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【旧稿】台所シリーズ ― 水と記憶と祈り ―  作者: 朧月


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ただいま編 第46話 霧ヶ峰からの手紙 〜透明なギターの音とともに

第46話 霧ヶ峰からの手紙 〜透明なギターの音とともに



冬道を抜けた夜の空に、ギターの透明な響きがまだ胸に残っていた。

カーナビから流れる歌の景色が、車の窓に映る。

空に月を探しながら、一車線だった道は二車線に変わり、空はますます広く、遠くへと伸びていった。


あの朝、シャッターに収めようとした、かまぼこ型の建物にまたスマホを向けた。

湾曲した横壁に大きく書かれた「Blue Rose Field」


そういえば、千歳に向かう朝、

「ブルーローズ フィールドって、なんだろうね」と横にいる哲郎に聞いた。


「青いバラの畑。青いバラは不可能って言われていたけど、今は青いバラもあるから、不可能をやってのけたって感じじゃない?」


日本列島を記録的な寒波が襲う中、帰路につく今日、2025年2月6日。

自宅のある「岩見沢」と書かれた青標識をくぐる。

いつも寒波に襲われるこの空は、月が出ていてもおかしくない晴れた夜だった。


哲郎のスマホには、メールが届いていた。


青標識の下をくぐった先には、ほんのり温かく、ちょうどいい部屋が待っている。

そのことを、響香は哲郎によって知らされていた。


メールの相手は霧ヶ峰。

まあ、帰宅したときに温かい部屋が待っていてほしい――

北国の誰もが三十年前に抱いた夢が、知らぬ間に達成されていることには驚いた。


霧ヶ峰とは、エアコンの名前だ。

北海道に住むと決めたとき、冷房のエアコンをつけるとは思わなかった。

しかし、予想以上の速度で温暖化が進んでいるのかもしれない。

北国の冷房用クーラーなど、温暖化を加速させる要因に違いないし、そもそも夏の部屋に外のひんやりした風が入り、気持ちよく眠れる瞬間に「北海道でよかった」と思っていたのに……。


汗だくでTシャツを濡らしている孫を前に、娘が言った。

「そんなこと言ったって、気がついたら日射病で家で倒れてた、ってことになりかねないよ」


その一言に、それまでの持論を、響香はそっと引き出しにしまった。


引っ越したばかりのアパートにすぐさまクーラーを取り付けた娘夫婦に倣い、

孫に敬遠されぬように、エアコンを探し始めた――。


滑稽な話だが、取り付けが終わったのは秋風が吹く十月の半ば。

冷房としての出番はまだ先。その前に、ありがたく暖房としてデビューしたのだった。


このエアコンは優れもので、留守中でも室温を知ることができ、遠隔操作でスイッチを入れることもできる。


家に帰ると、娘に預けていたこゆきが待っていた。

哲郎に、まっさきに駆け寄り、しっぽをふる。

いつもの、つぶらな瞳。


「ただいま」


キッチンの水道のレバーをひねり、さらに水を入れる。

ペロペロと飲むこゆき。


妙蓮寺の井戸の水は、50年前と変わらず、静かに流れていた。


明日は、伸子さんに電話しよう。そして、そのことを伝えよう。


そして、この岩見沢の我が家が、100年前のブルーローズ フィールドであることは間違いなかった。

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