長旅編 第15話 夢のテーブルとシャッフルの音
台所シリーズ 第2部 『台所はせかいをかえる』 長旅編
第15話 夢のテーブルとシャッフルの音
1 カード
伸子は、この頃よく夢を見た。
失った羅針盤。
スパムの缶。
古ぼけた木のテーブル。
そこで、ある大統領がトランプを切り、半分に分けてシャッフルし、また切る。
そして、一番上のカードをめくる。
そのカードの表には、旅の思い出が描かれた絵が浮かび上がる。
今日は、ジグソーパズルをしている場面だった。
トム、ジェリー、バラ子さん、伸子、ギタリスト、キティ、トレーナーの七人が集まって、富士山のジグソーパズルをしている。
伸子の夢は続く。
今日はどんなカードが現れるのだろう。
大統領の手つきは、昨日と同じようで、少しだけ違う。
シャッフルの音が木のテーブルに響き、失った羅針盤の針がかすかに揺れる。
スパムの缶は静かに光を反射している。
一番上のカードがめくられる瞬間、空気が少し変わった。
2 ハート3
今日は――ハートの3だった。
そのカードの赤い模様が、ほんのりと温かさを放つ。
カードの表面に、ふっと映し出されるのは、また違う旅の記憶。
今度は海辺の風景だ。
伸子とトム、ジェリー、バラ子さん、ギター、トレーナー、そして新しく現れた「青い鳥」が、波打ち際で貝殻を探している。
皆、波の音に耳を澄ませ、笑い声が風に溶けていく。
伸子はふと思う。
「このカードは、私の中の何を映しているのだろう?」
そして、目覚めた後も、胸の奥にその波音が残っていた。
3 キング
二日目の夢。
次の日も、古ぼけた木のテーブル。
この日は、まだスパムの缶はない。
――そうだ。
スパムの缶は、みんなで食べようとトムが買ってきた。
写メを撮って、故郷にメールしたと言ったら、
誰かが「それはない」と言って、
それには誰も触れなくなった。
また、古ぼけた木のテーブル。
そこで、大統領がトランプを切り、半分に分けてシャッフルし、また切る。
そして、一番上のカードをめくる。
キングのカードが出た日、ジェリーが言った。
「ジグソーパズルをしようぜ!」
伸子は、ジェリーを心の中で「中井くん」と呼んでいた。
さすが、平成・令和の気遣いリーダー、中井くん。
「やっぱり富士山の絵が一番いいと思って。いいだろ?」
「うん。ありがとう。日本の山、選んでくれて。」
「グランドキャニオン(アメリカ)とか、エッフェル塔もいいと思ったけどさ。ひとつ作ったら、また次やろうぜ。俺、すごくない?いい考えだろ?」
中井くんはいつもの調子でそう話すと、皆も「しょうがないな」と笑って、ジグソーパズルを始めた。
そのうち、さっき何にケンカしていたのかも、わからなくなる。
問題の先送りと言われればそれまでだけど、
伸子には、あの時あれが最善だったと思う。
中井くんに、拍手を送りたい気持ちだった。
4 終わりのカード
失った羅針盤。
スパムの缶。
古ぼけた木のテーブル。
そこで、大統領がトランプを切り、半分に分けてシャッフルし、また切る。
そして、一番上のカードをめくった。
ジョーカーが出た日は、そこで終わる。
ジョーカーの絵が、どこか笑っているようだった。




