ただいま編 第26話 舞台の余韻 遠くの涙
台所シリーズ 第1部 「台所でせかいをかえる」ただいま編
第26話 舞台の余韻 遠くの涙
今年も、そろそろ終わろうとしている。
未希の勤める幼稚園では、年の締めくくりに子どもたちの劇の発表会が行われた。
その舞台が幕を閉じたあと、あたたかな余韻が未希の胸に静かに残っていた。
久しぶりに、自分の仕事がうまくいった。
舞台の上で輝いていた小さな子どもたちの笑顔。
それを見守る保護者たちの拍手。
思い返すたびに、胸の奥がじんわりとあたたまる。
夕食の食卓に座ったとき、不意にテレビの画面が目に入った。
誰が見ているでもなく、つけっぱなしになっていたニュース。そこには戦争の映像が流れていた。
爆音、銃声、飛び散る破片。
どこかの街で、誰かが倒れる瞬間。
赤い色が、画面いっぱいに広がる。
未希はリモコンに手を伸ばすこともせず、ただ映像に釘付けになった。
舞台の笑顔と、画面の中の無言の絶望――。
ふたつの世界のあいだに立ち尽くしながら、
言葉にならない不安が、じわりと胸に広がる。
「今日の成功が、明日を変えるわけではない」
そんな声が、心の奥で響いた。
テレビの音だけが流れる部屋で、未希は静かに息をのむ。
しばらく画面を見つめ、そっと視線を落とした。
「私にできることって、なんだろう……」
その問いは声にならないまま、胸の奥に沈んでいった。
あの舞台で笑っていた子どもたちの顔が、ひとりひとり浮かんでくる。
――あの子たちが、大きくなるころ。
――あの子たちの未来が、どうか安心して笑える場所でありますように。
未希は、両手をそっと膝の上に重ねた。
「明日、あの子たちにどんな言葉をかけよう」
そんな思いが、静かに芽を出していった。
未希の劇② 年中さん
タイトル:おにぎりの色は、赤?青?それとも白?
【一幕】信号
(交差点。あか・あお・うたたね登場)
あか:「みんな、おはよう!きょうはぼくの番、ピッカピカに光るよ!」
あお:「ぼくもがんばるぞー!みんな、元気にすすめー!」
うたたね:(あくび)「ふわぁ……まだ朝だよ〜、ねむいなぁ。」
(ピコーン♪ 信号切り替え)
あか:「ストップ!止まれー!」
あお:「え?もう?じゃあ、すすめー!」(バタバタ走る)
うたたね:「え、どっち?ねむくてわかんない〜!」
(あかとあおがケンカしかける → うたたねが仲裁)
うたたね:「ケンカしないで〜!みんなであわせないと、あぶないよ!」
(手拍子でリズムを合わせ、笑顔に)
【二幕】絵の具
(赤・青・白が登場)
赤:「わたしは赤!いちばん目立つの!」
青:「ぼくは青。しずかでクールさ。」
白:「わたしは白。みんなをまとめるのが得意なの。」
(赤と青が押し合い)
赤:「わたしのほうがキレイ!」
青:「ぼくのほうがカッコイイ!」
白:「ストップ!いっしょにまぜたら、もっとステキになるよ!」
(赤+青 → 紫になり、みんなで歓声)
【三幕】おにぎり
赤:「私は赤!梅干しおにぎり!」
青:「ぼくは卵おにぎり!」
白:「私は塩おにぎり!」
(またケンカ → 白が拗ねてのりにぐるぐる巻き → 観客笑い)
【四幕】絵の具の続き
(赤と青がまた言い合い → 白と仲間たちが協力)
(全員でずっこけ → 笑い → 協力して虹を描く)
【五幕】フィナーレ
(舞台明るく、虹の背景が広がる)
♪ピカピカの空
まるでうたってる
みんなで笑えば
きっとつながる
すぐにでも
わかりあえるよ
色と色が
ひとつになるまで♪
全員:「やったー!」
(父兄が登場、おにぎり配布 → 観客も「いただきます!」)
えり(小声):「わたしも、すこしだけ色をまぜられたかな…。」
(幕)
その夜、雪がしんしんと降った。
暗いうちに目が覚め、物置からママさんダンプを出そうと外に出ると、ちょうど朝日が昇るところだった。
きのうの子どもたちの声が、聞こえてくるようだった。
あかいろ
あおいろ
けんかした
しろはこまった
そっぽをむいた
でもやっぱりきになって
しろをいっぱいいっぱい
それはいっぱい
よんできて
あっちこっちと
はしっているうちに
みんなで、こけて
おっとと
きれいな
にじの絵が、かけちゃった
♪ピカピカのそら
まるでうたってる
みんなで笑えば
きっとつながる
すぐにでも
わかりあえるよ
色と色が
ひとつになるまで♪
きれいな朝日だった。
ひとつになることは、どちらかが一方の色に染まることじゃない――。
そのことを、この雪の日の朝日が、そっと教えてくれるようだった。




