長旅編 第13話 See you Again ①〜セスナ?ジェット?ポケモンジェットと竜宮城〜
台所シリーズ 第2部 『台所はせかいをかえる』 長旅編
第13話 See you Again
〜セスナ?ジェット?ポケモンジェットと竜宮城〜
1 セスナ?ジェット?
羽田に向かう高速道路は、次々と分岐点を通り抜けていく。
回路のような道は、空へと向かうように伸びていた。
前に座るダビデの顔。
そして、隣に座る彼女の横顔。
「ジェットが、軌道を外れたら、日本中のブーイングよ。」
「そんなに、大きくないさ。」
2人は飛行機の話をしているのかと思ったが――
セスナ、ジェットと、お互いを呼び合っているのだと、伸子はわかってしまった。
「セスナ、つぎはどこに行くのか?」
「ジェットには無理なとこ。」
きのうのカラオケの夜を思い出す。
伸子の耳には、ダビデの声がまだ残っていた。
前に座る二人は、風まかせの紙飛行機ではない。
エンジンとブレーキのバランスを失った――飛行体。
成人して三十年、誰よりも空高く、と自ら誇った最新鋭のジェット機を、
たった一言でプロペラ機に変えてしまう彼女。
サードラブ?
そんな言葉が、ふと心に浮かんだ。
日本への出発は成田だと思い込んでいたが、
当日の朝になって、千歳からだと知らされた。
この長い旅が、本当に始まってしまった。
はじめての国際便。
わん。つー。すりー。
まずは――北海道、千歳へ。
2 ポケモンジェット
羽田から千歳へ向かう飛行機は、偶然にもエア・ドゥのポケモンジェットだった。
白地に黄色、かわいいリスのようなキャラクターが描かれている。
「なんて名前?」
孫の凛の顔を思い浮かべる。
答えるときの、あのいきいきとした表情が目に浮かぶ。
ごぼうスープを入れてもらったキャラクターのカップも、
凛に見せてやりたいと思った。
キャビンアテンダントの美しい笑顔に、似合う笑顔を返したくて、
空になったカップを差し出した。
「おいしかったです。」
窓の外に広がるのは、地図と同じ北海道の海岸線。
大地には、まだところどころ雪が残っている。
それでも、うっすらと緑の色が見えた。
白いキャンバスに、春の絵の具がそっと塗られたようだ。
機内冊子には、今乗っている機体の全体像が描かれている。
見下ろす地上は、何度も車を走らせた懐かしい大地。
けれど、この黄色いポケモンジェットを見たことはなかった。
青い空を、この黄色の機体が飛ぶ姿――。
まるで、菜の花畑からポケモンが種をまいているようで、
なんて、かわいらしいことだろう。
凛とポケモンの話をしていたときのことを思い出す。
横にいた未希と加奈の顔も、なつかしく浮かぶ。
心の中で、地上に向かってそっと手を振った。
「ただいま。いってきます。」
シートベルト着用のサインが消える。
スマホの電源を入れた。
荷物を取ろうと、みんなが立ち始める。
「今、千歳よ」と連絡を入れようかと思ったが――
列ができはじめて、やめた。
3 新千歳空港
千歳空港――それは、伸子の長女・加奈が毎日通う場所。
もう十年以上になる。
この空港で加奈は、飛行機の離着陸の安全を担っている。
毎日、二百便近い飛行機が発着する中、
そのすべてを見守る仕事だ。
思い返せば、コロナ禍は新千歳空港にとっても大きな試練だった。
国際線はほとんど運休し、観光客の姿も消えた。
国内線も、外出自粛や県をまたぐ移動制限で大幅に減便された。
一時は、一日あたりの発着便数が百便を下回ることもあった。
静まり返った空港の話を、何度も聞かされたものだ。
それが、ついこの前のことのように思える。
けれど、春の空港を歩く人々の足取りは明るさに満ちていた。
マスクをしている人もいる。
けれど、もう“しないこと”が自然に戻りつつあった。
大きな窓の向こう――
これから建設が進むラピダスの敷地が見える。
エスコンフィールドの完成も見ずに出発したのに、
町はもう、変わっていた。
「浦島太郎になるかもね。」
そう、笑ってみせた。
異国の仲間たちは、その話を興味深そうに聞いている。
「むかしむかし、助けた亀に連れられて、竜宮城に行ったならば……」
「竜宮城は、それは日本?」と尋ねられ、
伸子は少し困って笑った。
少し離れたところで、ダビデが笑みをこらえている。
どうやら、浦島太郎の話も知っているらしい。
腕組みしたプロペラ機が、
再びジェット機に戻ろうとしているように見えた。




