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【旧稿】台所シリーズ ― 水と記憶と祈り ―  作者: 朧月


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 長旅編 これまでのお話(後編)数滴に映る未来~ベネチアの朝とラジオの声

台所シリーズ 第2部

『台所はせかいをかえる』長旅編

虹の輪の終わりと再生


―― 水の未来と、心の音色 ――


上司には「予算も具体性もない」と一蹴されたけれど、

どうしても“水の未来”を見届けたかった。


ほっとしたのは、ほんの一瞬。

気づけば、知らぬ間にその流れの中へと引きこまれていった。


第11話 

数滴に映る未来――横浜水道に見る、驚異の数値


ぞろぞろと、横浜の水道施設を見せていただいた。

一日を共にすごすと、おのおのの性格がよくわかる。


ダビデは、おそらく潔癖症だ。

テーブルに残った水滴のひとしずくにすら、彼の視線は止まる。

まるで、世界のノイズを取り除くように。


「1000年つづくストーリーを、かくのだと……」


そんなことを、ダビデはつぶやいていた。

きっと読ませてくれると思っていた。


……でも、その文章を、最後まで読むことはできなかった。


それでも私も、真剣にレポートを書いた。


『横浜市水道インフラの驚くべき数値』

                    縣 伸子


最近、AIでも報告書が書ける時代になったと知りました。(略)

そんな中で出会った横浜市の水道インフラに関する資料は、私を大いに驚かせました。

明日から始まる「虹の輪」の活動に、この横浜での学びを活かしたいと思います。


2023年3月24日


ダビデが気にしていた、水滴のひとしずく。

それは――世界を整えようとする、静かなまなざしだったのかもしれない。


彼が書いたレポートを、もしかしたら見ることができるかもしれない。

その話を誰かに伝文できたら、それだけでも「虹の輪」に参加する意味があるように思えた。


明日から始まるのは、少し騒がしい未来かもしれない。

けれど、それでも。


すべてをつなぎとめている “なにか” に、触れてみたくて――

行きたいという衝動にかられている。


第12話 

ダビデのカラオケ サードラブ


再び、ダビデが歌いだした。

熱く激しく歌ったかと思えば、声もとぎれ、

言葉にできない単語にメロディーだけが流れ、切なく響いた。


歌詞をのせた画面に、飛行機が飛び立つシーンが映る。


しかし、五十を過ぎたと知ったダビデは、

エンジンとブレーキのバランスをくずした飛行機のように見えた。


この「サードラブ」の相手は、

この《虹の輪のプロジェクト》そのものだったのだと。


第13話

 See you Again ③ 〜シマエナガと白い恋人〜


長い出国の列に並びながら、私はそっと、

「ありがとう」のスタンプをもうひとつ送った。


A Whisper from Home at 30,000 Feet — with Love

(三万フィートの空の上、家からのささやき――愛をこめて)


第14話 

伸子とバラ子の春 ②~黄色いバラ~


「いえ、次の場所にも行きます。」

答えは、昨日のうちに決めていた。


「きっと、きれいだわ。咲いたら、この景色。」


バラ子と、しばらくそこに立っていた。


"It's enough that I've taken the picture with my heart."


バラ子はそう言って、伸子の肩をたたいた。


──心のシャッターで、十分。


第15話 

夢のテーブルとシャッフルの音

1 カード


伸子の夢は続く。

今日はどんなカードが現れるのだろう。


大統領の手つきは、昨日と同じようで、少しだけ違う。

シャッフルの音が木のテーブルに響き、失った羅針盤の針がかすかに揺れる。


スパムの缶は、静かに光を反射している。


第16話 

崩れたジグソーパズル


トレーナーは、大量の書類を机に叩きつけた。

机の上のスパム缶も羅針盤も床に落ち、

キティがさっき瓶にいけたピンクのバラも、ごんと音を立ててころがった。


「僕たちは、どうなんだ。ルールと戦っているのか?」


カラオケは、「虹の輪」の仲間たちの絆を、そっとつないでいた。


第17話 

カナリアの残響


「国際貢献」なんて言葉の意味さえ、もう、わからなくなってしまった。


正義は、人を強くし、

また、人をきずつけてしまう。


この負のループを断ち切るものも、

きっと、正義しかない――


と、涙をぬぐう。


船は、悲しみの海を、静かにこいでいく。

そして、その海を「カラオケ」という名の波が、やさしく癒してる。


第18話 

ベネチアの朝とラジオの声


昨夜は、今日の講堂でのプレゼンを考えて眠れなかった。


この一年半、あらためて水道インフラに向き合って感じたのは、

「当たり前」は、実は当たり前ではないということ。


日本のように、安全な水が家庭の蛇口から直接出てくる暮らしは、

世界では決して当然のことではない。


この情報は、スマホがあれば誰でも見られる。


だからこそ、「教壇の上で話すこと」が傲慢なのではないかという自問も巡った。


一年半かけて見てきたことは、

数字には表れない憤りや、祈るような思いにも満ちていた。


それでも、きっと「語る勇気」を求めていたのだと思う。


いつものように、皆がラジオを囲む。

ギターが慎重にダイヤルを回し、ノイズがふっと静かになる。


ダビデの声が流れる。


「……最後に、今日の僕の音色。」

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