1 -1 プロローグ①
進藤麗子は、13才で女優を目指している。幼い頃から、テレビ好きの麗子は、バライティよりも断然ドラマ派であり、学校では、同級生たちが、お笑い芸人の番組の話しで盛り上がっている中、同い年の友人の荒玉亜弓と、真剣にドラマについて語り合う。同級生の中には、他にもドラマ好きの友人がいたのだが、麗子と亜弓は、その女優たちの演技についてまで語り合い、そんなコアすぎる2人には、誰もついていけなかった。麗子は、もうこの頃から、自分で、女優としての芸名まで、本名の進藤麗子でいこうと決めていた。
そして、ついに、2人は、CMのオーディションに応募する。そして、麗子は、合格し、残念ながら、不合格となった亜弓は、特別の補欠枠に入った。すると、その会場にいたサプライズプロダクションの社長、芸野浮衣45才から、2人はスカウトされて、CMの仕事ののち、とうとう念願の女優として芸能界入りを果たす。
所属が決まった2人は、その後も、それぞれいくつかのCMに起用されたのちに、いよいよ映画で女優デビューを果たした。オーディションの審査委員長をしていた本松天都監督の目に止まり、麗子は、監督から、その才能をかわれて、推薦で、監督の新作映画の主役に抜擢され、一方で、荒玉亜弓もセリフこそ少ないが、その映画に女優デビューは、極めてラッキーな展開だった。
その映画の物語は、主人公の中学生役が、進藤麗子、その両親、父親役は、ベテラン俳優の便手 乱、そして、その母親役は、元女子アナウンサーの安奈運沙で、麗子の妹役に荒玉亜弓に、麗子の祖母役には、大女優の高飛車位張莉が務めるという、デビュー作にして、そうそうたるメンバーであった。
実は、ちょうどその半年前のこと。
ある映画の女優が脳溢血で倒れてしまい、ほんの10分のシーンだけの出演だったのだが、そこで、急遽、1シーンだけでてみないかと、大物監督から麗子に出演依頼がきた。主役の大物女優との初めての絡み。すると、その大物女優からは、さんざん嫌味を言われた。セリフは、ちゃんと入ってるの、緊迫したシーンで上がったりしないわよね、私たちに恥をかかせないでね、などと、若いのに生意気だと、言わんばかり。だが、麗子は、いざその本番になると、澱みなくすばらしいセリフを披露した。
その緊縛したセリフに大物女優は圧倒され、途中で、そのセリフを中止させる。すると、そのまま帰ってしまい、この子をやめさせないと、自分はこの作品にはでないと言いだしてしまう。
そのことから、麗子は、監督から、悪いが交代してほしいと言われてしまう。麗子は、監督に、自分のせいで、トラブルが起こってしまったことを謝罪した。だが、監督からは、かえって申し訳ないことをしたと謝られる。その大物女優がでないと、この映画はできないので申し訳ないが、今回の起用については、キャンセルにしてほしいと、改めて申し入れがあった。そして、実は、監督から、あの場面では、君の演技が圧倒的であったので、大物女優は、気分を損ねて帰ってしまったのだろう、いつか、また、一緒に仕事をしようと言われた。
そして、その後、今回、新作映画「家族の絆」において、彼女は、今回の主役を射止めたのである。そして、クランクインを迎えて、無事に映画デビューを果たした麗子と亜弓。麗子は、初めてとは思えない、その現場での堂々とした演技に、ベテランたちは、言葉がない。
大会社の社長である父親の、高校生の娘役の麗子は、父親が悪い業者と闇でつながっており、始めのうちは、そのことを知らずに関わっていた父親だったが、そのことに気づいた時は、もうすでに手遅れになっており、ずるずるとその悪事から逃れられないでいた。
そして、ようやく、妻の景子と娘の知ることとなり、妻から手を引くように諭されるが、全く聞く耳を持たない父親。だが、しかし、娘役である麗子が、父親に涙ながらに訴えるシーンでは、他の現場にいた共演者たちも、麗子の緊縛した演技に魅了されていた。父親に対して、ただ責めるのではなく、どれだけ父親のことを、愛しているかと心底感じさせる、愛情あふれる演技が、そのシーンを監督が涙目になって、撮影したほどであり、実際には、まだ中学生なのに、芯のしっかりした、父親思いの高校生という役どころが見事であり、このシーンは、この映画のハイライトシーンとなった。
すると、その時の演技は評判になり、さらにセリフの多い役柄に抜擢されるようになっていった。そして、本読みなどで、共演者から、その現場ではなく、セリフ入りだけなのに、没入感がすごいと言われ、実際に現場で演じてみると、その映画の世界に本当に飛び込んだような、錯覚した感覚に襲われる。共演者は、彼女との共演をすることで、さらにすごい体験をしていく。
彼女と演技をしていると、半分演技ではなく、少しずつ、その世界をリアルに体験しているように感じられていく。気がつくと撮影が終わっているという不思議な感覚が起こっていた。撮影が終わると、麗子と共演した俳優は、皆、口々に、何が起こったのかわからないのだが、気持ちよく演技をやり遂げたと言う。
撮影中には、NGはもちろんなく、その真剣な現場は、とても貴重なものであり、皆、真剣すぎるほどに取り組んだ撮影は、満足感と喜びが溢れていたという。
以下は、話題になった映画「家族の絆」の現場で一緒に仕事を共にした役者たちのインタビューから、
私の名前は、便手 乱。先日、45才の誕生日を迎えたばかりだ。今度の映画は、共演する女優が、中学生役で、私は、父親役で、親子の役なのだが、なんと現役の中学生なのだ。おまけに、今回、私とW主演という。自慢じゃないが、私は芸歴22年になるし、同年代では、かなり人気のある演技派で有名な俳優だ。それを、彼女は、まだ映画出演は、今回で2本目だというではないか。彼女と初めて会ったのは、まだ4ヶ月前のこと。
彼女は、私がモミジテレビのドラマに収録の休憩中にサプライズプロダクションの社長と共に挨拶にきた。今回、女優デビューするから、よろしくと言う。聞けば、13才で、現役の中学生。これは、一端の女優になるまで続くのかな、なんて思いながら、一応頑張ってねと、声をかけたのだが、こう、今になって、私とW主演になるなんて、誰が想像できただろうか。
それで、さらに驚きなのが、その演技力なんだ。一度、本読みの時、初めて彼女のセリフを聞いたのだが、この子は、今回、本当に新人なのか、と思ったよ。その演技力は、周りの共演者にもすごい影響力で、この子はいい女優になるのだろう。あと、数年後に、また、共演してみたいと思っている。
次に、
私は、今度の映画で、進藤さんの母親役をやらせて頂きました、女優の安奈運沙、といいます。今回は、ベテランの便手さんとの共演をとてもうれしくて楽しみにしていましたが、実は、初めての母親役なのでちょっと緊張していたんです。
私は、女優だなんて、そんな偉そうなことは本当は言えなくて、元々、テレビ局のアナウンサーから、演技の世界に興味があって、女優に転身したので、正直言って、まだまだその現場は、とても緊張するし、昔、テレビで拝見していた女優さんたちにお会いすると、すぐに一般人に戻ってしまい、ワクワクしてしまいます。
そんな中、やっと後輩の立場である進藤さんとの初対面で、一緒に頑張りましょう、と初めて声をかけて、自身にも元気づけるつもりでした。ところが、進藤さんって、これが映画2本目ですってね。うそでしょ。あのシーンのあのセリフ、私、あまりに緊縛したあのシーンの、最初に聞いたあのセリフには、その一般人のように興奮して観ていました。
本当に感動してしまって、おかげで、あとのセリフを言うのを忘れていましたわ。それで、私、たぶん、他の役者さんたちは、とても口に出して認めるのが怖くて、直接それに触れないようにしていると思うのですが、あえて私は、そのことについてお話しします。
あの、進藤さんと同じシーンで、同じ場所にいることを意識して演じていると、なんというか進藤さんのエネルギーに引き込まれるというか、ぐいぐいと作品の中に引き込まれて、実際に映画の中が現実のように、リアルに感じられて、ものすごくいい演技ができたんです。これって、最初、錯覚かなとも思ったんですが、いい演技ができたのは進藤さんのおかげなんです。
女優も駆け出しの私ですから、今、正直に言えましたけど、他のベテランさんたちは、そのことに一言も触れないですね。だって、大御所のベテラン俳優さんたちが、映画デビュー2本目の13才のお嬢さんのおかげでいい演技ができた、なんて、口が裂けても言えないでしょう。でも、私は、正直に言いますよ、だって、本当にすごい体験だったんですもの。あの子は、すごい女優さんになるわ。いいえ、もうすでに、すごいんですけど。こんな私から言うのもなんですけども、他の共演者さんたちの代わりにお話しさせて頂きました。他の女優さん達には、ぜひ一度共演してほしいと思います。




