5-16 映画 「少女歌人の恋」16
すると、その日、ある施設の一部屋に、10人ほどの若い男女が集まってきた。その人たちは、20代半ばすぎの人たちで、それぞれに、和歌とは関係のない仕事を持っており、むしろ、言語学者であるソフィアが、その中では、もっとも和歌に近く関わる立場であった。
そして、その会「詞華幽玄の座」の代表格の女性から、ソフィアに声をかけてきた。その会の名について、「詞華」は、美しい言葉、「幽玄」は、和歌の根底にある美意識を意味する。それは、まるで荘厳さを漂わせるようであり、その名から、まさに、その会の和歌に対する並々ならぬ、思い入れの深さを感じられるものであった。
「はじめまして。あなた、ソフィアさんね、私は、琴乃玲子。この会の代表よ。よろしくね。ここにいるメンバーは、全員、趣味で和歌の研究をしているの。研究とはいっても、それぞれに好きで調べたりしてるだけで、ここではほとんど雑談してるわ。あとは、毎回、最後に、自分の好きな和歌を選んで、朗詠会という詠み会をしているのよ。それが一番、皆が楽しみにしていることね。本当、皆、毎回、何を詠み上げようか、ワクワクしているわ。ソフィアさんも、最後にお願いね。」
なるほど、そういえば、和歌を人の前で詠むというのは、しばらくやったことがないな、とソフィアは、思っていた。いつもは、部屋で1人、もちろん、声はだすのだが、聞いてもらうためではなくて、自身でその和歌を音に出し、耳で感じるために、詠むことはしていた。あらためて、自分が好きな歌人の和歌を詠んで、人に聞いてもらうことは、ほとんどやったことはなかった。それも楽しいかもしれないと、なんだか新鮮な気持ちだった。
全員集まると、自分の好みの歌について、主張したり、自分なりの感じ方や、その歌の中の心情などを語ったり、皆の圧がすごかった。
そして、いよいよ、最後の詠み会である。
メンバーは、それぞれに、好みの和歌を詠んでいく。そして、今日まで、この催しは、何回も行われているので、その時々の気分によって、色々と変えて楽しんでいるようだった。
だから、皆、詠み慣れていて、もちろん、数を重ねているので、上手く詠んでいるけれど、それよりも、楽しんでいることが、1番印象的であった。
自分も、和歌は好きでいるが、言語学者を通じて、半分仕事でもあるので、ちょっと皆とは、違いがあるのかも。




