5-6 映画 「少女歌人の恋」⑥
そして、その詠み上げに対して、感動で、その頬をつたう涙を拭きながら、第一声を発したのは、「未来映画」の社長、詩根舞子だった。
「、、、、こんなにも、心に染み渡る和歌を聞いたのは、初めてだわ。正直言って、私は、和歌のことは、そこまでよくわからないし、その意味も、あまり深くはわかっていないと思う。だけど、今、詠んでくれたものは、少しの意味だけで、深く刻まれた思いから、それ以上の感動が押し寄せてきたのよ。私は、ちょうど審査員で、彼女の目の前だったから、生の声で聞こえたから、なおさらだと思うけど、期待以上だったわ。」
それを、すぐ横で聞いていた大門監督は、それについて、言った。
「社長、今の詠み上げは、たしかにすばらしいけど、たぶん彼女の実力の半分も発揮されてはいないんです。それに、今、私から頼んだ秘流というものが、もしも行われたとしたら、おそらくは、彼女の本当の実力はこんなものじゃないんです。」
それを聞いて驚く詩根舞子社長、
「なんですって!今の素晴らしい詠み上げでも、まだ彼女の充分な実力ではないというのね。それに、監督は、なぜこの人のことを知っているの。もしそれが本当なら、それをぜひ披露してほしかったわ。ちょっと残念な気もするわ。」
そこに、すぐに答える大門肇、
「そうですね。おそらく、彼女は、参加者99人の詠み上げをすべて聞いていたから、それにさえ対応できれば、それで充分だと、きっとそう思ったのでしょう。ソフィアさんは、決して威張ったり、奢り高ぶることがないから、充分なレベルでアピールすればいいと思ったに違いないんです。ここは、自分の技術や特技を自慢するような場ではないですからね。」
そして、参加者99人を抑えて、圧倒的な印象で合格したソフィア・オートマティック。実は、彼女の詠み上げが終わった時、その圧倒的な実力に、会場にいた参加者、審査員など、全員、誰が合格したのかは、もう、すでに、わかっていたようであった。
その参加者たちの中で、やはり、呆然としている不合格者たちの1人、麗子も、その少女の圧倒的なパフォーマンスに言葉がなかった。
これが、社長の言っていた女優ね。これまでも、何かの機会で、一度和歌の詠みあげを聴いたことがあるけど、それとは次元がちがう。なんというか、言葉では、うまく表現できないけれど、これまでのものとは、あまりにも違いすぎる。
オーディションが終わって、その夜、大門監督の家では、夫婦で話をしていた。
「ところで、今日、君は、どうして、ソフィアに、秘流というのをやるように言ったんだい。そもそも、秘流というものが、なんなのか、そして、ソフィアがそれをできると、なぜそこまで知ってるんだ。それがひょっとして、今回のオーディションの、本当の目的だったのかい。」
「秘流のことは、実は、私も、そこまではよく知らないの。ただね、和歌について、そういう名前の技術というか流儀のようなものがあって、ソフィアが、和歌については、造詣が深いので、そのことを知ってるかもしれないと思ってね。正直言って、ちょっとカマをかけたのよ。それで、もし知っていたなら、やってくれるかと思ってね。
でも、そのことを抜きにしても、圧倒的な強みで、彼女が合格することは、わかっていたわ。それで、残りの参加者たちに、彼女の凄さを見せつけて、自分たちが役者として、いかに未熟であるか、そして、努力不足なのかを知らしめたかったのよ。私の作品と聞いて、参加者たちは、けっこう有名な女優たちもきていたわよね。だけど、大して実力もないのに、名前ばかり先行している人たちには、言葉で教えるよりも、こうやってショックを与える方が、響くに違いないじゃない。」
「そうだったのか。たしかに、今の役者たちは、努力不足というか、大した演技力もない割には、現状で満足している人は多いからね。君の気持ちは、よくわかるな。
だけど、いきなり、ソフィアにだけ、突然、他の参加者たちと違うことをやらせようとしたのは、まずかったね。まるで、ソフィアだけを特別扱いしているみたいな印象になるところだったな。」
「そうね。私のやり方は、ちょっと強引だったのは、謝るわ。ごめんなさい。だけど、結果的に、皆には、いい刺激になったと思う。でも、秘流とはなんなのか、どういう技術なのかは、わからないままになってしまったことは、ちょっと残念だったわ。」




