1 -2 奇才塾の天才女優②
その後、その映画は、ロードショー公開されて、大ヒットとなった。そして、やはり何よりも、進藤麗子の際立った演技力は話題となっていた。
ところが、ある日、進藤麗子は、芸能界から姿を消してしまった。突然の失踪であった。13才といえば、まだまだ子供であるので、まさか誘拐されたのではないかという見方もあり、警察も動いていた。しかし、まもなく、麗子本人から、両親に連絡があり、自分はしばらくは帰れない、併せて、学校のことは心配ないので、そのまま、探さないでほしいということであった。
やがて、国内でも最大の映画賞である、日本アオデミー賞の発表となり、進藤麗子は、主演女優賞と新人賞、そして、話題賞を、わずか13才にして受賞していた。しかし、その時は、まだ、失踪して、本人から連絡があったとはいえ、行方不明のまま、本人不在のままの発表であったが、その年の数々の賞取りは、彼女不在のまま、総取りとなり、大変なことになっていた。
ところが、5年後、進藤麗子は、突然、姿を現し、芸能界に戻ってきた。18才になった麗子は、以前よりも大人っぽくなり、その可愛らしかった印象は、美貌が際立っていて、5年間、芸能界から離れていたどころか、より洗練されたようで、もはや女優そのものであった。業界の関係者にお詫び行脚に回る彼女であったが、しかし、その空白の5年間については、決して明らかにしようとはしなかった。
その中で、かつて所属していたサプライズプロダクションを訪れた麗子は、社長の芸野に再会すると、これまでの失踪について詫びて、再び女優としてやり直したいと伝えた。すると、社長は、その期間については、なんだかとても過敏になっている彼女の姿をみて、すべてを赦し、新たに女優としての道を認めるのであった。それというのも、13才当時に受賞していた数々の賞は、最年少にして、驚異的な数だったからで、これほどの逸材を社長は見たことがなかったことで、これほどの才能をいまさら失いたくはなかったからなのであった。
そして、麗子は、復帰後、初めて、新作映画へ、主演が決まった。じつに、5年ぶりだというのに、失踪前に、新人でありながら、各賞を総なめにした実績は、かなり浸透していて、メディアには、「天才女優!新作映画発表!」という宣伝文句が、うたわれていた。
そして、各キャストが決定し、初顔合わせの日、そして、同時にクランクインの日がやってきた。
これは、豪華客船が、航海中に、同じ航路を航海中の船と衝突して、大規模な事故となり、その救出劇を描いた映画で、緊縛した中にも、人間模様が描かれる、アクションではある一方でヒューマンドラマでもある。
主役は、海上自衛隊の隊長、勇気有夫45才、そして、その先輩を尊敬している後輩の隊員、元張帯蔵25才。
その他、その現場に駆けつける海上自衛隊の多くの男子の救助隊員の中に、たった2人の女性隊員。その女子隊員の1人が麗子であり、同じく、もう1人の同僚の女性隊員には、新人の若い女優が抜擢された。その新人女優の名前は、吹雪すずめ。
彼女は、麗子と同じく18才であり、この映画の脇役だが、女性の役としては、麗子と共に、W主役に近い役どころ。そのオーディションでは、なんと300人を超える中から、5人の審査員全員からの満点評価を勝ち取ったという異例の評価の中での、出演が決定したという、非常に期待されている新人であった。
それにしても、信じがたい配役の人選は、なんとも言いようがない。女性としては主役級の2人が、実際には、18才の少女という、あまりに若すぎるということ。役の設定は、すでに21才と成人した役どころではあるのだが、これほどの信じがたい人選などあるだろうか。しかし、本松監督を始め、制作スタッフの話しによると、あまりにも若すぎる2人であるのに、その芯の力強さは、他の年を重ねた人たちをも超えて、また、リアルに感じる設定の一方で、とても非現実的に感じるほどに、2人からかつてない魅力を描き出していると、また、一度、現場に入ると、その年齢を超え、想像をこえたすばらしい演技力をしていると、監督始め、スタッフたちは語る。
劇場に足を運んだのちに、彼女たちから受けたイメージと共に、改めて感想を頂きたい、と語っていたという。
顔合わせにて初めて会った、麗子とすずめの2人。すると、驚きの麗子、
「すずめ、あなた、どうしてこんなところに!」
すると、吹雪すずめは、少し微笑みながら、
「久しぶりね、麗子。これから、裏切り者には、それに相応しい罰がくだされるに違いないわ。」
「すずめ、あなた、まだ、継続中よね。どうしてこんなところに来たの。」
「私はね、主技から言われて、さらに上のコースに進んでいるのよ。あなたが最後までやらなかった、それよりもさらに上にね。そのコースの中の課題として、今回、あなたの出演する、この映画に参加してきたのよ。」
「課題のために、この映画に参加ですって?あなた、主技と何を企んでいるの!」
「まあ、いいじゃない。今回、あなたの演技、とくと拝見させてもらうわ。」
吹雪すずめとの会話で、麗子は、その空白の5年間が蘇ってきていた。




