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【旧稿】台所シリーズ ― 水と記憶と祈り ―  作者: 朧月


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長旅編 第16話 崩れたジグソーパズル

台所シリーズ 第2部 『台所はせかいをかえる』 長旅編


第16話 崩れたジグソーパズル


ジョーカーが出た日の夢は、こうだった。


トランプが、またトランプをシャッフルして切っていく。

ジョーカーが出た。

トレーナーが帰ってきた。


彼は明らかに怒っていた。


「何がルールだ。これがルール? これもルール? それもルール?」


トレーナーは大量の書類を机に叩きつけた。

机の上のスパム缶も羅針盤も床に落ち、

キティがさっき瓶にいけたピンクのバラも、ごんと音を立ててころがった。


「僕たちは、どうなんだ。ルールと戦っているのか?」


「伸子、ちょっとは意見を言ってくれないか?」


「丹念に書類に落とせば、きっと誰だってわかってくれる。

それが君の言う意見だったよな。」


「もう、日本語でしゃべるのも疲れた。眠い。」

「誰か、日本語で訳しておいてくれよ。」


バラ子が伸子の肩を抱いた。


「彼は疲れているのよ。」


無理もなかった。みんな徹夜続きだった。


――そっちのシステムに問題があるのは分かっている。

だから、私たちに見せてほしい。見れば、こんな私たちでも、解決策を見いだせるかもしれない。


それを伝えるために、何枚も何枚も現地語で書類を作った。

だが、現地の人に突っぱねられた。


「介入しないでくれ。」

「そんなのは上の判断だ。」


その“上”だって、窓口の者は分かっていない。


どこの国でも、井戸番は大事な役職だ。

場合によっては、一族の存続すら託されるというのに。


伸子は落ち込んだ。

けれど、トレーナーは大人だった。


しばらくすると、何事もなかったかのようにテーブルにつき、

「ジグソーパズルをしないと眠れない。」

と言った。


「富士山、きれいな山だね、伸子。」


美しい発音の彼の言葉。

それだけで、十分だと思った。みんなも。


キティが、「この瓶、水が一滴もこぼれないなんて、奇跡じゃない」と言い、

バラをもとの場所に戻した。


けれど、もう一波乱あった。


"But I’m not going to the general waterworks museum anymore.

Nobuko, buy a ticket for me and go in.

It doesn’t have to be you, though."


「僕は、もう水道資料館には行かない。

伸子、俺の分もチケット買って入ってきてくれ。

別に伸子じゃなくてもいいんだけど。」


"I'll make the report. You don’t need to see it; I can just copy-paste for 30 minutes in the hotel, and it’ll be done.

There's no need to go there if all you're going to see is the entrance."


「僕が報告書は作る。

あんなの見なくたって、ホテルで30分コピペすればすぐにできるさ。

わざわざ、入口だけしか見れないなら、足を運ぶ必要はない。」


「それは違う。それじゃズルじゃない?」


伸子はそう思った。


「ディファレント。違う。」


トレーナーがまたテーブルを叩いた。


「だったら、どうすればいいというんだ!」


そう叫ぶと、テーブルをひっくり返した。


せっかく、もうすぐ完成しそうだったジグソーパズルが崩れた。


バラ子がギタリストの肩をたたいた。

ジェリーがうなずいた。


ギターの音が静かに流れた。

――いつか聞いた、映画の音楽だった。


みんなは黙々と、ジグソーパズルを組み直した。


もちろん、トムもいた。

トレーナーも、今度は黙って青いピースを集めて、横にわたした。


それが、救いだった。


それからトレーナーは、視察に行かなくなった。

自室で、マイクラばかりするようになった。

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