ソフィアは、おそらくは、此度のことで、秘流の伝承者の初のお披露目として、紀貫之が自ら名乗りをあげてくださったように感じていた。


まことに、恐れ多いこと、、、、。


 少しの沈黙の現場に、漂う、和歌の風が吹く、そして、わずかな余韻が心地よく、そこにいる人たちを包み込み、やがて、ゆっくりと立ち消えてゆく、、、しかし、その思いは、心に染みていく。


 その現場にいるスタッフや、他の出演者たちは、たった今、どこか別の世界にでも行ってきたかのような、特別感を味わっていた。

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