ただいま編 第33話 間奏詩 「君の名は?」
金庫を背にした、北海道札幌市の地下歩道のベンチ。
コートと手袋、そしてお互いの体温で、きびしい外の寒さも忘れるほどだ。
しばし無言で、行き交う人々を眺める。
目の前を、正月を終えた令和の人々が、足早に通り過ぎていった。
コンクリートの床には、キャリーケースの車輪の音が小さく反響する。
遠くには、映画の宣伝用のポスターに足を止める同世代のひと。
スーツをきた仕事を開始した人たちも、足早に通り過ぎる。
響香と伸子は、井戸の話をしていた。
「どこにあったの?」と聞かれて、「妙蓮寺だよ」と答えた。
「かつて住んでいた場所だよ」と言うと、
伸子さんはお寺に住んでいたのかと勘違いして、首をかしげた。
「駅名よ。」
そう言うと、伸子さんはようやく納得した。
およそ百年前、東京と横浜を結ぶために引かれた線路。
今もそこを電車が走り、私たちは何気なく乗っている。
「妙蓮寺のつぎは、きくな。」
その言葉が、胸の奥でころんと転がった。
――ころん。
*** 間奏詩 ***
『君の名は きくな 』 ――響香
えきは、どこ?
きくな。
最寄り駅は、どちら?
きくな。
どうして、おしえてくれないの?
きくな。
きくなって。
妙蓮寺の先だ、きくな。
えっ? 妙蓮寺の先って、どこ?
きくな。
なぜ。
きくな。
どうして。
きくな。
だれが、この名前、考えた?
菊名。
東急電鉄 東横線 菊名。
まさかね。
お笑いセンスのため?
旧姓――東京横浜電鉄。
いまも
どこかで
ころん。




