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【旧稿】台所シリーズ ― 水と記憶と祈り ―  作者: 朧月


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② ふたりの幹事会〜秋の本屋で再会 てぶくろ

第8話 ②ふたりの幹事会〜秋の本屋で再会 てぶくろ


その声には、会えたことのうれしさが、惜しみなくあふれていた。


響香も、絵本コーナーで、2歳になろうとしている孫のための絵本を買いに、少し早めに来たのだという。


彼女には珍しく、早口でまくしたてるように話しはじめた。


「もうすぐ2歳よ。買う絵本は決まってるの。でも、今度でもいいわ。それよりカフェで話そう」


「あ、それなら……私も日本の絵本、久しぶりに見たいわ」


棚の表紙をなぞるように見つめながら、伸子は言った。


「やっぱり、日本の本の表紙ってきれいね。タイトルのつけ方も美術品みたい」


「外国では、ちがうの?」

響香が首をかしげる。


「そうよ」

「で、どこの国に行ってたの?」

「早く聞かせてよ」



そう言って、響香は、

これまた彼女らしくない速足で、絵本コーナーへと向かっていった。


――いつもの響香なら、


「あら、この本」

「あら、あっちのも」


と、興味があちこちに飛び跳ねているはずなのに。


その様子を思い浮かべると、伸子はふいに笑みをこぼした。


響香は、黄色い野ネズミが丁寧に描かれた絵本を手に取り、そっとレジに並んだ。


「てぶくろ」


伸子は棚を見渡しながら、思った。


(こんなにたくさんの絵本があるなんて。)


凛を連れてきたら、きっと目を輝かせるだろう――そう思うと、胸がふっとあたたかくなった。


広々とした絵本コーナーには、滑り台をかこみ親子がくつろげるコーナーがあり、

2組の家族が、秋の朝のやさしい時間を穏やかに刻んでいる。




その様子を見つめながら、伸子は小さくつぶやいた。


「日本って、平和ね。」


この当たり前が、どれほど大切なものか。

彼女は、噛みしめるようにその言葉を胸に留めた。


バラの本に挟まれていたメモの挿絵――絵本「小さいおうち」も、目立たない棚の一角に、まるで呼吸するように静かに置かれていた。




レジで、響香が手にした絵本が包装されていく様子を見つめながら、伸子がふたたび口にした。


「やっぱり、日本の本の表紙って、美しいね。」


すると響香が、少し笑って言った。


「あら、これ日本の絵本じゃないのよ。ウクライナの絵本。」


その瞬間、伸子の中に、すっと何かが走った。


(ああ――)


この一年半、同じ気持ちで、遠くの国を見つめてきた。

戦争の映像。瓦礫の街。途切れた日常。小さな手。


「なんとかならないかしらね。」


「そう、なんとか……ならないかしらね。」


ふたりの声は、祈るように静かだった。


「この絵本、はじめはロシア語に訳されたのだって。

その地域の文化や伝統を尊重しようという、その時代の風が、そうさせたみたい。


ロシア語によって、多くの国に、このやさしい物語が伝わったのよ。


ウサギもリスも、小さな手袋の中で、互いを思いやって、

あたたかな世界を築いていた――そんなお話だったのにね。」


レジの店員も、そのやりとりに耳を傾けながら、

どこかゆっくりと、包む手に気持ちをこめているようだった。


最後に、店のロゴが入った小さなシールと、黄色いリボンがそっと添えられた。


第8話③へ つづく。

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