第3部 (スマホの)夜会編 第1話 昭和ゾンビと新年会
第3部 スマホの夜会
第1話 昭和ゾンビと新年会
残った栗きんとんを、ひとりで食べた。
昔は、弟と競うように食べていたのに。
いまは自分で作って、自分で食べる。
おせちを「お重ごと買うなんて」と思っていたけれど、いつのまにか、うちでも買うようになった。
だけれども、煮しめと栗きんとんだけは作る。
去年の残りのクチナシの実で、さつまいもを色づけて、裏ごしして、つやを出す。
けっこう手間がかかるので、毎年「今年で最後」と思うのだけど、やっぱり作ってしまう。
甘いものが「贅沢」だった時代じゃなくなったんだな、と思う。
北海道ではおせちを大晦日に食べるっていうけれど、あれは本当なのか。案外、よくわからない。
そんなことを考えていたとき、鏡餅の横でスマホが震えた。
いつもなら、正月は年賀状のやりとりだけだった伸子と響香。
けれど昨年は、伸子の長旅でしばらく音信不通だったせいか、今年はそれを取り戻そうとしているのかもしれない。
「おめでとう。」
「ああ、そうだった。今年、初めてだったね。」
「あけまして、おめでとう。」
「お正月、運動会場みたいだった。」
「凛ちゃん、かわいくなったでしょう?」
「まあね。しゃべるわしゃべるわ。そっちは? 下のお孫ちゃん、二歳になったんでしょ?」
「よく来たよ。『あけおめ』って言ったら、神妙な顔して後ずさりするの。」
「あら。」
「娘が言うの。『あけおめなんて死語使うからよ』って。」
二人の笑い声が混じった。
「それでね、言うのよ。『死語ばっかり言ってるとゾンビだ』って。昭和のゾンビだって。ひどいと思わない?」
「あら、うちの凛は『あけおめ』言うわ、言ってたわ。」
「伸子さん、教えたの?」
「きっと児童館で覚えたのね。定年後のおじ様おば様が見てくれてるっていうから。凛、ゾンビ化したかしら。」
「昭和ゾンビ、たしかに不死身だもんね。あっち痛い、こっち痛いって言いながら、ぴんぴんしてるもの。」
「めだかゾンビの館……」
「あっちこっち、ゾンビだらけね。」
「不死身ね……そうでなきゃ。」
響香の声が、泣いているように聞こえた。
伸子が「泣いてる?」とたずねると、「おかしくって……」と返事が返ってきた。
「ありがとうね、今日は。」
響香がそう言って、電話は切れた。
「新年会をしよう。」
どちらから言い出したのかも覚えていない。
ただ、もう少し話したい気持ちが、画面の向こうで重なった。
そして、新年会をすることになった。
……そして、新年会をすることになった。
札幌の地下道、通称チカホ。
コンビニの横の、あの金庫の前のベンチ。
ふたりだけの新年会は、そこで静かに始まった。
ただいま編 第33話~第35話




