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1 -3 奇才塾の天才女優③

 実は、進藤麗子は、失踪したのちの、空白の5年間は、彼女には思いもよらない展開が待ちうけていた。 


 それは、彼女が失踪した日のことであった。ある時、麗子は、自分の主演した映画を観に、映画館に行った。それは、平日とはいえ、かなりの観客を動員していて、麗子は、初めて自分の出演した映画「家族の絆」を、劇場で鑑賞していたのであった。


 そして、その出演者全員がまとまっていて、真剣にその作品に取り組んでいた頃を思い出して感無量となっていた。劇場から出てからも、麗子は、当時13才の彼女にとって、その巨大なスクリーンの中で、緊縛したセリフを言う自分の姿には、本当に満足感があふれていた。


 すると、同じように劇場から出てきた、1人の女性が、麗子の後を歩いていたことに気づいた。ハッと、振り返る麗子。しかし、その女性は、少しだけ、笑みを浮かべて、言った。


「進藤さんね。あなたの主演した作品、たった今、観させて頂いたわ。」


「お姉さんは、いったい誰ですか。私に何か用ですか。」


「そうねえ、あの最後の方のあなたのセリフ。ほとんど素人のあなたが、、、まして、中学生の素人とは、とても思えないセリフだったわね。だけど、あなた、これからも女優を続けるつもり?」

「そうですね。女優は、続けたいと思ってます。でも、どうして、そんなことを聞くの。」

「ところで、あなた、あの役は、けっこうよかったと思ってるの?」

「うーん、でも、私、きちんと演技するのは、初めてだったから、その割には、けっこうよかったと思っているわ。」


「あの時の、あのセリフ覚えている?」


「もちろんよ。あんなに、感情を込めて、父親に訴えるシーンは、とてもいいシーンだった。自分としては、けっこう満足した出来だと思うわ。」

「そう。たしかに、いいシーンだったわね。だけどね、、、。」

すると、その女性は、軽く深呼吸をしたかと思うと、いきなり、口を開いた。


「お父さん、お願い、私の話しを聞いて。私ね、ずっとお父さんのことを尊敬してきたの。お父さんの、一生懸命に働いて、家族のために頑張る姿を見て、本当に誇りに思ってたのよ。でも、最近のことを知って、すごくショックだった。お父さんが悪い人たちと関わっているなんて、信じたくなかった。でも、それが現実だったのね。


 私ね、お父さんがどれだけ辛い思いをしてきたか、少しはわかるつもり。でも、お父さん、お願い。私たち家族を守るために、お父さん自身を壊してしまうようなことは、やめてほしい。お父さんがいてくれるだけで、私たちは幸せなのよ。


 お父さんがどんなに苦しくても、私たちは一緒に乗り越えていけるわ。お母さんも私も、お父さんを支えたいって思ってるの。だから、お願い。もう一度、私たちのために、そして自分自身のために、勇気を持って、正しい道を選んでほしい。


 お父さん、私はお父さんのことが大好きよ。だからこそ、こんなに悲しいの。私たちを守るために、お父さん自身を犠牲にしないで。どうか、私たちと一緒に、もう一度やり直そう。私たちは、お父さんをいつまでも愛してるから。どうか、、、どうか、お願いよ、お父さん!」


 その女性から、緊縛した、あのシーンが再現された。それを、いきなり、目の前で披露されて、驚いた麗子。


 なぜなら、それは、映画の中での、自分の演技を遥かに超えた演技であったからである。その女性は、映画をたった一度観ただけで、セリフも、その感情もすべて完璧に再現してみせ、自身が満足していた麗子の気持ちを見事に打ち砕いてしまったのであった。


麗子は、そのセリフに衝撃を受け、もう言葉がなかった。


 自分が満足していた、その演技が、こんなにも未熟だったなんて。それに、今まで、それに気づけなかったなんて、なんてこと。それにしても、こんなにすごい演技を、今まで見たことがないわ。それに、これまで、観てきた女優たちの演技がすばらしいだなんて、今観た、この人の演技と比べたら、本当に安っぽく思えてしまう。


その女性は、麗子がショックで言葉がでないのをみて、満足そうに、


「どう。あなたの演技、これでもまだ素晴らしかったと言えて。」


 いったい、、、いったい何なの、この人!こんなすばらしい演技ができる人がいるなんて。あのシーンが、一瞬のうちに蘇ってきて、ここにリアルに起こっているかのような錯覚をしたほどよ。私の演技力の未熟さが、本当に思い知らされたわ。今までみてきた演技がすばらしいと思えたなんて、あまりにも、演技のことがわかっていなかったわ。


「あの、、、お姉さんは、いったい誰ですか。絶対に、女優さんですよね。私、今まで見たことないです。こんなすばらしい演技、、、観たことないわ。」


すると、その女性は、やっと自身の素性を明かした。

「私の名前は、星影百合ほしかげゆり、元女優をしていたの。訳あって、今は、現役ではないけれど、今、奇才塾という女優の養成所をやっているわ。ひょっとしたら、私に興味を持ってくれた?」


「もちろんです。私も、こんな演技ができるようになれますか。今見せてもらったのと比べたら、今まで映画とかで観てきた人たちって、とても手本になんてならない。というか、お姉さんの演技力がすごすぎるんだわ。私も、その養成所に入れてもらえませんか。」


「よほどの覚悟がなければ、うちの養成所は、きびしいわよ。あなたに、それだけの覚悟がある?」

「大丈夫です。あんな演技ができるようになるなら、私、負けないわ。」


「その言葉を待ってたわ。もう後戻りはできないわよ、いいわね。それから、この養成所は、無料だから、費用とかの心配はいらないわ。ただ来てくれれば、それでいいの。」


「ありがとうございます。なんだか、あんな演技ができるようになることを考えたら、それだけで、ワクワクしてきました。私、頑張ります。」


 初めから、麗子の素質を見抜いていた星影百合は、麗子に会う機会を狙っていて、やっと養成所に導くことに成功したのだった。そして、近くに停めてあった車に乗せると、


「進藤さん、このアイマスクをしてね。養成所の場所は、誰にも知られたくないの。あなたのご両親には、あとで、養成所であなたから連絡しなさい。きちんと、女優になることとか説明するのよ。学校のことも心配しないように伝えてね。それから、今後は、私のことは、主技しゅぎと呼びなさい。いいわね。」


 アイマスクをすると、そこから、いったい何時間がたっただろうか。麗子は、思った。


 アイマスクだなんて、怪しすぎる。後先のことなど、全く何も考えずに、とっさに決めてしまったけど、もう本当に後戻りはできないわ。


 その後、奇才塾に入った麗子は、同様にして連れてこられた少女と、全部で、合計5人となっていた。そして、皆、麗子と同じような中学生であり、演技の特別な才能を見込まれた少女ばかりであった。

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