5-17 映画「少女歌人の恋」17
いよいよ、最後の自分の番がやってきた。
さて、と、少し緊張して、深呼吸をしたが、その時、なぜか、自分の回りには、透明感のある風が、少しだけ起こってきたような感じがした。
やがて、その風に、やさしく包まれたと思うと、なにやら、頭の中には、ある一文が出てきた。
「「「【秘流 詠人下ろし】」」」」
何が何だかわからないまま、そのまま、その言葉をつぶやいたソフィアは、続いて、浮かんできた文章を、つぶやいた。
「「「「ゆかしきは 時を越えたる 心の音よみびとの声 我にしみわたる」」」」
それをつぶやいた途端に、自分に、何か、別の力がみなぎってくるのを感じた。
これこそ、「六歌仙」から授かった、その伝承者、秘流としての秘流の、その力であった。
たった今、つぶやいた一文は、その力、【秘流 詠人下ろし】を発動させるための、発動詠歌であった。
そして、ふと頭に湧き上がる言葉:
「在原業平 この歌、現世にてしのび申す。」
だが、ソフィアには、そこで言葉は、発せられない。
そう思った瞬間であった。未知の世界から、ソフィアの口を借りて、声が発せられた。それは、在原業平本人であった。
「ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれなゐに 水くくるとは」
朗詠が始まると、空気が一変し、外の風の音すら、すっと遠のいていく、染まっていく川、水の音、色の動きが、頭の中に自然と浮かぶような感覚が訪れる。
そして、朗詠が終わったとき、誰一人として拍手ができないほど、場が静まりかえっている。すると、誰かがぽつりと、
「、、、まるで、あの時代の風景が、ここにあったようだった、、、」と、
それ以上、誰も、言葉をだすことは、できなかった。
すると、ソフィア、深く頭を下げて、小さく一言、
「このしるし、しかと受けとめ候。深く、ありがたく存じ上げます。」
その言葉こそ、歌人へと、その礼をつくして、その感情の揺らぎを残すものであった。
しかしながら、この和歌を選び、発動させたのは、「六歌仙」側の意志であり、ソフィアの中にある「澄んだ心」「世界を言葉で染める力」が、本物であることを確認し、今この時代に、和歌の再生を果たす「語り部」として、静かに、けれど、確かに、人々の記憶に刻まれる演出がなされたのであった。つまり、これは、ただの詠み披露ではなく、和歌の力を信じている者たちが、再び時を動かそうとした「最初の一手」だったのである。
こうして、ただ、伝承者として認められただけではなく、長い時を経て、積極的に、その使命を与えられて、今ここに、今回、活動を開始したのであった。




