長旅編 第10話 |響香《きょうか》の残響 ― 音楽と記憶の中で
台所シリーズ 第2部 『台所はせかいをかえる』 長旅編
第10話 響香の残響 ― 音楽と記憶の中で
~響香の残響と、あのときの手
虹の輪のメンバーの夜は、歌ではじまり、歌で終わることが多かった。
「私はその手がすきです。」
ギターが歌う、福山雅治の「道標」を聴きながら、七人全員が涙を流した。
「あなたの手……」という歌詞に、それぞれが違う“手”を思い浮かべていた。
伸子は、長沼のハーベストでコロッケを食べていた響香の手を思い出していた。
花屋で働く響香の手は、ざらざらしていた。
「もしかして、『残響』にこの曲、入っているのかしら?」
スマホで検索すると――
『残響』収録曲一覧(通常盤)
群青 ~ultramarine~/化身/明日の☆SHOW/ながれ星/幸福論/18 ~eighteen~/最愛/想 -new love new world-/phantom/survivor/今夜、君を抱いて/旅人/東京にもあったんだ
ラスト:道標
やっぱり、と思った。
まさに、福山雅治ファン層のど真ん中にいる年代の響香。
それなのに、「ちぃ兄ちゃん」(※『ひとつ屋根の下』)を知らない人がいるのか……と、伸子は不思議に思った。
オリコン年間1位だった「だんご三兄弟」のリズムが日本中を包んでいたあの頃。
「桜坂」を誰が歌っているのかも知らず、娘とアンパンマンに夢中になっていた日々。
(GACKTと福山雅治の区別つかない人、いるの?)と、少し思っていたけれど、
北海道にも、そんな時代が確かにあった。
時代を見つめ、明日を見ようとしていた響香。
そして、母として、娘を“ひとりっ子っぽく”育てたくないと願っていた彼女。
殻を破ろうとする高校生の娘に、あえて少し距離をとりながら、静かにエールを送り続けていた。
そして――その娘からもらったCDの話。
あのとき、コロッケを食べていた。
「坂本龍馬やってた人なんだって。私、音楽番組見ないから分からなくて。
娘が、『みんなが泣いた学祭の舞台、ママ、見る?』って言ってくれてね。
それが高校生たちの歌う『最愛』だったの。老夫婦の最後の別れを描いた劇で、
『こんなに感動したことなかった』って言ったら、卒業式の前夜に娘がCDくれてさ。
福山雅治って、歌手だったのね。毎日、聞きまくってるのよ」
宝物を語る響香の姿も、忘れられない。
そして、あのあとの、沈んだ顔も忘れられなかった。
「もう、つらすぎて、TV見られない……」
――それは、2011年3月11日から、二週間ほど経った頃のことだった。
響香は、『残響』(2009年・福山雅治)を、心の処方箋だと語った。




