1 -11 奇才塾の天才女優11
その後、撮影も好調に進み、麗子も、再び、どこかのタイミングで、【超演技】をしかけられることを懸念していたのだが、以降は、何も起こらず、不思議に感じていた。
ところが、ある日のこと、彩の現場での不調を少し感じていた麗子は、彩のことを気遣っていた。
「彩、ここ数日は、何だか、そこまで調子がよくないようだけど、何かあった?」
「いいえ、特に体調も悪くないし、別に大丈夫なんだけど、なんだか現場では、いつもの調子がでないのよね。演技は悪くはないと思うけど、なんだか私としては、ベストの演技までが出来上がっていないのよ。疲れているわけでもないのだけれど。」
すると、麗子は、まさか、あやめ、何かをまた仕掛けている、なんてことがないだろうか。しかし、麗子には、彩は、演ずる中で、喜怒哀楽の表現が特に巧みなのだが、そのいつもの得意なリアルな演技が、今回はあまり表現されていないと、麗子も感じるのであった。
だが、ある日の現場で、彩が、いつもより、別に、特に悪いとかではないのだが、監督目線でいけば、いやいや彩ならば、こんなものじゃないと、よりよいものを期待して、撮り直しをすることもあった。
そして、さらに、撮影が進んでいくと、とうとうその彼女の得意とする喜怒哀楽がNGレベルにまで落ち込んできてしまった。彩は、焦り、気持ちを切り替えようとする。監督は、二階堂さん、大丈夫、もう一度、落ち着いて!、と声をかけるが、そうすると、そういう声かけをされる度に、逆に自分を追い詰めていく彩。もはや、普通に演技そのものができない状態にまでなりつつあった。
ここまでくると、周りからの励ましに、さらに頑張ろうとすると、彼女にとっては、諸刃の剣。重なる励ましは、彼女を次々と追い詰めていくようにしか見えなかった。すると、彼女のシーンになると、NGの連発となり、彼女が登場すると、いきなり撮影時間が膨れ上がり、その時間は推すばかりであった。
そして、ある時、監督が、
「二階堂さん、とても残念だけど、もう君には、今回の役は、無理だろう。何かこう心にわだかまりというか、辛い気持ちが溜まっているのかな。今回は、役を降りて、少し静養した方がいいよ。これからのためにも。
今回のW主演から、このタイミングで降板させるのは、とても大変だけど、これ以上続けると、結局は、作品が完成できなくなってしまうと思う。とても難しいけど、今からなら、主演をもう1人探す方が、得策だと思う。」
突然の降板に、彩は、驚き、泣き叫びたい気持ちを抑えつつ、
「わ、わかりました。私も、今回は、もう無理だと、2日くらい前から思っていました。でも、自分からはとても言い出せなかった。監督、お気遣い頂きまして、ありがとうございます。皆さんのことも考えると、今回は、これで失礼することに決めました。本当の申し訳ありません。今までありがとうございました。」
そう言うと、泣きながら、スタジオを後にした、その後ろ姿に、麗子は、かける言葉が見当たらなかった。
こんなことって、いったい何が起こったの。
撮影は、再会し、彩の代役については、もはやオーディションなどを行なっている場合ではない。撮影時間もその2割以上が過ぎていることから、誰かを推薦して決定するしかない。
すると、緑川あやめから、監督に
「監督、私の役、よろしければ、変更して、彩の役にしてもらうのは、難しいですか。私なら、一緒に現場にもいたし、彩のセリフも演技も全部入ってますから、撮り直しのシーンは、すべて一度で演じてみせますよ。」
すると、驚きと喜びの表情になる監督、
「そうか。君なら、この作品のことは全部理解しているよね。それに、君だったら、演技の心配もないな。これから、代役をたてるなら、君の役だった役を探す方が、たしかに簡単だね。」
「それでは、私の役、彩の代わりでいいですか。」
「ありがとう。よく申し出てくれたね。早速、今日の午後から、彩のシーン撮り直すよ。ちょっと今日は、帰りが遅くなるけど、頑張ってくれるかい。」
すると、少し微笑んで、さらに言葉を続けるあやめ、
「それから、妹役ですが、吹雪すずめは、いかがですか。」
「吹雪すずめか。年齢的にも、彩とは同じだし、彼女なら、この間の主演女優賞もとったし、演技も申し分ないね。スケジュールとかは大丈夫なのかな。」
「もちろん大丈夫です。それも確認済みで提案しているんです。実は、彼女は、私の友達で、この撮影が始まってから、この台本は、彼女も、私のやる妹役のところ全部見たいって言うので、もう、妹のセリフも全部入ってるんです。」
「ええ、そんなありがたい話しって。いやあ、助かったな。それで行こう。ところで、吹雪すずめは、いつから来られるかな。」
「連絡すれば、もう明日から大丈夫です。」
「よし!じゃあ、初めからやるつもりで頑張っていこう。」
その場にいた麗子は、驚いた。
なんということ!吹雪すずめですって!この作品に、、、
すると、その後、二階堂彩は、静養していたが、ついに、引退することとなった。引退発表の記者会見では、泣きながら、自分を取り戻すことができないと、なぜだか女優をやることが、もはや自分を苦しめる1番の原因になっていることになってしまったことを告白し、引退を決意したと発表した。
その引退会見を、麗子に、あやめ、そして、新しく妹役に決まったすずめの3人は、撮影現場の休憩室で、テレビ中継を見ていた。
すると、すぐに席を立ち、廊下の隅にいくあやめ、誰かに電話をしている。
「あっ、主技ですか。今、テレビ観てましたか。そう、ついに引退しましたね。」
「もちろん、観ていたわ、よくやったわね。あやめ、今度こそ、2人でやり遂げるのよ。」
ここまでの引退劇は、あやめによって仕組まれていた、奇才塾の、闇演技の中でも、最高難易度の、【奥義 演技衰退】なのであった。あやめは、入念に計画をして、時間をかけて、彩を追い込んでいった。
彩は、あやめから放出される微細な変調波動によって、才能を徐々に狂わされ、引退にまで追い込まれてしまったのである。その時間をかけて追い込んできたせいで、麗子に、その秘技は見破れなかったのであった。
ついに、麗子とW主演であった二階堂彩は、とうとう芸能界を引退にまで追い込まれてしまい、新作映画の現場にも衝撃が走っていた。だが、彩の代わりに、緑川あやめの推薦で、あの奇才塾から、吹雪すずめが、再び姿をみせていた。
もちろん、彼女なら、彩の代役に立つことは、女優としては申し分ないどころか、彩以上に、その実力は認められるところである。しかし、奇才塾からの指令として、麗子を陥れるために、今回の作品に参加してきたとしか思えない。しかも、推薦したのは、同じく奇才塾から来た共演者の緑川あやめなので、この映画の残された撮影期間中に、何が起こるかが、とても気がかりな麗子であった。




