1 -4 奇才塾の天才女優④
だが、その後のある日、麗子は、決心していた。この養成所を、なんとかして、最後の実践授業が始まる前に脱走することを。
こんなことが待っているなんて。トップにのし上がるために、そんな方法を学ぶだなんて、信じられない。ここにいては、女優として、トップになれるどころか、人として、だめになってしまう。
5人の少女たちは、ここにきて、4年が経っていた。
幸い、主技は、今日は1日中、留守にしているから、なんとしても、今日がチャンスよ。
麗子は、なんとかして、宿舎の外にでることができたのだが、門の前に着くと、そこには、緑川あやめ、吹雪すずめ、荒玉亜弓の3人が立っていた。
すると、あやめが、
「麗子、ここからは、絶対に出さないわよ。もうあきらめなさい。あとたった1年じゃない。とにかく、最後、全員揃って卒業させるって、主技が言っていたからね。私も、そう思うわ。」
だが、麗子は、なんとしても、この時点でここをでなければ、大変なことになるのは、わかっていた。
「3人とも、よく聞いて。主技はね、私たちを利用しようとしているのよ。このあとの1年は、受けたらだめなのよ。」
それを聞いたあやめは、
「麗子、あなた、主技からたくさんのことを、教えてもらった恩を忘れたの。それって、人としてどうなのよ。」
たぶん、何を言っても、もうわかってくれない。この3人は、きっともう手遅れなんだわ。やはり、もはや1人でいくしかないわ。ここを出るチャンスは、主技が留守にしている今しかない。
麗子は、もう後がなかった。このチャンスを逃したら、もう卒業までここからは出られないのは、間違いない。とにかく、何か方法がないだろうか、麗子は、考えた。何かないだろうか、何か、、、。なんとしても、、、。すると、、、
「お願いよ。このまま、見逃してちょうだい。本当なら、あなたたちにも、今、ここを出てほしいのよ。でも、いくら説明しても、わかってくれないでしょ。だから、私、1人でここを去ることにしたのよ。私の気持ち、わかるわよね。あなたたちには、もう一緒に行こうなんて言わないわ。だから、私がここを出て行くことは、見逃してくれない。どうか、、、どうか、お願いよ。」
すると、しばらく、沈黙の不穏な空気が流れる中で、数分がたち、3人の思いが、急激に変化し始めた。
あれほどまで、麗子の脱走を阻もうとしていたのだが、その心は、少しずつ麗子に寄り添い始めていた。すると、まず、あやめが、
「うーん、、、わかったわ。私たちは、出ていかないけど、麗子の気持ちは、よくわかったわ。仕方ないわ。そこまでの気持ちなら、もう止めないわ。」
そう言うと、すずめと亜弓も、互いに顔を見合わせると、静かに頷いていた。
「よかった。わかってくれたのね、ありがとう、じゃあ、元気でね。」
麗子は、門を開けて、外にでると、振り返って、3人に手を振って、走り去っていった。だが、3人は、見送ったあと、すぐに驚きの表情となり、呆然としていた。
その後、麗子は、森の中をとにかく、歩き続けた。1時間は歩いただろうか。すると、突然、広い通りででた麗子は、そのまま道路に沿って、歩いていると、自分のかなり後ろの方から、車の音が聞こえてきた。
麗子は、振り返ると、道路の真ん中に進んで、その車の前に飛び出し、両手を振って、助けを求めた。すると、ゆるやかに車は、麗子の傍に止まると、その窓から、女性が顔を出した。
「どうしたの。何かあったの?」
「家族でハイキングにきたんですが、うっかりして、置いていかれてしまったんです。私、子供だから、ここがどこなのかもわからなくて、どこか近くの駅まで乗せてくれませんか。」
その女性は、麗子のことをしばらくみていたが、
「わかったわ。とりあえず、お乗りなさい。」
「ありがとう。」
車を走らせると、しばらく沈黙が続いたが、女性から話し始めた。
「ねえ、あなた、最寄りの駅まで送るのはいいけれど、そこから、電車で帰れるの?電車賃は持ってるの?」
「えっ、あのう、実は、持ってないです。」
「そうよね。そうだと思ったわ。」
すると、近くで1番大きな駅に着くと、その女性は、バッグを開けて、
「はい、これ、あげるから返さなくていいから、持っていきなさい。あなたの家まで帰るのには、たぶん、このくらいはかかるわね。」
そう言うと、麗子に一万円札を渡した。
「でも、こんな、もらえないです。」
「そんなこといいのよ。子供は、大人の言うことを聞くものよ。今度、逃げ出すようなことがあったら、もっと計画をたててすることね。じゃあね。気をつけて。」
そう言うと、女性は、車を走らせていった。




